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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

窓ぎわの東戸さん~東戸さんの始業式~

作者: 車男

 「あ、東戸さん、おはよう!登校日ぶりだね!」

「西野さん、おはよう~」

8月末の2学期始業式。始業式って、9月1日のイメージだけれど、今年は少し早めになった。みんなは夏休みが短くなってぶつぶつと文句を言っているけれど、私は東戸さんに一日でも早く学校で会いたくって仕方なかったから、とてもうれしい!

「今日は無事に、上履き持ってきたんだね」

私はすぐに、東戸さんの足元に目を落とした。登校日は靴下を履いていないどころか、上履きも忘れてしまった東戸さん。その日一日完全に裸足で過ごして、かなりうれしそうだったのを覚えている。そんな東戸さんも今日はさすがに上履きを持ってきていた。けれど靴下は履いておらず、素足に上履きを履いている。

「うん、お母さんに何度も確認されたからねえ。でも一回忘れたんだけど・・・。慌てて取りに帰ったよ~」

「あ、そうなんだ!気づいてよかったね!」

「私は別に今日も裸足でよかったんだけどねえ。上履きってずっと履いてると気持ち悪くなるんだよなあ」

「私は別にそんなことないけどなー。靴下履いてないからかな?」

「えー、私、上履きも嫌なのに、その上に靴下なんて、もっとやだよー」

それが普通なんだけどなー。やっぱり東戸さんは、夏休み明けても東戸さんだ!

 今日一日の流れは、体育館での始業式、大掃除、ホームルームをして、終わり。昼前には帰れるらしい。朝のホームルームでそんな話を聞いている東戸さんは、さっそく上履きを椅子の下に脱ぎ捨てていた。素足を机の棒に乗せて、足の指をくねくねと動かしている。

「さ、では始業式なので体育館に移動します!廊下に並んでください」

出席番号順に廊下に並ぶ。東戸さんは、先ほどまで脱ぎ捨てていた上履きを、かかとを踏んで履いていた。新学期になって新調したのか、見た目はまだ真新しい上履き。かかとが完全につぶされている・・・。体育館までの道、上履きをパカパカさせながら歩く東戸さんの足元に注目しつつ、東戸さんと夏休みの話をしながら歩いていった。

 体育館には空調がなく、8月末とは言ってもかなり蒸し暑かった。窓は開いているが、座ってじっとしているだけでも汗がじんわりと首筋や額を伝う。前に座る東戸さんは、上履きを脱いで横に置くと(別に脱ぐ必要はないのだけれど・・・)、女の子すわりをしていて、赤くなった素足の足の裏がこちらを向いている。さっき脱いでいたせいか、どこで付いたのか、細かな砂やほこりがうっすらとついている。じーっと見ていると、足の指がくねくねと動いて、とてもかわいい。

「・・・西野さん?」

「・・・あ、ひゃい!」

ぼーっと東戸さんの足の裏を見ていると急に声をかけられてびっくり。

「うふふ、西野さん、私の足、みてたでしょ?」

「あ・・・、うん・・・、かわいくってつい・・・」

「もう、はずかしいなあ」

普通なら疑問に思われても仕方ないのに、私と東戸さんの間柄なので、そんな心配もない。そのまま前を向いて、相変わらず足の指をくねくねと動かす東戸さん。まるで私に足の裏を見せつけてくれているようだ。

 始業式は表彰式も併せて40分くらいで終わった。最後の校歌斉唱で全員立つことになったが、東戸さんは上履きを横に置いたまま、素足で歌っていた。そのまま礼をすると、私たち1年生から退場、ということになった。気になって東戸さんを横目で見ていると、上履きを履くことなく歩き出そうとする。

「ちょちょちょ、東戸さん、上履き上履き!」

「あー、忘れてた!」

そういって、上履きを手に持つと、そのまま歩き出す東戸さん。後ろも詰まっているし、お互いにそのほうがありがたいと思ったので、私は何も言わず、一緒に教室まで帰ることにした。

「・・・東戸さん、裸足、気持ちいい?」

「うん、廊下って、暑い日でもひんやりしてて気持ちいいよー」

教室までの廊下や階段を、裸足でペタペタと歩く東戸さん。周りの、事情を知らない人から見たら、上履きを手にもって裸足で歩く様子は疑問でいっぱいだろうけれど、私にはわかる。朝から上履きを履いていて、体育館でずっと脱いでいた上履きをまた履きたいとは思わないよね・・・。

 教室につくと、すぐに大掃除になる。登校日には昇降口掃除をしたけれど、今日は私と東戸さん、それにクラスの男子二人で、中庭掃除担当だった。

「東戸さん、今日は中庭だって!いこうー」

「はーい!」

私が教室の入り口から声をかけると、東戸さんは上履きを席の下に置いたまま、てててと裸足で駆け寄ってきた。

「やっぱり、上履きは履かないんだ?」

「だってー、このほうが気持ちいいもん!大丈夫だよ!」

本人が大丈夫っていうならまあいいか!私は裸足の東戸さんと一緒に、さっきせっかく登ってきた階段をまた降りる。

 中庭は、校舎の一階から直接出ることができる、ゴムチップで覆われた空間のことだ。普段は昼休みにベンチで話をしたりする人がいるくらいで、あまり使うことはない。上履きのまま出ることができるので、掃除用具のほうきと雑巾をもって、私はそのまま、東戸さんも裸足のまま中庭へ。

「あち、あち、あっちー」

中庭に一歩足をつけた東戸さんは足を左右パタパタと上げていた。直射日光によって、地面がだいぶ熱せられていたらしい。

「もうー、大丈夫?上履き持ってくる?」

「うー・・・、あ、でもこっちのほうは大丈夫」

どうやら熱いのは校舎と中庭の間のコンクリート部分のみのようで、ゴム部分はそんなに熱くないらしい。

 ほうきで掃いていくけれど、そんなにごみはたまっていない。途中で先生に言われて、周りの草抜きも一緒にすることになった。男子も含めて、きちんと上履きを履いている中で一人だけ裸足で草抜きをする東戸さんに、ドキドキする。最後に蛇口で手を洗っていると、東戸さんは手洗い場の向かいにある足洗い場に立っていた。私にきらきらとした目を向ける。

「ねえねえ、西野さん、いまからいい?足の裏、こんなになっちゃった」

そう言って、片足を曲げて足の裏を見せてくれた。ゴムの地面だからなのか、いつもより黒っぽい汚れが、土踏まず以外の部分を真っ黒に染めていた。

「わ、すごいね。いいよー、使ってない雑巾あるから!」

「やったあ」

蛇口をひねって、注がれる水に素足を差し出す東戸さん。熱せられた足に冷たい水がかかって、とても気持ちよさそう。

「んー、なかなか汚れが取れない・・・」

時折足の裏を確認しつつ、ごしごしと手で足の裏を洗う東戸さん。

「大体取れたら、あとは私が拭くよー」

近くのベンチに腰掛けて、私はそんな東戸さんを眺めていた。まだ掃除の時間はあるし。もうちょっとだけ見ていたい。

「ありがとうー。じゃあ、お願いします!」

だいたい洗い終わった東戸さんは、ベンチに座って、私はそんな東戸さんの前にひざまづくと、夏休みの間に日焼けして、でも綺麗な、水滴のついた東戸さんの素足を雑巾で拭いていく。足の裏は、まだかすかに黒っぽい汚れがついていた。それも雑巾で拭いていくと、元のきれいな東戸さんの足の裏に元通り。

「くふふふふ・・・・。うにゅう・・・」

相変わらず拭かれている間の東戸さんは、くすぐったさに悶えている。

「はい、きれいになったよ。もう片方も!」

「はーい」

そんなくすぐったさも気持ちいいのか、躊躇なく私の前に足を差し出す。

「あっ、ちょっ、西野さん、くっ、くふふふふふふ・・・」

そんな東戸さんがとてもかわいくって、左足はいつもより弱めに、長く、拭いてしまった。拭きおわった後の東戸さんは、いつもより疲れて見えた。ちょっとやりすぎちゃったかな?せっかくきれいになったのに、上履きがないせいで、教室までまた裸足のまま戻る東戸さん。帰り際にまた拭かなきゃな。


 教室でのホームルームは、宿題提出や配布物の確認があって、ひと段落。さて今日は終わりかな、というとき、急に警報が鳴りだした。みんな最初はざわざわしてて、私もびっくりしたけれど、どうやら抜き打ち避難訓練らしい。火災が給食室から発生したということで、全員グラウンドに避難することになった。

「落ち着いて、速やかに廊下にさっきと同じように並んでください!校舎内では走らず、グラウンドに出たら、先生について走ってくること!では移動!」

みんなバタバタと廊下に移動する。私は東戸さんの足元が気になって見てみると、ホームルームの間もずっと脱いでいたのにいつの間に履いたのか、上履きをかかとまできっちりと履いていた。

「東戸さん、上履きちゃんと履いてるんだね!」

「だって、グラウンドに行くのに裸足だと、怒られるかもしれないし・・・」

さっきも裸足だったのに何か違うのかなと思ったけれど、さすがにグラウンドも裸足のまま行くのは気が引けたらしい。けがするかもしれないし、そのほうが安心だもんね!

 先生の言葉通り、みんな廊下や階段は黙って早歩き、昇降口から先は一気にダッシュ!普段やらないことだから、いけないんだろうけど楽しんでいる人が多い。私も、上履きのままグラウンドの砂の上を走っていると、イケナイことをしているようでドキドキしていた。

 無事に全員いることがわかると、座って校長先生や消防士さんの話を聞くことに。いつの間にやら、グラウンドには消防車と救急車が止まっていた。真っ赤なボディーが日光に照らされて輝いている。私たちも日光の真下にいるので、できれば中に早く入りたいな・・・。

 砂のグラウンドに直接座るのは、制服が汚れちゃうので気が引ける。男子や女子の一部はかまわず体操座りをしているけれど、私はお尻をつけないギリギリで、スカートを抑えて座っていた。東戸さんの方に目を向けると、体操座りをして、上履きを手で撫でているところだった。そのまま見ていると、おもむろにかかとを手で押さえると、スポッと両足とも素足をそこから出してしまった。かかとを出し、足先まで出してしまうと、素足を上履きの上において、また手を膝のあたりで組んだ。ここまでしっかりかかとまで履いていたから、よく我慢したほうだと思うよ・・・!

 校長先生の話が終わって、消防士さんの話になると、東戸さんは手で砂を弄びだした。そして、何を思ったのか、素足を上履きから離すと、両足をグラウンドにつけてしまった。そのままグラウンドに擦り付けるように足を動かし、足指で砂をつかんだりしている。その様子を見て、私は登校日にも、昇降口の砂で遊んでいたのを思い出した。裸足で砂に触れるのって、気持ちいいのかな。消防士さんの話が終わると、全員立って挨拶をすることに。東戸さんは上履きを履きなおすことなく、裸足のまま立って礼をした。その後教室に戻ることになり、東戸さんは裸足のまま、上履きを手に持って、

「暑いねー、あたまがぼーっとするよー」

「そうだね、って、なんで裸足になってるの、東戸さん!」

「だってー、暇だったんだもん、足で砂に触ると、気持ちいいんだよ。特にグラウンドの砂はさらさらしてて気持ちよくってねー」

そう話しながら、ぺたぺたとグラウンドを歩く東戸さん。昇降口に上履きの底を拭くための雑巾が設置されていて、先生たちがしっかり底を拭いて上がるように言っていた。東戸さんもその雑巾で軽く足を拭くと、

「西野さん、また後で、お願いしてもいい?」

「足?いいよー。また教室行ったりするもんね」

もうすぐ放課後だし、きっとこの後は裸足で過ごすんだろうなと思っていた私はそう応えると、

「ありがとう!・・・上履きはここにおいとこう」

と言って、東戸さんは上履きを自分の靴箱に入れると、裸足のまま階段を上りだした。完全には拭ききれなかったのか、足の裏を砂で白っぽくしたままの東戸さん。一日通して、上履きを履いてない時間のほうが長い気がするよ、東戸さん・・・。


つづく

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