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鬼斬忍法帖  作者: 海星
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約束

 百地という苗字、そして「ももじ」という読ませ方、そして何より手に出来た手裏剣ダコ・・・。


 勝負をかけるのはここしかない。


 逆にここでの勝負が最後のチャンスになるだろう。


 焼蛤高校を受験、合格したのは石川早いしかわそうという少年であって石川早いしかわさきという少女ではない。


 少女の姿のまま焼蛤高校に通う事は出来ないし、だからといって地元に帰っても石川早いしかわそうだと証明出来ない以上、受け入れられない可能性も高い。


 悠子さんは生徒会長で「ももじ」という読ませ方からも百地家の世継ぎである可能性が高い。


 つまり悠子さんは学校内、忍者内である程度の権力を有しているかもしれない。


 悠子さんに話が通れば、もしかしたらここに残れて高校に通えるかも知れない。




 「実は俺男なんです」俺は悠子さんに真面目に言った。


 「あなたが男?


 それはどんな冗談かしら?」


 「冗談ではないんです。


 この忍法帖を読んだら、女の子になってしまったのです。


 忍の末裔である悠子さんならこの話が冗談ではないとわかると思うんですけど」俺は一か八かの博打に出た。


 もし悠子さんが何かの勘違いで忍者でなければ忍者でない相手に「自分は忍者だ」と明かした事となり、軽い制裁では済まない。


 「・・・何でそう思うの?」悠子さんから笑いが消え呟いた。


 「悠子さんの『ももじ』という読み方の苗字は俺のご先祖様の師匠だった百地丹波の子孫である証しです。


 それと悠子さんと握手した時の手裏剣ダコ・・・このタコは忍者でないと出来ないタコです。


 俺も女の姿になる前、手裏剣ダコが出来ていました」俺は思った事を隠し事なく言った。


 悠子さんが「抜け忍の子孫の言う事なんて信用出来ない」と思ってしまったら俺は悠子さんの力を借りる事は出来ない。


 俺は悠子さんを論破するのではなく、悠子さんから信頼を得て納得させ力を借りなくてはならない。


 「確かにあなたの言う通りだわ。


 私は忍の後継者・・・でもそれとあなたが男だ、という話を信じるのは別の話だと思うのだけれど?」悠子さんは俺の姿を頭の天辺から足の先までを観察しながら言った。


 「確かに信じられない話でしょう。


 俺自身もこの状態を正しく理解し信じるのに時間がかかりました。


 でもこの『鬼斬忍法帖』という巻物を読んで俺は女の子になってしまったのです。


 悠子さんも忍の一族の後継者ならこの忍法帖が本物である事はわかると思います」と俺は右手に忍法帖の巻物を握りながら言った。


 「ふーん」悠子さんはそう言いながら巻物を開いた。


 「あっ!中身は見ないで下さい!


 俺は中身を読んでしまって女の子になりました」俺は焦りながら言った。


 「そんな事は巻物を開く前に言ってよね・・・


 まあいいわ。


 少し読んでしまったしもう少し読んでみようかしら?」悠子さんは俺がまだ読んでいないところを読む事にしたようだ。






 「今年も夏が来る。


 今年も湘南海岸には千葉からナンパする習志野ナンバーの車が来る。


 去年の夏は最低だった。


 惚れた女がナンパ男についていっても止める理由がない。


 忍者がモテる時代ではない。


 俺の先祖は小田原城で北条氏に仕えていた風魔忍者だが、伊賀や甲賀と比べるとマイナーだし忍者は「俺忍者なんだよ」とは言えないので、傍目にはいい歳をこいた無職だ。


 惚れた女とナンパ男の行為を想像しながら、下半身の中心にあるモニュメントをこすった時は死のうかと思った。


 でも今年の俺は去年の俺とは訳が違う。


 俺は女装の忍法を編み出し、この忍法帖にその忍術の使用方法を記した。


 千葉のナンパ野郎共はナンパしたのが女装した男だと知ったらどんな顔をするだろうか?


 あまりこの忍術を濫用するとホルモンが出すぎて女になる事も考えられるが、俺が編み出した忍術だ。


 俺に死角はない。


 ・・・計算外だった。


 『男の娘はむしろご褒美』らしい。


 そこは違うよ。


 そこは腸だよ。


 そこは出口だよ、入り口じゃないよ。


 何か違う扉が開きそうだ。


 この扉は決して開けてはいけない。


 この忍法帖は危険だ、決して人目に触れて良いものではない。


 俺はこの忍法帖を親戚の家の床の間に隠す事にした」






 「つまりこの忍法帖をここの床の間から見つけて、忍術を濫用してしまってあなたは女の子になったって訳ね?」忍法帖を読んで悠子さんは呆れながら言った。


 この忍術は男に女装させる、男を女にする忍術だ。


 女が読んでも性転換する訳ではない。


 悠子さんに害がなくて本当によかった。


 「わかったわ。


 あなたが石川早いしかわさきという少女として焼蛤高校に通えるように私が裏から手を回しましょう。


 でもわかっていると思うけど、私が忍の者であるというのは内緒よ?


 私が高校に圧力をかけてあなたを高校に通わせた事が表沙汰になったら色々と痛くない腹をさぐられる事になるのよ。


 だから三つの約束を必ず守って。


 ・忍の秘密を守る事。


 ・生徒会活動に参加し会長百地悠子をサポートする事。


 ・女性らしく振る舞う事。


 先ず一つ目『忍の秘密を守る事』だけど、今までも忍として生活してきたのよね?


 これは今まで通りで問題ないわ。


 二つ目『生徒会活動に参加し会長百地悠子をサポートする事』これは言わば私と運命共同体になる、という事ね。


 もちろんあなたには私の生徒会活動その他もろもろを手伝ってもらいます。


 でもそれだけじゃないわ。


 私と常に行動を共にする事で私もあなたの行動をフォローしサポートします。


 持ちつ持たれつで決して悪い関係じゃないと思うわ。


 そして三つ目『女性らしく振る舞う事』ね。


 これは軽く考えがちだけど大変な事よ?


 私がフォロー、サポート出来るのは主に放課後生徒会活動中よ。


 それ以外の時間、特に授業中は自分で行動に責任を持って行動してもらいます。


 『それくらいは承知してる』って顔ね。


 でもいきなり女性として生活するって難しいのよ?


 例えば・・・あなたは『ジャージ姿なら何も問題ない』と 思ってるみただけど、熱いとジャージの上脱ぐでしょ?


 Tシャツ姿になるなら・・・ううん、Tシャツ姿にならなくてもブラくらいはしなさい。


 それにあなたは今現在女性用のトイレに入る事にも抵抗があるはずよ。


 不自然に思われない程度には女性の生活に慣れなさい。


 三つ目は簡単なようで継続する事はとても難しいわよ。


 それじゃあ、明日駅前に午前10時ね」俺は悠子さんが突然指定した明日の待ち合わせに面食らって問い返した。


 「あの・・・どういう意味ですか?」


 「何言ってるの?学校生活、女性生活に必須な物を買うのは早いほうが良いに決まってるじゃない!


 明日その買い物に一緒に行こうって言ってるのよ!


 ・・・あと私、ここであなたと一緒に住むから。


 色々準備があるからすぐに一緒に住む事は出来ないけど・・・。


 あと一週間くらいで私もここに住むつもりだから。


 明日の買い物は私の一人暮らしのために必要な物の買い物でもあるのよ。


 ホラ!私達は運命共同体だって言ったでしょう?」俺はイタズラっぽく笑う悠子さんの笑顔に釘付けになった。

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