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鬼斬忍法帖  作者: 海星
30/34

オリジナル

 私は高山さんと向かい合った。


 「戦ったら勝てない」それは連行されている時に痛いほどわかった。


 「パワーが違いすぎる」と。


 高山さんは修行を重ねて、男性に迫るパワーを手に入れている。


 それに対し私はクラスの女子の中でも一番非力なのだ。


 真面目に修行もしているし、力も徐々に付いている。


 だが現在やっと缶ジュースのプルタブが開けれるようになった程度で、まだペットボトルのフタは開ける力はない。


 だが今求められている事は「逃げる事」で相手もこちらを人質にしようとしていて、私を倒そうとする意志も、殺そうとする意志も全くない。


 つまり高山さんは私と「追いかけっこ」をしようとしているのだ。


 悠子さん達のところまで私が逃げきれれば私の勝ち。


 それまでに捕まってしまえば高山さんの勝ち。


 非常にわかりやすい勝負だ。


 逃げる事には自信がある。


 ただ、この追いかけっこは相手が圧倒的に有利なのだ。


 まず「こちらは逃げる建物の作りは全く知らないが、高山さんはこの建物を部活で利用していたので熟知している」という事だ。


 それだけでも相手が圧倒的に有利なのに「ゴールの場所(非常出口)がすでに明らかになっていて、道は他にはないので敵はゴールで待ち構えていればこちらはゴールに行くしかなく負けはすでに確定したような物だ」という話だ。


 そんな99%確定した負けを覆さなくてはならない。


 そのために必要になるのが忍術である。


 要は、忍術で邪魔をしてゴールで待ち構えさせなければ勝つ目も少しは見えてくるのだ。


 追いかけてくる相手を邪魔する忍術が『畳返し』だが、体育館に畳は一切なく板張りだ。


 このままでは負けは見えている。


 そこで私が畳の代わりに返そうとした物が体育館マットだ。


 






 畳返しはよく知らないと畳が勝手に立ち上がっているように見えるが、実はテコの原理を利用して畳の端に体重をかける事で畳を立ち上がらせている。


 順番に畳の端に体重をかけていく訳だが、一斉に畳が立ち上がるように見せるには技術が必要だ。


 ゆっくりそっと踏めばゆっくり立ち上がるし、素早く力を込めて踏めば素早く畳は立ち上がる。


 そのタイムラグを利用すれば畳は同時に立ち上がったように見えるのだ。





 対育館マットは畳と比べ柔らかい。


 そして畳と比べて細長い。


 どう考えても畳より返しにくいだろう。


 でも私は腹を決めた。


 「やれるかじゃない。


 やるのよ。


 やらなきゃ負けなのよ。


 やるしかないのよ!

 

 『オリジナル忍術体育館マット返し』!」


 私は体育館マットの端を踏んだ。


 体育館マットは立った・・・かのように見えた。


 「やったか!?」私は拳を握りかけたが、体育館マットは無情にもボフンと元の位置に倒れた。


 忍術は大失敗だが、高山さんは私がなにをしようとしているかわからず、とりあえず警戒して様子見をしているようだ。


 結果オーライだ。


 相手を結果的に同じ場所に釘付けに出来ている。


 だが何度も失敗は許されない。


 何度も失敗していると「コイツ、忍術の発動に失敗してやがるだろ?」とバレてしまう。


 もう失敗は許されない。


 私は気合を入れなおし叫んだ。


 「『オリジナル忍術体育館マット返し』!」


 今度は体育館マットが綺麗に立った。


 要はコツだ。


 体育館マットは立てにくいが、一直線にせず多少湾曲させると倒れにくくなる。


 つまり畳のように倒しながら敵が追いかけてくるのも難しく畳より足止めになるのだ。


 また立った畳の向こう側を中腰で隠れながら逃げるのが普通だが、畳より体育館マットは細長いので、逃げる距離が稼ぎやすいのだ。


 高山さんは初めてみる忍術に困惑している。


 そりゃそうだろう。


 思いつきで私が今作った忍術だ。


 見た事がある訳がない。


 私は困惑している高山さんを振り切り非常出口までたどり着いた。


 非常口のは鍵がかかっている。


 私はヘアピン2本で開錠を試みる。


 我に返った高山さんが非常出口に迫る。


 距離にして5メートルもない所まで高山さんに迫られた所で非常出口は開錠、私は外に飛び出した。


 



 身体能力では私より高山さんの方が高い。


 逃げる技術は多少は高山さんより私の方が高いが一本道では追いつかれてしまう。


 相手が『地の利』のある状態での追いかけっこはしたくない。


 とりあえず自分が知っているところ、体育館裏に出ようとコースを変えた。


 


 体育館裏には悠子さんと聡子さんと藤林先生がいた。


 状況が呑み込めない私を見た悠子さんは・・・


 「あら、早ちゃん。


 無事だったのね、じゃあ遠慮なく・・・」というと悠子さんは藤林先生を蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされた藤林先生は大木に当たり大木は折れ、そこに残されたのは気絶し泡を吹いている藤林先生と折れた大木だけであった。


 高山さんは唖然としている。


「ここで『眠り火の術』を使った痕跡があったわ。


藤林先生は『眠り火の術』は使ってないって言ってたわ。


高山さん、あなたが早ちゃんに使ったと考えて良いかしら?」


無言で高山さんが首肯く。


「そう、じゃあ辞世の句くらいなら聞いてあげるわ」


 ヤバい。


完全に悠子さんがキレている。


普段なら教師に手を出すような事はない。


「ちょっと待ってください。


悠子さん、冷静になりましょう。


一体どうしたんですか?」私は悠子さんを宥めた。

 

 「睡眠薬は自殺や他殺にも使われるのよ。


 女の子のお酒の中に睡眠薬を入れて死亡事故が起こる事もあるわ。


 『殺す気はなかった、そんなつもりじゃなかった』としたって睡眠薬は最悪のケース相手を死に至らせるって事は揺るぎない事実で許されない事なのよ。


 この女はね、私の可愛い早ちゃんを薬で眠らせたのよ?


 最悪、早ちゃんはこの女に殺されてたのよ。


 何で私がこの女を許さなくちゃならないの?


 何で早ちゃんがこの女の事を庇うのよ?」


 本気で怒っている悠子さんを初めてみた。


 有紀さんにでさえ手加減してたんだと始めて知った。


 「私はこの通り元気ですし、高山さんだって反省してるかも知れません。


 それにこの間言ってたじゃないですか。


 『三すくみの状態の時、敵の勢力を必要以上に叩く事が戦争につながる』って」


 「早ちゃんは優しいわねえ・・・私だったら『殺されてたかもしれない』って相手が目の前にいたら、たとえ殺さなくても『お願いだから殺してくれ』って懇願くらいはさせるわね。


 わかったわ。


 ・・・でもこの女が任務成功した暁には藤林孝行の治療継続が約束されていたのよね。


 でもこの女は任務失敗して私達に捕らえられた。


 こういった場合どうするの?


 この女は藤林孝行と一緒に死ぬつもりだったかも知れないわよ?


 早ちゃんがこの女を助ける事こそ『大きなお世話』かも知れないわよ?」


 「悠子さんが藤林孝行さんに治療を受けさせる・・・ってどうですか?


 ホ、ホラ、藤林孝行さんの治療費って高額で誰にだって払える額じゃないんでしょ?


 藤林陣営に見捨てられた孝行さんを服部有紀さんが拾ったら面倒くさい事になりますよ?


 伊吹さんを嫌って、孝行さんを慕っている女の人だって多いんですよね?


 その人達がみんな服部陣営に鞍替えしたら・・・さらに服部陣営が大きくなりますよ?


 それでも良いんですか?」


 「・・・わかったわよ。


 この女を許して藤林孝行の治療費も出します。


 でもタダでこの女を許す訳じゃないわ。


 あなた、私の陣営の男共を一晩性的に奉仕しなさい。


 それであなたの行いは全部チャラ、その上あなたの愛しい男の治療費は全部面倒見るわ」


 「わ、わかりました。


 それで孝行様が助かるなら喜んで奉仕させていただきます。


 ただ私は『この体は生涯孝行様以外の男性には指一本触れさせない』という自分で立てた誓いを破る事になります。


 なので二度と孝行様の前には姿を見せません。


 ですので私が消えた後、孝行様のお世話は出来ませんが何卒孝行様の事をよろしくお願いします!」高山さんは這いつくばり悠子さんの足に縋り付き懇願した。


 「さ、早ちゃん?何でそんなプリプリ怒りながら私を睨んでるの?


 本当に奉仕なんてさせる訳ないじゃない!


 高山さんの覚悟を聞いただけよ!


 わかった!わかったわ!


 藤林孝行の治療費の面倒は百地家で見るわよ・・・。


 ただ、あくまで百地家では治療費の面倒しかみないわ。


 それ以外の面倒は高山さん、あなたが見なさい」


 「ありがとう・・・ございます・・・!」高山さんはついに泣き崩れた。 

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