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思い出を食べられて。  作者: とまとケチャップ
2/2

2話 おばあちゃん①

引き続きお読みいただきありがとうございます。

良ければご感想をよろしくお願いします。

いつのまにか目をつぶっていた俺はゆっくりと目を開ける。すると、目の前には少し古いが大きい家があった。木造建築で、昭和を思い出させる、そんな家だ。


(懐かしいでしょ。あ、私たちの声は思い出の中の人達に聞こえることは無いから安心して下さいてね)


少女の陽気な声が頭の中に響く。


(これは、ばあちゃんの家か)


(そうですよ。山田さんが大好きでたまらなかったおばあちゃんですよ)


小学四年生の夏、両親は共に出張で家を開けることになった。だから俺は夏休みの間ばあちゃんの家で預かってもらう事になったんだ。ばあちゃんの家まで電車とバスに乗って1人で来たのを覚えてる。


ばあちゃんの家は少し山に入ったところ、つまり田舎にあって、土地勘もないだだっ広い土地を1人で歩きまわって、辿り着くのに苦労した。


確かばあちゃんは俺が小学生に上がる頃にじいちゃんを亡くしてて、この少し大きな家で1人で住んでた。


(懐かしいな、ばあちゃんの家)


(ねぇ、なんで『おばあちゃん』じゃなくて『ばあちゃん』って言うんですか?山田さん小学生の時『おばあちゃん』って呼んでたじゃないですか)


(うるさい)



「1人で遠いところまでよく来たね翼ちゃん。ちょっと古いけど大きい家だからね、ゆっくりしてってね。さっ、家の中に冷たいジュース冷やしてあるから飲みに行こっか」


「うん!あのね、おばあちゃん、僕ね、おばあちゃんの家に行くの楽しみだったからね、全然しんどくなかったよ!」


「そうかい、翼ちゃんは本当に偉いね」



(ほら、山田さん)


(うるさい)


別に少女の顔が見えたわけではないが、俺の事を小馬鹿にして笑ってる顔が想像出来た。


(な、これってさ、夏休みの間の1ヶ月ちょっとをずーっと全部巡るのか?)


(違いますよ、田中さんが思い出として記憶に残しているものだけを巡っていきます)


(そんなの思い出なんて何も覚えてないんだけど)


(そんな事ないですよ、思い返してみてくださいよ、夏休みの思い出を)


(いや、思い返せと言われてもな)


(だって考えてみてくださいよ、私今山田さんの思い出食べに来てるんですよ。ここに思い出なかったら、私たち何しに来たんだってなるじゃないですか)


それもそうだな、少し考えてみるか。小さい頃から運動も勉強も苦手で人との関わりも苦手だった俺は、ばあちゃんの家の近所の子供たちとも遊ばなかった。ばあちゃんもずいぶん歳だったし、どこか遠くへ出かけたこともなかった。ん、そうか、一つだけ思い出があったな。


あれは、ばあちゃんがとても楽しそうな顔で難しい本を読んでた時だった。




「ねぇ、おばあちゃん」


「なーに翼ちゃん」


「なんでそんな難しい本読んでるの?」


「本はね、世界を広げてくれるのよ」


「世界?」


「そうよ。おばあちゃんが小さい時はね、戦争っていうのがあってね、皆戦争のために必死に働いて本を読む暇もなかったのよ」


「僕知ってるよ戦争!」


「賢いね、翼ちゃんは。それでね、やっと戦争が終わって生活が落ち着いた時にね、初めて本を読んだの。戦争で沢山の人が傷ついてね、この世界が嫌になってたんだけど、その本を読んだらとても面白くてね、自分の見てる世界は狭いんだわって気付いたの。」


「本ってそんなに面白いのー?」


「そうよ、翼ちゃんもぜひ本を読んでみて欲しいわ。」


「でも、僕途中で飽きちゃうよ」


「んー、そうねー。ならこうしましょ!翼ちゃんが本を書くのよ!」


「僕が書くの?」


「そうよ!でも本を書くのは難しいから絵本にしましょ。翼ちゃんがこうなったらいいなって思う事を絵本にするの」


「でも僕絵下手くそだし、ダメな絵本になっちゃうよ」


「そんな事ないわ、『一生懸命』にダメなものなんて無いのよ。おばあちゃんも1つ絵本作るから、ね!」


あの時、ばあちゃんの何気ない思いつきで、俺とばあちゃんは残りの夏休みをそれぞれの絵本を書くことに費やした。最初は乗り気じゃなかった俺も書いていくうちに楽しくなってきて、絵本を書き始めてから夏休みが終わるのはあっという間だった。

結局夏休み中に絵本を書き終わらなかった俺とばあちゃんは来年の夏にまた見せ合う約束をして、俺はばあちゃんの家から帰ってきたんだ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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