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異世界行ったら弱すぎた  作者: 痛痴
1章 異世界オタクと物語の始まり
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2話 松明の光

ー謎の草原ー


「クソオタクごらぁー。出てこいやぁ!!」


 よくよく考えたらあのオタク、百合アニメの情報しか齎さなかったじゃねえか。

 畜生め。畜生め。畜生め!

 大体さ、人を拉致っといて説明も無しにサバイバルさせるなんて、いくら未来の俺の承諾があったとしても、犯罪だと思うんだが? っていうか、なんで未来の俺はおkしたんだよ。俺がそこまで愚かになるわけがない。駄目人間だろうが、そういう頭は良い方なんだよ。つまり、多分だが騙されたんだな、俺は。卑劣な罠にかけられたんだろう。そう! あの憎きオタク共になぁ!!

 そんな可哀想な俺に同情をしていると。


 ぽつ。ぽつぽつ。


 あーあ。雨まで降ってきやがったよ。夜ってだけで寒いのに、こんなんじゃ凍死してもおかしくねえ。あのオタク共は俺を殺したいのかよ。

 俺は着ている皺くちゃのスウェットに染みた雨水を絞り取りながら、考える。


「どうすりゃいいかね」


 近くに人間の臭いはしない。明かりや声が全く無いのだ。こんな所で野宿しろと言われても無理なもんは無理。

 これが昼だったらやりようがまだあったんだが。


 あん? 誰だ! 今オタクと喋ってたせいじゃねえか、とか言った奴。

 違う。あれは俺のせいじゃない。きっとオタクの策略だ。

 暗い夜の世界には月は無く、無数の小さな星々が仄かに地表を照らしている。天の川は十字に流れていて、ここが異世界なんだとよく分かった。


 ていうか今気づいたけど、なんで雨降ってるのに星が見えるんだ。ああ、もう意味わからん。


「ふざけんなーーーーー!!!!」


 俺は咆哮した。闇夜に怒りをぶつけた。

 すると光が現れた。


「おお!」


 地平線の彼方に点のように見えたのは、紛れもなく赤々と燃える炎の色で、それは則ち文明の色であった。

 どんな野蛮人でも、出会った同種族をすぐには殺さないだろう。少なくとも、一ウホりぐらいはあるはずだ。相手がヤバイ奴でも逃げる隙はあるはず。


 炎は近づいている。最初の方は豆粒よりも小さかった光が、ちょっとずつ大きくなっていく。


「うん?」


 でもちょっとおかしくないか? 炎はまっすぐこちらに向かってきているように見えるが、なぜ相手は全くの反応が無いのだろうか。炎を振るとかいろいろあると思うのだが無反応で近づいてくる。ていうか、近づく速さやばいな。


「……まあ、大丈夫か」


 きっとなんか超足が速いコミュ障の人なんだな。そう思うことにしよう。そっちの方が良い。

 どうせ危なかったら逃げるんだし、今逃げても雨で体温奪われるだけだしな。

 ここは、あの炎の持ち主を待つべきだ。


 俺は予想する。

 きっとあれだろうなー。異世界での初めての出会いだ。

 おそらくは、いや十中八九オッドアイの美少女吸血鬼であることは間違いない。これは別に俺の願望ではないぞ。


「統計よ」


 そう、俺は暁美ほ●らだ。だから、ワルプルギスの夜の出現予測を誤る訳がないし、ましてやオッドアイの美少女吸血鬼の出現を誤るなんてことはありえない。


「人外ヒロインよ、来い」


 もしこれがノクターンとかだったらサキュバスだろうが、これは吸血鬼ヒロインルートだ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。


 そういやなろうといえば俺の転生特典って何だろう。

 これはどちらかと言うと転移の分類されるが、そんな細かいことはどうでもいい。異世界系にはチートが必要だ。じゃなきゃ、ただの現代オタクが過酷な異世界でハーレム作れる訳がない。

 いや、勿論リゼ●みたいなやつもあるよ。でも、あれとかは特殊だからね。それだけで全体は語っちゃいけない。


 今んとこ、ステータス画面とかは表示されてないな。能力の内容告げない、とかは無いだろうしこれはもしや武器?


 と言っても、俺の柔い両手には何か握られている訳でも無いので、必然的に残る可能性はスウェットのズボンのポケットとなる。


 俺は早速ポケットの中に手を突っ込んだ。左は、特に無し。右も、特に……うん?


「なんだ? 紙、というよりメモかな」


 暗くて内容は判別できないが、何かが書かれたメモ用紙が右のポケットには入っていた。おそらく、重要な情報が載っているはずだが、どうもあたりが暗くて読み取れない。


「使えないオタクだな、ちくせう!」


 このままだと雨に濡れて後で読めなくなるので、ポケットにそれを戻した。


 そうこうしている内に、炎は近づいてきた。大体、1キロぐらいだろうか。

 俺は少し変に思った。ここまでの距離にいるにも関わらず、相手の姿が全く見えない。シルエットぐらいは見えてもおかしくないと思うのだが。


「まあ、吸血鬼だからな」


 きっと吸血鬼には闇に溶け込む能力とかがあるのだろう。それで松明が当たっても、光が反射しないのだ。


「早く来ないかなー。オッドアイの美少女吸血鬼♪」


 彼女が来てくれれば、松明の光でメモも読めるし、もしかしたら雨風を凌げる場所も用意してくれるかもしれない。


「おーい、おーい」


 俺は叫んでみた。すると、どうだろう。ちょっと松明のスピードが上がっている気がするのだ。


「おーい、おーい、おーい」


 更に叫ぶと、よりスピードが上がる。もはや松明との距離は二百メートルと無い。何であっち側がまだ見えないのかは分からないが、俺は叫ぶ。


「こっちだー! おーい、来てくれー」


 そうして俺と松明は出会った。



ーーーーーーー



「って松明だけじゃねえか!」


 俺は突っ込んだ。

 大阪の漫才ぐらい本気で突っ込んだ。


 俺の元に来たのは、一本の独りでに浮く松明だった。

 心霊現象っぽいが俺は負けない。

 これは俺の突っ込むときや。

 そう俺の中の似非関西人が叫んでいた。


 幸い、この松明は敵対的でなく俺に突っ込まれると、「てへ、バレちゃった?」とメインヒロインばりの可愛さを持って、くるくると火の弧を描きながら回っている。何? お前が俺の嫁になるの?


「お前、何なの?」

「……」


 何も応えない。話すことはできないようだ。

 だが、感情表現は豊かで、身体全身をブンブン振って喜怒哀楽を上手く伝えてくる。


 ブンブン、ブン、ブンブン。


「ふむふむ、なるほど。って分かるか! ただでさえコミュ障の俺が何で初手からこんな難易度高い異種族交流しなきゃいかんのか。地味に動きが可愛いのが逆に腹立つ!」


 ブーン。

 心なしか松明の動きが切なさを帯びた気がした。


「いや、すまなかった。なんか、ごめん。お前のせいじゃないよな」


 ブンブン♪

 松明は気にすんなとばかりに、くるくる回る。

 コイツ、良い奴だ。

 俺は確信した。


「ところで、なんか雨風凌げる場所知らない? 洞窟とかで良いんだけど」


 俺は松明に尋ねた。

 なんか変な感じがしたが、ここは異世界だからな。

 ヒロインが松明なんてこともあり得るんじゃね、きっと。


 松明は心当たりがあるようで、ついてこいって感じでふわふわと移動していく。俺はそれを追いかけた。

 俺の速度を気にしてか、度々ホバーしながらこちらを待ってくれる。ありがたい。


 因みに俺は部屋から転移したのにも関わらずスニーカーを履いていた。自分の奴ではない。きっとオタク共が用意したんだろう。

 まあ特殊機能とかは付いてきているいないようで、濡れた草によって着実に水が染みてきている。ぐちょぐちょで気持ち悪い。


 1、2キロは歩いただろうか。


 ブンブンブン。


 松明がその場で三回転する。

 どうやら目的地についたらしい。


 目の前には崖があり、シダのような(異世界なのでシダではないだろう)植物が這っていて元々の土が何も見えなくなっている。


 松明は崖に近づくと、ある地点に自分の火を付けた。

 その火はあり得ない速度で植物を灰にしていく。

 湿った植物が、松明程度の火力でここまで燃えるはずが無い。


「魔法ってやつか……」


 地味だが、恐ろしい魔法だ。

 例えば、マッチ一本の炎で森を焼き切るなんてことも出来るかもしれない。

 少なくとも、俺ぐらいであれば簡単に燃やせるだろう。


 俺が炎にビビってる間に、植物は燃え尽きたようで崖の表面が顕れた。

 土ではない。石だ。

 しかもレンガのように積まれている。

 いや、実際レンガなのだろう。

 明らかに人工の構造部だ。その灰色の威圧感はヨーロッパ辺りの砦を思い出させた。


「ここが扉ですかね?」


 松明はブンブンと頷いた(ような気がした。)

 俺は、何故か燃えていない木製の扉の取手に手をかけ、ギギッ、と音を立てながら中に入っていった。



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