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鬼斬忍法帖  作者: 海星
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思惑

  ここはどこだろう?


目隠しをはずされたばかりの私は眩しさに顔をしかめた。


大きな屋敷の大広間に連れて来られたようだ。


手足が拘束されていないのはまるで「逃げれるものなら逃げてみろ。


逃げるだけ無駄だがな」と言われているようだ。


「ごめんなさいね、様子見のつもりだったのよ。


でもあまりにもあなたが可愛いから思わず拐っちゃったわ。


でも考えようによっては私に拐われて良かったじゃない。


あなたは知らないでしょうけど魚屋の息子もあなたには熱い視線を向けてたのよ?


アイツはあなたをつけて家の前まで来てたのよ?


すでに半分ストーカーだった訳。


アイツに拐われていたら貞操どころか命だってなかったかも知れないわ。


まあ人の事は言えないけどね。


私だってここ数日あなたの事を見張っていたもの」


「私の事をどうするつもりですか?


服部先輩」


「わかってるでしょ?


私は百地さんの弱点を探してたのよ。


でもね、百地さんは人には本当に弱点を見せなかったの。


そんな百地さんが最近一緒に住むほど溺愛している女の子が現れた。


彼女の愛情が家族愛みたいなものか、後輩に対するものか、それとも性的な偏愛かはわからないわ。


でも一つだけわかっている事があるの。


『石川早は百地悠子の唯一の弱点』って事よ」有紀さんは不敵に微笑んだ。






悠子さんと聡子さんはいつまで待っても帰って来ない早を追って商店街へ行った。


「早は肉屋に行くはずです。


早が残したメモ書きや台所にあった使うつもりの食材を見ると、ハンバーグを作るつもりだったようです。


早が向かったであろう肉屋に行きましょう。


もしかしたら早の手掛かりがあるかも知れません」聡子さんは言い、悠子さんはその提案に従った。


聡子さんの読み通り、肉屋の亭主が早が連れ去られる瞬間を見ていた。


悠子さんは警察の中の百地家の息がかかった者達に即座に連絡した。


よくドラマで誘拐犯が「警察には言うな。


もし警察に連絡したら人質の命は保証しない」などと言うが、警察に大っぴらに連絡する事が誘拐された者の命をおびやかすのは珍しい話ではない。


悠子さんは百地家の息がかかった警察を動かす事で極秘裏に警察に最速で行動させ、かつ早の命の危険を最小限にしたのだ。



犯人像を絞りこむキーワードがいくつかある。


・高級車


・若い女


・早を連れ去る男達


犯人は高級車を持っている若い女で、部下に複数の男達がいる。


ここらへんでこの条件を満たしている若い女は三人しかいない。


百地悠子か藤林伊吹か服部有紀だ。


自分を疑うのはどうかしている。


藤林伊吹か服部有紀の二択だ。


だが高級車の窓が開き、そこには若い女が乗っていた・・・という事は女自ら動いたという事だ。


・・・であるなら藤林伊吹の線は消える。


藤林伊吹は必ず側近である高山晶に行動させる。


そして高山晶は高級車には乗らない。


つまり・・・「早ちゃんを誘拐したのは服部有紀って訳か」悠子さんは苦虫を噛んだような渋い顔をして言った。


しかし・・・「有紀さんにしては証拠を残しすぎている。


まるで罠を仕掛けて私をおびき寄せているようだわ」

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