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鬼斬忍法帖  作者: 海星
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聡子

 こうして家にいる間、私はメイド服に着替え、開いている時間は編み物をするようになった。


 別に「編み物が好きな設定」なので下手でもかまわないし人の目がないところで編み物はしなくてもかまわないのだが、現状の私は「編み物の好きな人の技術でも知識量でもない」と自分で感じ、自発的に「編み物をしなくてはいけない」と思って行動しているのだ。


 私が編み棒を操り、鍋敷きを一生懸命編んでいるとガバッと聡子さんに抱き寄せられてしまった。


 私は何が起きたのか分からず、固まっていると「すまん、あまりの可愛さに思わず抱き寄せてしまった」と聡子さんに謝罪された。


 私は聡子さんの妹分として可愛がられている。


 最近聡子さんは私に激しくスキンシップをするようになった。


 クシャクシャと私の頭をなでたり、肩を抱き寄せるように組んだりは頻繁にあったが、実際に抱き寄せられたのは初めてだった。


 「いいえ、気にしないで下さい」と聡子さんに言い、編み物に戻る。


 聡子さんはしばらく編み物をしている私を凝視していたが「イカン、また抱き寄せてしまう」とうわ言のように言うと私の部屋から出て行った。


 しばらく「何だったんだろう?」と考えていたが私は編み物に次第に熱中して周りを忘れていった。


 編み物は設定上の趣味だったが、よく考えると私は趣味に興じる金も時間も今まで持つ事は許されず生まれて初めての趣味だった。


 気付くと編み物を楽しいと感じている自分がいた。


 私は誰に言われるでもなく学校の休み時間にはせっせと編み物に興じるようになり、次第に複雑な物も編めるようになり、編む物がなくなるとあみぐるみ作りに精を出すようになる。


 そしてもう一つの設定上の趣味、料理である。


 食材を一時保管するにも、出来上がった料理を保存するにも冷凍冷蔵庫が必要だ。


 共用スペースである居間には巨大な業務用冷蔵庫があり、牛乳などの飲み物は業務用冷蔵庫内の保管スペースがある。


 私が個人で使う冷蔵庫を欲しがっているのは料理のために他ならなかった。


 「何故設定上の趣味である料理にそんなにこだわるのか?」と言われたら「同じく設定上の趣味だった編み物がライフワークと呼べるほど楽しく人生には欠かせない物になったから」だ。


 生まれて初めて持った趣味が編み物だった。


 もしかしたら他にも熱中出来る事があるかも知れない。


 料理はある程度聡子さんに習った。


 全くの初心者ではない。


 料理が一生の趣味になりそうな予感はある。


 でも冷蔵庫を買うだけのお金はない。


 あるのなら早く幼馴染みに借金を返すべきだろう。


 私は子供の頃から我慢を強いられてきたし、我慢するのが当たり前だと思っていた。


ある日、私は聡子さんと買い物に出掛けた。


悠子さんに頼まれた買い物で聡子さん一人なら難なく持てるが私一人では到底持てない量の買い物だったので、聡子さんに頼んでついてきてもらったのだ。


その買い物の最中に単身者用の小さな冷蔵庫を私がずーっと見ているのを見て、聡子さんは「早はコレが欲しいのか」と言ってきた。


私は「はい」とも「いいえ」とも言わず、泣き笑いのような顔をしながら「いつか買えると良いですね」と言った。





 ある日生徒会が終わり家に帰ると自分の部屋に小型冷蔵庫が置いてあった。


 その冷蔵庫は聡子さんと買い物に行った時に私が見つめていた冷蔵庫だった。

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