第5話 +αの三人兄妹
デートはフユちゃんどんな服を着てくのかなぁ……。
得体の知れない胸の締め付けを感じてから、冬樹の脳内はフユキのことばかり。可愛いくて優しいし、人懐っこさもある。
あの子は本当に僕なのかな?否定したい気持ちを半分に、現実から目を背ける……
って、そうじゃねえぇぇぇぇえ!そうじゃねぇ!
僕の部屋は?私物は?何で僕の部屋がフユキの部屋になっちゃってんのよ……
フユキがニコニコしながら、台所でプッチンしたプリンをふるふると揺らしながら持って来てくれた。
友奈はと言うと、先にフユキから受け取ったプリンをスプーンで突きながら感触を楽しんでいる。
そんな楽観的に遊んでいるけど、きっとフユキは何故自分の部屋自に僕と友奈が居たのかを疑問に思っているぞ――。その証拠にフユキは笑っているけど、目線は合わせてくれない。そして何より僕自身が、気になる事があったら同じ態度を取るからだ。
顔では笑っているけど、心の中では考えている事があるハズだ……。
フユキがプリンを乗せたお皿を冬樹に手渡し、座布団に座った。
「ねえ、友奈と冬樹くん。さっき私の部屋で何をしていたの?」
げえっ。
一段落付かせたら直球で聞いてきたぞ。考えが纏まったら吐き出すのは、やっぱり僕に似ているな。ってそんな事より、何て誤魔化そうか……。本当の事を言ったら状況が複雑化してしまうし、何よりどうなってしまうのか分からないから恐い……
冬樹は助けを求めるが如く、友奈の方へ向く。が、友奈はプリンを突くスプーンをピタリと止めて硬直している……目だけは左右に泳がせまくりながら――
ダメだ。僕が上手い言い訳をするしかない。
「ぼ、僕の寝る所はどこかなーって…。家の中をた、探索していたんだよ!」
「そ、そうだよお姉ちゃん!お兄ちゃんがお姉ちゃんの部屋に行ったから、私が止めただけなの!下着とかタンスを漁っていた訳じゃないから大丈夫だよ!」
バカだろ友奈。
僕も一度は想定した事態だけど、今はそんなフユキの疑惑を募らせる事言うなよ……(嫌われたくない)
でもそれが功を制したのか、話題が知られたくない事から遠ざかった。みたいだが――
「え!?下着!??冬樹くんが私の…?」
フユキは顔を急速に赤らめて目を見開いた。
そら言わんこっちゃない。それに何か勘違いしてない?
「え、えっとだな友奈。もう一度説明を…!」
誤解されたら敵わん。友奈にもう一度説明を求めるが、
「よかったぁ」
「「!?」」
何が一体よかったのか。フユキは息を小さくつきながら笑う。
予想外な反応が返ってきて呆気にとられる冬樹と友奈。
「いや、あの、机の中とか見たのかな〜って」
僕のパソコンと同じように、机の中に見られたらマズい物があったという事か…。それより、下着漁ってないから。
その後、下着の件は友奈の説明と、僕の必死な補足によって事なきを得たのだった……。
それにしても、フユキが下着ドロそっちのけで気にしていた事は何なんだろうか?
つまり、注意がそっちに向いていたから、僕はフユキのドン引きした顔を見なずに済んだ訳で――
「ま、まあ見てないのならいいの。それより冬樹くんは居間で寝て貰ってもいいかな?仏壇が置いてある部屋は、お婆ちゃんが寝てるし、部屋はここしかないの」
「ああ。大丈夫だよ」
フユキはテキパキと机を片付けて、真っ新な客人用の布団を敷いてくれた。
「明日は水着を買いに行ってもいいかな?ほら、友奈もまだ買ってないって言ってたわよね?」
「え?ああ、うん…」
友奈にさっきまでの元気が無い。
顔では笑って返事をしているが、多分別の事を考えているのだろう。
「さて、そろそろ寝ましょうか。明日は10時くらいに出発でもいいかな?」
「その時間にしよう。友奈もいいよな?」
「うん。大丈夫だよ」
「おやすみ」と言って、二人は友奈とフユキは自分の部屋がある二階へと上がって行ってしまった――。時刻は午後11時。
部屋の電気を消して布団へと勢いよく倒れる冬樹。
今日は本当に疲れた…。擦り減った精神と疲労で眠りに就きたい――。が、色々な事を考えてしまう。
僕と彼女のこと、冬樹とフユキ。考えれば考えるほど訳が分からないし、僕の部屋の件もある。それにあの事故について、母さんと婆ちゃんは何かを隠している……。
ダメだ…、眠れないな……明日はクマを作っての『デート』になりそうだ――。
「はぁ……」
明日のデートへの楽しい気持ちとは裏腹に、八方ふさがりに近い状況に自然とため息が出た。
『トントン』階段からフユキか友奈が降りてくる音がした。時刻は0時過ぎ――
トイレかな?と思ったが、居間の前で止まった。
「お兄ちゃん……」
友奈の方か。
「どうした?」
「入ってもいいかな?」
「どうぞ」とこちらの返事を聞く前に友奈が居間へと入ってきた。
「どうした友奈?こんな時間に。」
敷いてある布団の横に座る友奈。
「お兄ちゃん…私恐いの。」
「フユちゃんの事か?」
「ううん。お兄ちゃんの部屋が無くなっちゃったでしょ?それで私さっき考えてたの……」
「僕の部屋にあった物か?ゲームデータもお前が熱中していたテトリスも消えちゃったもんな――」
「違うの…。お兄ちゃん……」
「ん?」
消え入りそうな声だったから聞き取れなかった。
「お兄ちゃんも消えちゃうんじゃないか。って、恐いの…物は私の物も部屋にあったけど、そうじゃない。明日起きたらお兄ちゃんが居なくなってそうな気がして恐くなったの……」
友奈は今にも泣き出してしまいそうだ。
寝る為に部屋を暗くしたら色々と考えてしまったのかな……。
「お姉ちゃんがさっき言ってた水着のこと。私はお姉ちゃんに言った覚えがなかったけど、お兄ちゃんには言った覚えがある」
ああ。確かに聞いたな。婆ちゃんと三人で海に行きたいね。って話になって、スクール水着しか持っていない友奈はそんな事言ってたっけ……。
「でもそれは、お姉ちゃんに伝えた別の私がいるって事で、私じゃない。それでもしかしたらお姉ちゃんがいた…別の私がいる世界にお兄ちゃんが行っちゃうかもって……」
友奈はポロポロと泣き出してしまった。
「うぅ……お兄ちゃん……」
そんな事を友奈は気にしていたのか……。ここまで妹に想われて、ちょっと恥ずかしい。
でも、別の友奈か……まるで『パラレルワールド』があるみたいじゃないか。でもそれは、解決の糸口を少し見つけ出した気がした――
泣きじゃくる友奈の頭をそっと撫でる。
「大丈夫だよ友奈。僕はどこにも行かないし、友奈を置いてどっか行ったりしないよ」
「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
――。5分くらいだろうか。友奈が泣き止むまで頭を撫でてあげていた。
思い切り泣いたらスッキリするタイプなのか、友奈は優しく微笑み「ありがとうお兄ちゃん」と、言い残して居間を後にした。
まさか滅多に弱みを見せない友奈が、僕の前で泣くとはな……。それに僕が友奈を宥めていた筈なのに、逆に友奈から元気を貰った気分だ。僕が錯乱した時には友奈が優しく包んでくれたし、友奈が不安や心配を抱え込んだ時には僕が支えていってやろう、
たった二人だけの兄妹なのだから――