第1話 一方通行のパラレルワールド
初めまして。作者のヒイロです。
普段は趣味でブログを書いております。
小説を書くのは初めてで至らない点があると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
気になったなろうのマナーや、書き方など教えて貰えたら恐縮です。
2019年夏。
セミのうるさい鳴き声が耳を突く。カラッとした太陽が照りつける夏真っ盛り。
僕は今月17歳になった高校二年生の佐藤冬樹。
どこにだっている普通の高校生だ。
普通の成績に普通の身体能力、もちろん彼女だっていない。これって普通だよね?
冬樹は自問自答しつつ、内容が入ってこなかった読みかけの漫画を置いて扇風機の前に体を起こす。
「暇だなぁ…」
特にやる事もなければ、予定もない。かと言って、夏休みの宿題もやる気になれない。
選択肢はゲーム、漫画、スマホくらいしかない。時間もダラダラと過ぎて、こんな生活を繰り返すだけ。
「…」
「散歩行ってくるわ」
冬樹は隣に座っている三つ歳下の妹、友奈に確認を取るように呟く。
「んあ? じゃあ、アイス買ってきてよ」
チラッとこちらに一瞬向くが、すぐスマホに目を落とす。
「へいへい」
「スーパーカップのバニラが食べたい」
もうこちらに振り向きもせず。
「…。」
こうなる事は予測していたが、別にパシられたい訳ではない。
目的が欲しかった事と、行動する事を誰かに宣言したかっただけだ。
財布を手に取り、少し寝癖が付いた髪に手ぐしを通す。
婆ちゃんには、夕食の買い物を頼まれたら敵わないので、「出かけてくる」と手短に伝えて玄関を出る。何だか、扉が重く感じた。
「ふぅ」
体の毒素を抜くように小さく溜息を付き、ゆっくりと歩き出す。
目的はアイスしかないが、とりあえず遠くに行きたかった。妹の頼まれは一番最後だな。
「どこにいこうか。手持ちは三千円もあるし、遊んで帰ってもお釣りがくる」
少し嬉しくなった冬樹は口元を緩める。周りの人から見たらだらしなく見えるかもしれない。
「ん?」
「あの人何やってんだ?」
バス停に向かう途中の寂れた神社で、女性が本堂を背にして座っている。それに小刻みに震えているのが分かる。
具合が悪いのか?冬樹は心配になり、その女性の元へと駆け寄る。
「大丈夫ですかッ!??」
歳は同じくらいだろうか?
その女の子の顔を見てギョッとする。えらく顔色が悪い。
ピクッ。女の子は応える様に反応し、目をゆっくり開けた。女性は妹の友奈と同じく、クッキリとした二重と鼻筋。薄く化粧してるっぽいし可愛い…。しかも少し友奈に似ているぞ?けど、今はそんな事を言ってる場合ではない。
「大丈夫ですか!?」
可愛い子を目の前にして、目が左右に泳ぎながらも、再度問いかける冬樹。
「ハアハア…ありがとう。少しクラクラしてしまって…」
女性は冬樹の目に焦点を合わせ弱々しく微笑み、クタッと力なく倒れる。
「ッ…!」
ヤバイんじゃないか?救急車を呼ぶ!?
いや、家から近いからとりあえず友奈と婆ちゃんの力を借りよう。
ポケットからスマホを取り出し、友奈にSOSを出す。
女の子をおぶり家へ駆ける。シャンプーなのか、後ろから常にいい匂いがしてたのは内緒。
家の前では事情を聞いた婆ちゃんも友奈と一緒に待っていた。
「お兄ちゃん!」
「冬樹!」
てんやわんやな感じで駆け寄ってくる友奈。婆ちゃんは落ち着いていて、玄関の扉を開けてくれた。
乱暴にサンダルを脱ぎ、ドカドカと廊下を走る。
居間には布団が敷かれていた。ゆっくりと背の女の子を下ろし寝かせる。先程より顔色が良いみたいで、呼吸も落ち着いている。
胸を撫でおろした僕は息をつきながら、勢いよく座る。
一安心して腰が抜けたのかもしれない。
「お兄ちゃん、この人は…?」
心配そうな顔をして問いかけてくる。
「神社で具合悪そうにしてたんだよ」
全身の力が抜けた冬樹はダルそうに答える。その瞬間、
「うわあぁぁぁ!」
寝かせていた女の子が勢い良く叫び、起き上がった。
長い髪をたなびかせてキョロキョロと辺りを見回す。
ビックリした友奈は僕を盾にするように後ろに隠れた。
「ここは家…?」
まだ混乱しているらしい。女の子はそう呟く。
「そうだよ。 神社で具合悪そうにしてたんだ」
「…。」
「ありがとう。でもよく私の家が分かったわね」
ん?何言ってんだこの子。
その時、後ろに隠れていた友奈がひょこっと、女の子の様子を窺うように頭だけを横に出す。
目線が合う友奈と女の子。
「あっ!友奈が助けに来てくれたの?」
「この人、友達??」
何で友奈の名前を知っているんだ?
目線で友奈に、知り合いかどうかを問いかけるが、知らないとばかりに困った表情を浮かべている。
「えっと…、彼氏さんかな?」
応えが返ってこない友奈を不審に思ったのか、こちらの女の子も困った表情を浮かべて僕に目線を合わせてくる。
というよりこの子、凄く友奈に似てないか?
さっきも思ったが、まじまじと顔を見て確信した。姉妹と言われても誰も疑わないだろう位に瓜二つだ…。
もしかしたら親戚の子か?
「いや、僕は彼氏じゃないよ」
全然違う事を考えながら、とりあえず先程の問いに答える。
「ところで、よかったら君の名前を教えてくれないかな?」
一瞬だけ時が止まったのかと錯覚する間が空いて、
「私?」
「冬樹よ。佐藤冬樹」
「そのままの冬に、樹って書くの」
僕は目を見開いた。同姓同名とはビックリした。
でも、僕が驚いた事はそれだけではない。
この子が目を覚ましてから、婆ちゃんの様子がおかしい。
顔を強張らせて名前を告げた時には、尋常じゃない驚き方をしていたのを僕は見逃さなかった。