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(更新24)

【テレシア】


「伝令!陛下御親征成る!ホルスト領並びボラス領を平定!ただいま御帰還の途に有り!」


陛下が帰ってきやす!


「御苦労、陛下は御無事ですか?」


妃殿下の姐さんが訊くと御無事だそうで、一安心でやすね!


「あぁ、良かったですわ妃殿下」


「皆で御迎えをしませんと」


子猿姐さんもリリア姐さんも喜んでやす。


「待ちなさい、陛下がお帰りになるのは早くても明日。慌てる事はないわ」


でもそうね、と妃殿下の姐さんは言いやした。御迎えの為に王宮内を綺麗にしましょう、と。


「チャル、皆にその様に。さぁ、三人もお願いね」


皆でお掃除でやす。


普段使われて無ぇお部屋から、廊下の隅々、風呂場まで。


陛下の旦那に気持ちよく帰って頂く為に、オイラも頑張りやした。


明日は陛下の旦那が帰ってきやす!


皆さんも、それにオイラも顔が笑って戻りそうにありやせんね。




【ザップ】


陛下の軍勢が凱旋して来るのが城門から見えた。


通りの両脇に集まった連中が、窓を開けて待っていた連中が、一斉に歓声を上げる。


なかには花びらや紙吹雪を用意してた連中もいて、骸骨兵やオーガ兵が通る度にまいていた。


「陛下凱旋!平定成る!」


「陛下万歳!」


街の皆が大声で叫ぶ、馬車の窓から陛下が手を振って応えると更に歓声が高まった。


「皆様、ガンズ殿があそこにいます」


ドラスの指差す向こう、ガンズのスキンヘッドが見えた。


「あぁ良かった。怪我は無いみたいですね?」


「ノラさんは…あ、陛下と馬車に乗ってる!ヴィーシャさんも!」


「な?俺の思った通り、あいつらは無事だったろ?」


「儂も大丈夫だとは思っておったが、こうして無事を確かめんと落ち着かんでの」


軍勢は王宮を目指して進んで行った。


それに連れて街の歓声も進んでいき、ここいらへんは静かになった。


「さ~てと!宿屋に戻ろうぜ、旦那達は王宮に着いてからこっちに戻るからな」


凱旋だからな、時間の掛かる式典みたいなのをやるんだろう。ガンズ達が宿屋に戻るのは夕方だ。


宿屋の前でそれぞれ別れる。


「じゃあ、ガンズさん達が戻って来たら声かけてくれよ?」


「あ、私にもお願いしますね?」


チャーリー達やミーシャ達が店に戻り、俺達も食堂に入った。


「お!帰ったかい?」


熊が厨房から顔を出して確認した。


「よし、今夜は腕によりを掛けて御馳走の用意をしなくちゃな!」




【ガンズ】


凱旋式が終わり、骸骨兵団が散っていく。


「殿、お帰りなさいませ。無事の御帰還、お喜び申し上げますわ」


「奥よ、他人行儀だな?見ろ、こやつらなど余を離さん」


サーラとリリアが陛下にしがみついて、わんわん泣いている。


陛下が二人の頭を撫でてあやしていた。


ふと、俺の隣に居るヴィーシャを見ると、呆れた様に笑っていた。いつもなら恐い目付きをするものだが。


「これ!二人ともいい加減離さんか、首が絞まる!」


ようやく二人が離れると今度は妃殿下の番だった。


「…本当なら妃殿下が先でしょうに、二人ともなっていないわね?」


俺はヴィーシャの言葉につい笑ってしまった。


この戦いでヴィーシャと陛下に対するこじれた感情が変わった様に思える。


きっと子供の頃の関係に戻ったのだろう。


軽い抱擁を済ませて妃殿下が離れると、小さな影が陛下に近寄って行った。


「…旦那ぁ、陛下の旦那ぁ」


「おぉガキ!おとなしく待っておったか?ってまた泣くな!泣き止めガキ!」


テレシアは陛下の前で立ち尽くし、嗚咽を漏らして言葉にならないらしい。


他の三人と違って自分から抱き着こうとしないで、陛下を見ている。


「…素直じゃないわよね?裏街の子供って。感情を出すのが苦手なんだわ」


あぁ、ザップも大概ひねくれているからな。


陛下が自分からテレシアを抱きしめ、頭を撫でている。テレシアの泣き声が大きくなった。


「帰ったぞ、後で茶を頼む」


陛下がテレシアの頭を軽く叩いてあやすのを見届けると、ヴィーシャが踵を反して俺達に声を掛けた。


「さ、私達も宿屋に帰りましょう!今頃ザップやミーシャ達が首を長くして待ってるはずよ?」


俺は陛下の方に一礼すると、ヴィーシャ達を追い掛けた。




【???】


「そぉ…それじゃあ、面倒事が同時に消えた訳ね」


黒いソファーに身体を預け、薄衣のスキンがニンマリと笑う。


…馬鹿な女。


てきとうに人生を楽しんでいればいいものを、欲をかいた。


祖母の復讐だ、母の無念だなどと、御題目を掲げていたけれど…結局は自分が陛下に成り代わりたかっただけ。


それなりの幸せを掴む事なら、ドーラン子爵を殺す必要も無い。


物事を測る尺度、幸せを掴む方法論が最初から間違っていたのだとスキンは評価する。


スキンはあの女の事を……忘れた。


もはや思い出す必要の無いものは忘れてしまう。裏街にはやる事が沢山あるのだから。


スキンは他の報告を訊く。


「…あらあら、あの豪商も欲をかくものね」


ジャスティンを取り込んだ豪商が、裏街に手を出したいらしい。


暗い酒場の風景、自分の城を眺めながら、スキンは紫煙をゆっくりと吐き出す。


カウンターで酒を注文する者。


商談らしく卓を挟んで顔を突き合わせている男達。


卓の間をなまめかしく通る女の尻。


ソファーにもたれながら、女の腰に手を回している男。


「…そうね…ちょっとお灸を据えた方がいいわね?…ちょっとでいいわ、それであの男なら手を引っ込めるわ」


利が感じられないなら、撤退するだろう。


その内いい話があったら、一枚噛ませてやればいい。スキンはそう計算する。


報告の全てを聞き終えたスキンが店内を後にしようとした時、馴染みの姿を見付けた。


独りのビーストマンがカウンター席に腰を降ろすところだった。


スキンはソファーから立ち上がり、彼の背後から近寄ると隣の席に腰を降ろした。


「よぉ、スキン姐さん」


「調子はどうザップ?」


「まぁな、悪かねぇさ。うちの連中も無傷で帰ってこれたしな」


ザップは穴蔵仲間の無事を喜んで乾杯する。


スキンは流し目でそれに応えた。


「そぅ…良かったわね、で?今夜はゆっくりしていけるんでしょ?」




【ヴィーシャ】


術式を展開し、魔物の首を吹き飛ばす。


ノラの弓から立て続けに矢が飛んでいく。


ドラスが壁から天井へ、そして魔物の背中に跳び移り、喉笛を掻き切る。


エドの剣に炎が宿り、魔物の腹を焼き斬った…魔法を使うなんて珍しいわね。


ガンズの後ろに回り込んだ魔物に向かってザップが短剣を心臓に突き立てた。


炸裂音が響く。


ガンズの籠手が魔物の頭を粉砕する音だ。


「おい!?第二陣が来やがった!」


ザップの指差す方向から魔物が群れを成して現れる。


今倒した数より多い。


「ぅおおおぉぉ!」


その魔物の群れに横道から突貫の声が聴こえた!


他のパーティーが近くにいたらしい。


「ありがてぇ!俺達もいくぞ!」


ガンズとエドを先頭に私達は獲物へ向かって走り出した…




────────


「いやぁ、助かったぜミルズ!」


「丁度、魔物が駆けていくのが見えたんです。お役に立てて良かった」


まさかミルズ達に助けられるとはね。


「…もう一人前の冒険者、って感じね?」


「よして下さい、たまたまです」


私達は魔物の心臓を取り出した後、手頃な部屋で野営にする事にした。


「あれ?開かない」


エドが扉を開けようとすると抵抗がある。


「ちょっと待ってな」


ザップが代わり、扉をノックした。


『…誰だ?』


「西門の者だ、俺はザップ」


『なんだザップかよ』


ゴソゴソと荷物を避ける音の後、扉から顔を出したのは…テレンスだわ。


「久し振りだなザップ、部屋は広いから入りな」


「よぅテレンス、お邪魔するぜ…なんだよダン達まで居るのかよ」


私達の姿を見ると野営の仕度をしていたラースやバーサ達が居る。


「まさか四つのパーティーが一緒になるなんてな」


「あ!ヴィーシャ師!ガンズさんもお久し振りです」


…こんな事もあるのね。


私達も野営の仕度を手伝い、その夜は再開を楽しんだ。




────────


「……で、俺達は合流してこの部屋に来た訳だ」


「ザップ、俺達も感じた事だが、妙に魔物が増えてきてると思わないか?…ダンはどう思う?」


地図を広げながらザップ達パーティーのリーダーが情報を交換している。


「ドラス閣下、その様な仕事は私めにお任せ下さい」


「『閣下』は止す様に。現時点では一介の冒険者である」


…ラースにしてみれば雲の上の人なのよね、ドラスって。


「……よし、煮えた。皆、飯が出来たぞ」


「ガンズさんのお陰で助かりますぅ」


ガンズが皆の器によそっていく。


「相変わらず料理上手いなガンズさんは…バーサ見習え」


「うるさい」


「主人、食事だ」


「…ありがと、ノラ」


「おい!あんまり騒ぐなよ?魔物が来るからな」


ザップの言葉に思わず吹き出した。


隣に座ったガンズが訝しげに私を見る。


「どうした、ヴィーシャ?」


「…なんだか今のザップの一言、子供を寝かし付ける時に言う言葉みたいだったわ」


ガンズはキョトンとして…意味が解ってくすくす笑う。


「あぁ『早く寝ないとお化けが拐いに来るぞ』ってやつか」


そうそう!


「…あの『お化け』って、要するにヴァンパイアの事よね、きっと」


「あぁ…そうかな?俺はオーガだと思ったが。何せ『人喰い鬼』だ」


「…食べないくせに」


ガンズが笑い、私はそれを見て笑った。


「明るくなったな?それに当りがキツく無くなった」


「…あら、そぅ?」


…キツかったかしら?


「あぁ…最初なんか恐かったぞ?裸で仁王立ちして睨んできただろう?」


「あれは!……貴族は使用人に服を着せられるものなのよ、裸とか…普通に見られてるわ。それにお風呂場でしょ?」


「でも使用人を睨まないだろう?」


ノラ!なに笑っているのよ!?


「…だって貴方は使用人じゃないじゃない」


「まぁ、そうだな」


ガンズは私の顔が赤くなるのを見てわらっている。


「なぁ、そこのお二人さんよ?仕事中だぜ一応?」


ザップの声で我に帰ると皆が私達を見て………ああもう!




【ガンズ】


「じゃあ、またな」


「俺達もそろそろ行くわ」


「おぅ!たまには西門の宿屋に顔出しな?」


テレンスの組とダンの組が、それぞれ別方向に出て行った。


「ガンズさん、ザップさん、俺達も行きます」


「ミルズ、皆もあんまり無理すんなよ?宿屋に帰ってナンボの商売なんだからな?」


「えぇ、解っています。じゃあ、また後で…」


また後で。


宿屋でまた会う事を約束して、ミルズ達は部屋を出て行った。


「皆気が早ぇなぁ、もう少し情報交換したかったんだが…」


「まぁ、ザップさんだって隠している事はあるでしょう?向こうも同じですよ」


「エド殿、含蓄のある言葉です」


「いやいやドラス?冒険者は隠し事の一つや二つあるもんなんだから、当たり前だろぅが?」


「主人、荷物は纏めておいた」


「ありがと、ノラ」


俺は自分の荷物と獲物を担ぎ、焚き火の燃えさしを足で払う。


「よし、行くか」




────────


「お、夕陽が綺麗だぜ」


ダンジョンの外は燃える様な赤に染まっている。


ダンジョンの脇には立て札がまだ立っている。公爵様は深層の手直しに時間がかかっているらしい。


…まぁ、戦に出たりしていたからな。もう暫く深層は御預けか。


俺はダンジョンの側の、土盛りに一礼した。


以前、『サイフォン』にやられた冒険者の墓だ。


「…行きましょ?ガンズ」


軽い疲れのなか、ダンジョンの出入口から外壁の城門、通称西門をくぐり王都の中へ。


ものの五分で宿屋が明かりを点している。


食堂の扉が開いて、サーラが扉脇の外灯に火を点していた。


サーラと一緒の小さな影、あれはテレシアだろう。


テレシアの小さな影が俺達に気付いて、小さな手を振った。






「旦那方~!姐さん方~!お帰りなさいやし!」







┃ΦωΦ)最後までお付きあいくださりありがとうございます♪


『王都の光と闇』として王都に住むガンズ達の表の日常と、裏町を中心とした闇の部分を対比してみました。


その間を行き交うキャラとしてテレシアを起用してみた訳ですが…うまく子供の視点になってましたかね?


取り合えず『徒歩5分』は筆を置く事にします。2、3と続けてバタバタ書いたので、もし4を書くなら少し煮詰めたいですので。


それでは次の作品で御会い出来る事を祈りつつ♪




┃Φ))))サラバ



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― 新着の感想 ―
[良い点] これで終わりとなってしまうと寂しい感じですが全て読み終わりました。 最高でした。 みんなそれぞれキャラが立っており、それぞれの性格、事情が絡み合って、とても楽しめました! ありがとうござい…
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