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鬼斬忍法帖  作者: 海星
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 色々な事に慣れて来た。


 「三上忍」を「みかみしのぶ」と読んでいた私はもういない。


 忍術の訓練を志願して再開した。


 双忍術はまだ習っていないが、忍術の基礎、四つ身分身などを習っている。


 分身の術には沢山種類があるらしい。


 薬を嗅がせ幻覚を見せる「朧分身」


 素早く動き残像を見せる「影分身」


 幻影を写す 「空蝉分身」


 他にも沢山分身の術はあるという。


 聡子さんも「実体のある分身を使う相手もいて仕組みは不明だけどまだまだ分身の術は研究の余地があって奥が深い」との事だ。






 聡子さんも「最初は悠子様に言われしかたなく忍術を教えていたが、ここまでやる気を見せられると教える方も力が入る」と本気で教えてくれた。


 私が父親から習った忍術は一つだけ。


 「畳返し」だけだ。


 「畳返し」は相手の前で畳を立て姿を消す、逃走のための忍術で大泥棒石川五右衛門が得意としていた忍術だという・・・父親の言う事で信憑性は皆無だが。


 私は生まれて初めて「逃げるため」の忍術ではなく、「戦うため」の忍術を教わっている。


 時々思う。


 私は女になったから悠子さんや聡子さんに世話になり忍術を学んでいるが、果たして私が男のままだったらこのような展開だっただろうか?






 ただ女になって困った事もある。


 私は女性としての過去がない。


 最近まで男だったからである。


 悠子さんに高校にねじ込んでもらった関係上、成り行きで「昔男だった」という過去を隠し、過去の設定を考えなくてはいけなくなった。


 別に「最近まで男だった」と語っても良いが、そう語ると「お前が高校に入学する上で語った経歴と矛盾が出てくるな、アレは嘘か?」と周囲から言われてしまい、私の入学をゴリ押しした悠子さんの責任問題に発展してしまう可能性もある。


 「今まで海外にいた・・・っていうのが一番簡単なんだけどね~。


 でも早ちゃん、語学力低すぎるからね~。


 海外にいたっていうのはちょっと無理あるのよね~。


 『今までゴリラに育てられてた』っていうのはどうかしら?


 だったら勉強が苦手なのも納得じゃない?」ふざけているようだが悠子さんは大真面目だ。


私の成績は常に全国模試一位の悠子さんにとっては「ゴリラに育てられたんでなければ説明がつかない酷いモノ」らしい。


「まあそう言う気持ちも理由も悠子さんの成績を見てれば納得出来ます。


でも私の下にも20人くらい成績が低い人がいます。


生徒会長としてそういった生徒を『ゴリラに育てられた』扱いするのはどうかと思いますよ?」私は抗議した。


「何を言っているのかしら?


スポーツ入学した者達が成績低いのは当たり前よね?


他の者が勉学に励んでいる時間にスポーツに励んでいるのですから。


同様に焼蛤高校に於いて忍者入学した者が一部、成績下位に甘んじているわ。


下位20人は全て忍者入学よ、でも忍術と成績を総合的に見るとダントツの最下位は早ちゃんよ?」悠子さんの言った事は聞きたくなかった。


元々学力は低いし、身体能力は元々平凡なのに女性になって更に低下した。


自分が忍者として『下の下』なのは薄々わかっていた。


もちろん忍者としての優秀さは身体能力だけではない。


忍術の優秀さや、女性には『色仕掛』がある。


聡子さんに「『色仕掛』を覚えたらどうか? 」と言われた事もある。


色仕掛は女性の身体能力の低い忍者の常套手段らしい。


くのいちは山田風太郎の小説が産んだフィクションだが、女性忍者が色仕掛を行うのは、女スパイとして 不二子ちゃんが色仕掛を行うのと同じで珍しい事ではないとの事だ。


「色仕掛も立派な忍者の処世術だと思います。


私は今まで色仕掛をバカに出来るような立派な生き方はしてきていません。


ですが、私が覚えたい忍術は正統派の忍術です。


引き続き私に忍術を教えていただけないでしょうか?」私は聡子さんに頭を下げた。


「簡単に今まで教えていた忍術を放り出して、

色仕掛に飛びついていたら私は早を心底軽蔑していた」と聡子さんは私のリアクションに満足したようだ。


話は脱線したが、私の設定を悠子さんと聡子さんが勝手に決めている。


「早ちゃんの趣味・・・そうねぇ。


お料理と編み物なんてどうかしら?」悠子さんが聡子さんの意見を聞く。


「悪くないと思います。


別に趣味と特技は別なんで得意な必要はないですし、編み物も今から始めれば良いと思います」聡子さんは私の意見は聞かずに更に話を進める。


「好きな物・・・は考えるまでもないわね。


早ちゃんのキャラクターなら『ぬいぐるみ』で決まりね!」


「はい、これは議論の必要もないですね」


「好きな色・・・か。


私は薄紫なんて良いと思うわ。


聡子はどう思う?」


「私はピンクなんて早のイメージにピッタリだと思います」


「その意見、いただきね!


今決まった設定に従って、早ちゃんの部屋を改装しないと・・・」


「ちょっと待ってください!」黙っていると勝手に色々な事が決まるだけでなく、日常生活を侵食しそうだ。


今の時点で、私は暇な時間は編み物をやらないといけないし、割り当てられた居室をピンクを基調とした色使いに統一し、布団脇には無数のぬいぐるみが飾られる。


悠子さんは私の設定を決めるのを楽しんでいるが、聡子さんは「自分を男の子だと思っている可哀想な女の子を本来の道に戻そうとしている」訳で完全に善意なので質が悪い。


「何よ~?


早ちゃんに任せておいても一向に話が進まないから私達が進めているだけじゃないの~。


もういい加減、早ちゃんの設定決まってないとおかしいのよ?


それに学校で友達だって出来たんでしょ?


あの『男の子の部屋』丸出しの部屋に女の子が遊びに来たらどうするの?


部屋に上がってもらったらまずいから追い返すの?


部屋を改装するしかないでしょ?」悠子さんは正論を言った。


ダメだ、学力が学校で下から20位のアホが、全国模試一位の才媛が正論を吐いて、それに口答え出来る道理がない。


家に帰ると部屋がファンシーになっていた。


でも「畳返しが出来るように和室のままが良いだろ?」と障子やふすまがピンクという私の部屋は異様な空間になっていた。


因みに友人にこの空間は「可愛い!」と好評であった。


理解出来ない。  

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