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鬼斬忍法帖  作者: 海星
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誘拐

部屋にはぬいぐるみやあみぐるみがところせましと並べられ、壁には編み物で作ったタペストリーが飾られている。


最近作ったあみぐるみは置く場所もないので友人達にプレゼントしている。


一週間に数回は作ったクッキーなどのお菓子も友人にプレゼントしている。


ある日、友人達に囲まれ口々にこんな事を言われた。


「早ちゃんは本当に良いお嫁さんになるわ」


「早ちゃんみたいに乙女趣味の子は今時珍しいよね」


私は他の人の趣味などは知らない。


悠子さんや聡子さんに「これを趣味にしてみたらどうだ?」と、言われた事をやってみただけだ。


友人達に聞く。


「他に何をやってみたら良いと思う?」と。


まるで蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


「早ちゃんには何が似合うんだろ?」


「やっぱりコーラスでしょ!」


「何でコーラスなのよ、ババ臭い!」


「似合うと言えば弓道じゃない?」


「早ちゃんは生徒会役員もやってるから弓道部に入ってる余裕なんてないんじゃない?」


「やっぱりバイオリンでしょ?」


「楽器を揃えるのにお金がかかりすぎない?」


「お茶とかお琴じゃない?」


「それって早ちゃんじゃなくて百地会長のイメージじゃない?」


喧々諤々の議論の後、結局「あんまりお金がかからなくて早ちゃんらしい趣味」という事で裁縫をやる事になった。


悠子さんは下宿に戻り私の部屋を覗いた時、誰にも強要されずに私が自主的に裁縫をしていたので驚いたらしい。


このまま何事もなく毎日が過ぎていくかに見えた。


 


 放課後、生徒会活動は私だけ早く終わった。


私の仕事が早いのではない。


悠子さんはもちろん、聡子さんよりも割り当てられている仕事が少ないのだ。


 悠子さんは「早ちゃんは先に帰ってご飯の準備をしててね。


 私と聡子はもう少し仕事をしてから帰るから」と言った。


基本的に悠子さんの食事は実家から運ばれてくる事が多かった。


聡子さんが作る時もあるが、聡子さんが悠子さんを手伝い働いて、食事の準備どころではない事が多かったのだ。


 私は悠子さんに仕事をもうしつけられた事がうれしかった。


私は急いで自分の部屋へ帰り、悠子さんに着るように言われているメイド服姿になった。


最初、一人では着れなかったメイド服も今は素早く着こなせるし、メイド服姿になると気持ちがピリッと引き締まった。


やはり私にとってはこのメイド服が仕事着、戦闘服なのだ。


着替え終わった私は業務用冷蔵庫を開け、ある食材と足りない食材をチェックしていった。


今日は何を作ろうか?


疲れて帰ってくるだろう悠子さんの好物を作ろうか?


それとも疲労回復のためにスタミナがつく物が良いだろうか?


それともバテて食欲が減退してても食べやすい、ちょっと酸っぱい物にしようか?


私は誰かに自分の料理を食べてもらう事以上の幸せは今のところ見いだせていない。


悠子さんや聡子さんに自分の料理を食べてもらう事を想像すると自然と笑顔になる。





今日は悠子さんの好物、ハンバーグにしよう。


悠子さんは完全無欠かと思いきや、食べ物の好みは意外とお子ちゃまだ。


私は必要な食材を買い出すために商店街へと向かう事にした。


最初はメイド服で商店街に行く事に気恥ずかしさはあったが、今は馴れたものだ。


それどころか商店街を歩く時、メイド服でないと違和感を感じるようになってしまった。


私のメイド服姿を見て驚いていた肉屋のおじさんや魚屋のお兄さんも今では「今日は何にする?メイドのお姉ちゃん!」と私を見て毎回ちょっとオマケしてくれるようになった。






早ちゃんが肉屋で合挽き肉を買って出ると、外には黒塗りの高級車が停まっていたという。


スモークガラスが開き、肉屋の亭主の話では中から顔を出したのは若い女らしい。


早ちゃんは激しく抵抗していたらしいけど、数名の男達に取り押さえられて車に乗せられて連行されたという。


どこの誰だか知らないけど、私の可愛い早ちゃんを拐うとは良い度胸じゃないの。


百地悠子を甘く見ない事ね。

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