統一感
私の部屋は玄関の前にある。
ふすまを開けていると玄関から部屋の中の全面ピンク色の室内が目に入る。
まあ、ふすまが閉まっていたとしてもふすま自体がピンク色なのだが。
最初はピンク色の空間は落ち着かなかった。
・・・というか「自分の部屋を四文字で表現しろ」と言われたら迷わず『マジキチ』と答える時期があった。
しかし慣れというモノは恐ろしいモノで最近はこの一面ピンクの空間で「ふう、やっぱり自分の部屋は落ち着く」なんて思ったりする。
その話を悠子さんにすると「早ちゃんがこのピンクの空間に慣れるのを待っていたのよ!」と喜んでいた。
三日後、畳屋が下宿に来た。
確かに下宿は古く、畳はくたびれていた。
畳の交換を悠子さんが頼んでいたのだと思い、畳屋さんに「畳の交換が終わるまで外に出てますね」と言い外出した。
外出から戻るとちょうど畳屋さんが作業が終わり帰るところだった。
部屋に入るのが楽しみだった。
新しい畳の感触はけっこう好きだし。新しい畳の匂いは大好きだ。
自分の部屋に入ってみて呆然とした。
「畳がピンクですって!?」
悠子さんは天井の板もピンクにしたいらしい。
そして照明もピンク色にする計画があるらしいけど、ピンク色の照明は慣れる慣れない以前に目が悪くなりそうなんで勘弁してもらう事にした。
最近わかってきた。
悠子さんは私に「こうなって欲しい」というこだわりが強いんだ。
母親が幼女に「こんな風に育って欲しい」「こんな格好をして欲しい」と望む感情に近い。
「何なのよ!?この落ち着かないピンク色の空間は!?」
「立ち話も何なんで」と悠子さんに促されて由美は私の部屋へ上がった。
そこで一面ピンク色の部屋を見て先ほどのセリフを叫んだ・・・という訳だ。
由美の気持ちは分かる。
いくら障子やふすまや畳や家具や部屋に置いてある小物がピンク色でも、天井はまだピンク色ではない。
「この統一感の無さどうにかしなさいよ!落ち着かないわね!」と言いたいのだろう。
由美の言いたい事は尤もだが、ピンク色の天井板に交換する作業は悠子さん主導で行われているし、ピンク色の天井板は特注品なので、出来上がるまでもうしばらく時間がかかる。
申し訳ないが、まだ完全にピンク色の空間ではない落ち着かない空間ではあるが由美には我慢してもらおう。
由美に私と晶さんが女の子になった経緯を『鬼斬忍法帖』の実物を見せながら説明する。
少しではあるが私が男として引っ越して来た時の荷物もある。
それらを証拠にして『目の前の女の子が早くんである』という事を由美に信じてもらう。
もちろん私が元男子である事を知らない、思い込みが強い聡子さんには席を外してもらっている。
もしこの場に聡子さんがいたとしたら由美以上に大騒ぎして話がややこしくなっただろう。
「この女の子が早くん・・・って訳ね?」由美は半信半疑という感じだ。
この場でこれ以上信じてもらう事は望めない。
信じてもらうだけの材料は充分積み上げた。
由美は「信じたくない」のだ。
由美は何を頑なに「信じたくない」のかは私にはわからない。
だが、これ以上は「由美の心の中の問題」だ。
「私が完全にあなたが早くんだと信じた訳じゃないけど・・・
しばらくここに寝泊まりして、真実を見極めさせてもらいます」と由美。
「ここに寝泊まりするなら、遠慮しないで空いてる部屋を使ってね。
あとあなたが焼蛤高校の早ちゃんと同じクラスに通えるように手配しておくから。
真実を見極めるなら四六時中、一緒のほうが都合が良いでしょ?」と悠子さん。
こうして女子忍者シェアハウスに新しいメンバーが加わったのだ。




