忍術
「私はいくつか忍術を使えるが、今回教える忍術は『双忍術』だ。
『双忍術』とは簡単に言うと変装の事だ。
早、あなたにはこれから変装をしてもらう」聡子さんは言う。
こちらから忍術の教授を頼んでおきながら俺は思わず『変装』と聞いて逃げ出しそうになった。
俺の頭に浮かんだのは父親がした女子高生への変装だったのだ。
「じゃあ最初は簡単な変装からいこうか?
何でも良いから女子高生に変装してみせろ。
簡単だろう?普段通りの姿になるだけで良いのだから」聡子さんは俺に指定した。
コレはアレか?
俺のトラウマをえぐる忍術なのか?
でもまあこちらから「教えてくれ」とお願いしておきながら変装しない訳にはいかない。
俺はヤケクソ気味に素早く高校の制服に着替えると変装のために髪を後でくくって髪型を変えた。
「全然ダメだ」バッサリと聡子さんは言った。
やっぱりこんないい加減な気持ちでは良い成果が産まれる訳がないのだ。
俺は何をしているのだ?
教えを乞うておきながら、おざなりな態度・・・俺は一体何様だ?
俺が反省をしていると聡子さんは言った。
「変装っていうのは隠れるためのものなのだ。
街の喧騒から隠れる・・・
人の視線から隠れる・・・
人混みから隠れる・・・
早の変装は視線を集めすぎなのだ。
おまえは芸能界にでもスカウトされたいのか?
もっと目立たない女の子に変装しないとダメだ。
それに、変装する時に早は化粧すらしないのだな。
早はただ恰好と髪型を変えただけ、変装とは言えないものだ。
早、おまえは忍術の前に変装のために化粧を覚えるべきだ。
わかったな?」
「は、はい!わかりました!
まずは化粧の練習をします!」俺は聡子さんの迫力に押されて思わず宣言した。
「その意気や良し!
ただ化粧の技術を早に教えるのはこの方だ」
そこにいたのは部屋に戻って休んでいるはずの悠子であった。
「私が早ちゃんに今どきのメイキャップを教えちゃうわよ!
これからは変装の練習として毎朝薄化粧をするのよ!」
「は、はい!よろしくおねがいします!」俺は反射で思わず挨拶してしまった。
早が部屋に戻った後、悠子さんと聡子さんが部屋に残された。
「悠子様・・・これでよろしかったでしょうか?」
「聡子・・・よくやったわ、期待以上の成果よ。
早ちゃんったら自分が男だと思って全く化粧しないのよ。
若いんだから厚化粧は必要ないけど、ベイスメイクとか寝る前のスキンケアくらいは覚えないとね」




