危機管理
「早の攫われやすさは問題です。
早は人を疑う事を知りません。
最初、早は『俺は男だから女らしくはしない』なんて事を真顔で言う痛い子でした。
早に女らしい仕草をさせるために『女の子座り』を『忍者座り』だと言うと『やれ』と指示する前に『女の子座り』をしていました。
『女の子』を『忍者』に置き換えると早は疑う事なく全てを実行しました。
『忍者は足を開いて座ってはいけない』『忍者は蟹股で歩いてはいけない』などと言うと早は疑う事なく女の子らしい仕草の練習をしました。
どこまで人を信じるか、と騙し続けた事もあります。
結局は全てを信じて最後まで騙す前に、私が良心の呵責に苛まれて早に嘘を告白してしまいました。
ですが騙した私に対して早は『聡子さんは意味なく嘘を言う人じゃないです。
私を騙したのなら騙しただけの理由があったんです。
それは私のための理由だと思います』と健気な事を言いました。
・・・ええ、思いっきり抱きしめましたよ。
あの可愛さ、抱きしめずにいられるでしょうか?
早はグッタリして「窒息しそうだった」と言ってましたが。
早の素直さは美徳です。
しかしこの日本でひと月に二回も誘拐されるのは異例です。
しかも忍者がですよ?
一般人でもそんな頻度では誘拐されません。
『南米か!』って話です。
『早は麻薬カルテルやマフィアに目をつけられた華族の子供か!?』って話です。
最近思うんですよ。
『早は忍者には向いていないんじゃないか?』って。
確かに早は忍術の修行を頑張っています。
努力する事も才能の一つです。
忍者になる事を挫折する者の中には、身体能力に恵まれていながら努力を怠った者も多いです。
早は努力する才能には人一倍恵まれています。
そして新しい忍術を産みだす発想力も天性の物だと思います。
・・・ですが、幸せそうに料理や編み物をしている早を見ると『この子には別の幸せがあるんじゃないか?』なんて考えてしま・・・失礼しました。
私の主観はこの際関係ないんです。
問題は『早が騙されやすすぎる』『早が攫われやすすぎる』という事です。
この問題は悠子様の今後の活動に支障が出るばかりではなく、早本人にも危機的な状況を産むでしょう」
聡子さんの進言を聞いた悠子さんはゆっくりと口を開いた。
「確かに早ちゃんは騙されやすすぎではあるけど、ただ『人を騙して傷つけるくらいなら人に騙されて自分が傷ついた方が良い』と思ってる『お前は金八先生か!?』ってところもあるわよね。
早ちゃんがあんまり話をしないから、あんまり知らないけど早ちゃんの父親は嘘つきでコソ泥で何度も早ちゃんを騙してきたらしいわよ。
早ちゃんの父親は偽装結婚してて、早ちゃんは知らない間にフィリピン人の義理の母親がいた事もあったらしいわ。
普通騙されやすい人ってそういう人じゃなくて世間知らずのスレてない人よね。
早ちゃんは騙されよう、攫われようとしている、というより近くにいる人を全力で信じて、結果騙されたり、攫われたりしている・・・って感じだと思うの。
昨日早ちゃんから相談を受けたの。
『入学金を借りた女の子が遊びに来るんだけどどうしよう?』だそうよ?
協力もしてあげたいし、早ちゃんの生い立ちを聞ける絶好のチャンスだわ」




