生徒会
俺は約束通り悠子さんの生徒会活動を手伝う事にした。
・・・と言っても驚くほど悠子さんは有能で、驚くほど俺は無能だった。
買い物の最中悠子さんははしゃいでいたが、買い物はストレス発散だった事がわかる。
悠子さんは一族郎党の党首でもあり、企業の有能な経営者でもあり、生徒会長でもあり、模擬試験全国一位の才媛でもあり、そして優れた忍者でもあった。
俺は生徒会で会計監査という役職を悠子さんに任命された。
だが結局何も出来ず、それでは申し訳ないのでお茶を入れたが、そのお茶が「不味い」と悠子さんに言われてしまった。
俺はシュンとしながら生徒会室内を見渡していた。
何か出来る事はないか、生徒会全体の一日の動きを把握するために。
すると悠子さんが「少し疲れたわね・・・早ちゃん、少し休むから膝枕出来るかしら?」と言ってきた。
俺は慌てて首肯くとソファの端に座った。
すると悠子さんが ソファに横になり、俺の太ももの上に頭を乗せてきた。
「これからあなたは私の膝枕担当よ?
お茶担当でもあるから、お茶の入れ方を勉強しなさい。
もちろん会計監査の仕事も覚えるのよ?」と悠子さんは言った。
何も出来ずに落ち込んでいる俺を見て、悠子さんは助け舟を出してくれたんだと俺は思った。
まずは悠子さんのために美味しいお茶の入れ方から勉強しようと俺は決意したのだ。
その日の夜、悠子さんは下宿に引っ越して来た。
引っ越してきてもらって今更だが、日本有数の金持ちが住むにはここはセキュリティが低すぎると思う。
近侍として悠子さんを守りきれる自信がない。
何より武力が足りない。
女の子になったばかりだし。
悠子さんも俺の不安は見越しているようで「早ちゃんが一人で私を守れる自信が持てるまで」という条件でボディガードを一人下宿に連れて来た。
「彼女は山田聡子さんよ。
変装の名人、山田八右衛門の子孫よ。
彼女も双忍術・・・変装を得意としているわ。
早ちゃんが一人前になるまで早ちゃんと一緒に私のボディガードをしてくれるわ。
わからない事は何でも彼女に聞いてね。
早ちゃんの事は『自分の事を男だと思ってる可哀そうな子』って説明してあるから」と悠子さんは悪びれずに言った。
「酷いっ!」俺は悲鳴をあげた。
「早ちゃん、自分で家族にすら真実を信じさせる自信ないんでしょ?
だったら私に説明なんて出来る訳ないじゃない。
一番手っ取り早く説明して信用させられる方法を取ったつもりだけど?」と悠子さん。
「この子が例の可哀そうな子ですね?
大丈夫、私が忍者としても女としても色々と教えてあげますから」聡子さんは俺の頭を抱き寄せながら言った。
「ごめんね。
この子、いい子なんだけど如何せん思い込みが激しいんだ。
可哀そうな早ちゃんを正しい道に戻そうという使命感に燃えてるのよ。
私達と同じ高校に通う高校二年生の女の子よ。
あ、あと生徒会で書記をやってるから」と悠子さんは言った。
道理でどっかで見た事あると思ったはずだぜ。
今日、生徒会室で見たのか。
晩ご飯は聡子さんが悠子さんの分だけではなく俺の分も作った。
コンビニの仕事のメリットは余り物をもらえて食費が浮く事だというが、近侍のアルバイトも食事は出るらしい。
・・・というか俺は母親がいなくなってから全く手料理という物を食べていなかった。
俺にとっての「温かい料理」とはカップラーメンの事だし、家に電子レンジもなかったのでレンジでチンすら出来なかったのだ。
数年ぶりに食べる手料理に不覚にも涙がこぼれた。
それを見て思い込みの激しい聡子さんは突然目を真っ赤に腫らし「お姉ちゃんと呼べ」と言ってきた。
いや、手料理は久々で涙はこぼしてしまったけど、家族を知らない訳じゃないんだ。
実家にはろくでもない父親と祖父がいるんだ。
食事の後、聡子さんの提案で悠子さんと聡子さんと俺で風呂に入る事になった。
いや、マズいでしょう。
それに聡子さんの好意を利用して・・・みたいなのが本気でイヤだ。
彼女は俺が人のぬくもりに飢えている、と思っている。
それで裸の付き合いを提案したのだ。
そこにいやらしい感情を持ち込んで利用する自分が許せない。
父親と同じ卑しい血が俺にも流れていると思うとイヤになる。
俺が提案を固辞していると、悠子さんが「優しさから断ってるんだよね。
でも優しさで気持ちに応えてあげて」と俺の耳元で囁いた。
この人はどこまで人の気持ちを見通しているのだろう?
こうして三人で風呂に入る事になった。
結局一番恥ずかしがっているのは俺だった。
それを聡子さんは「私も小学生の時はそれくらいの胸の大きさだった」 と謎の慰めをした。
もし相手が本気で胸の大きさで悩んでいるなら、聡子さんの慰めは最低だろう。




