下着
「可愛い下着」という概念がわからない。
中学時代、男友達に「お!お前のそのブリーフ可愛いな」なんて言われた事も言った事もない。
ブリーフからトランクスになった後にも「可愛い」とか「カッコいい」などと言われた事はない。
まあそんな事を言う友人がいたら「近寄るな!ホモ野郎!」と言って友達をやめただろうが。
いや、距離は取るが友達やめはしないか「俺の父親は同性愛者じゃない!」と言った時、理解を示してくれた数少ない良いヤツらだ。
後から俺に「女装家と同性愛者の違い」を聞いてきたんで理解を示してきた連中も勘違いしてたんだろうけど。
だが悠子さんは「どの下着が可愛いか」で下着を選ぶようだ。
俺は同性の男を可愛いと思う事もなかったし、ブリーフを可愛いと思った事もなかった。
なので友人に可愛い下着を選んでやろうと思った事ももちろんない。
このように考えてみると悠子さんは俺の下着姿を見たいわけではないような気がしてきた。
というか男の俺の下着姿を見たがる痴女がいる訳がない。
なんか悠子さんの行動が慈善事業に思えてきた。
下着を悠子さんに選んでもらっても問題ない気がしてきた。
俺は男なんだから裸を見せてもそんなに恥ずかしくはない。
男でありながら女性用下着を着る恥ずかしさはあるが、恥ずかしい姿は見るほうも恥ずかしいはずだ。
その証拠に父親の女装を見ながらお巡りさんは「見てるこっちが恥ずかしいわ!」と言っていた。
後でわかった事だが女の子は同性の事を可愛いと言うし、思うらしい。
理解不能な思考だが、俺の心の師匠ブルース・リーも「考えるな、感じろ」と言っているので思考は放棄する事にした。
そして今の俺は悠子さんにとっては異性ではなく同性なのだ。
つまり悠子さんは本心で俺の事を可愛いと思っているらしい。
だが本気でうれしくない。
「男に『可愛い』は褒め言葉にならない」というが元男にも褒め言葉にならないらしい。
悠子さんに着せ替え人形にされながらわかった事がある。
試着の事をフィッティングというらしい。
でも俺は「フィッティングってペッティングと少し似てるね」というちょっと下ネタが入った感想しか抱かなかった。
そして下着も高い下着は試着出来るという事を知った。
「女性用水着がフィッティング可能なのとあまり変わりないわ。
フィッティングする時には汚れないように局部に紙を敷くのよ」悠子さんは俺に教えてくれた。
「局部」というのがなんなのか悠子さんにご教授願いたいが、あまりそこにツッコミを入れるとセクハラで訴えられそうだ。
キャーキャー言いながら悠子さんは俺を着せ替え人形にする。
「悠子さんはお・・・私の裸を見て恥ずかしくないんですか?」俺は悠子さんに聞いた。
「同性の裸を見ても、同性に裸を見せても全く恥ずかしくないわ」悠子さんはケロッと言った。
そっか・・・悠子さんに会った時にはすでに俺は女の子だったし、悠子さんの中では俺は女の子であるほうが自然で、時々みせる俺の男のような態度を不自然だと悠子さんは咎める。
そんな相手の裸を見て、裸を見せて恥ずかしい訳がない。
一緒に住んだら、一緒に風呂に入るイベントがこりゃ必ずあるぞ。
イベントって何だよ、アドベンチャーブックか!
ここ最近「アドベンチャーブックか!」ってツッコミが多い気がする。
そんな事を考えながら悠子さんの着せ替え人形として好き勝手にされた。
「ブラはまだ早いかな?
あなたの大きさならまだスポーツブラで良いと思うの」と悠子さんは言った。
じゃあ着せ替え人形にされて体の隅々まで今まで見られてたのは一体何だったのか?
まあようやく終わったんだし、お金も出してもらったんだし文句や泣き言は言うまいと俺が思っていると・・・
「下着選びも終わったし、次は制服のオーダーメイドね!」と言う悠子さんを見て俺は思わず
「もう勘弁してください」と口にしてしまっていた。