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(更新19)

【ガンズ】


「いつでも帰ってくるがいい。御主には馴染みの無い土地でも、ここはオーガの住まう土地だ」


「族長、過分な言葉感謝する。そのうちにまた…」


「道中気を付けて。陛下を良く御護りして帰れ」


陛下との別れの挨拶の後、族長は俺にも挨拶を下さった。


荷馬車から見える居留地の姿が小さくなっていく…


「いい居留地でしたねガンズさん、皆幸せそうだった」


エドが居留地の人々に手を振りながら俺に言う。


「そうだな。一安心だ」


居留地の情況は以前ゴルや大隊長から聞いてはいた。


それをこの目で確かめられた。


ミノタウロスやライカン達と同胞が暮らす様を見た。


産まれたばかりの赤子の泣き声を聴いた。


小さくなった居留地はもう見えない。


俺が居留地に戻る事は…多分無いだろう。故郷を出たオーガは戦の庭で倒れるもの、戦いという事では冒険者も同じだ。


「…何を考えてるの?」


ヴィーシャの一言で我に返った。


「いや、大した事じゃ無い。次はいつ顔を出せるかなと思っていただけだ」


「…ふ~ん。まぁいいわ、行く時にはいつでも付き合うわよ」


「そうか。ありがたい」


荷馬車の揺れを感じながら、俺は感謝した。


俺が恐らく二度と居留地へ行かないだろうと、ヴィーシャは解っているに違いない。


それでもそう言ってくれた事に感謝した。




────────


「寒いところでしたわ」


「王都から馬車でたった二日でしたけど、結構違うものでしたね」


妃殿下とサーラが旅の思い出などを話し合っていた。


食堂の中、ティナとシェラが聞き役だ。


妃殿下にしてみればかなり寒く感じただろう。息が白くなる様な寒さではなかったが、元々鱗で覆われた種族。ドラゴニュートやリザードマンが住むにはもう少し温暖な場所でないとな。


…そういえばドラスなど居留地では毛皮にくるまって一日中日向ぼっこをしていた。


あまり気分転換にならなかったのではないだろうか?後で埋め合わせが必要…いや、そんな事を言えばトログロダイト狩りに付き合わされるか。


まぁ、それで喜ばれるならそれでもいいが…


「よ、旦那」


丁度ザップがドラスと共にやって来た。


「おはよう…なぁドラス、旅はどうだった?寒くて気分転換にならなかったんじゃないか?」


「そんな事はありませんガンズ殿。久々にのんびりと過ごしました」


ドラスの場合、部隊指揮から離れられてのんびり出来た。という事らしい。宿屋では手が空かない様だ。


「ならいいんだ」


下手に藪をつつくとトログロダイトと騒ぎだすかもしれない、俺が良くてもザップが嫌がるだろう。




【ザップ】


考えてみりゃあ、森に行ったのは生まれて初めてだったな。


まぁ、悪いもんじゃ無かった。近場の狩人はオーガだけだから弓矢を射掛けられねぇしな。


土産話って程じゃ無いが、話題にはなる。俺はクラウスの店に入った。


「よぅ、旅から帰ったぜ親父さん…って鍛治場か?」


「おかえりなさいザップさん」


いつもの様にミーシャが店番をしている。裏でクラウスの鎚の音が響いていた。


「ただいまミーシャ、土産らしい土産が無ぇんだが話でも……なんだいこりゃ?」


店のカウンター、ミーシャの横にちょこんと座る人形が一つ。


………不っ細工だなおい。


いや、ミーシャにゃあ言わねぇよ?悪ぃからな。


「…ひょっとして?」


「あぁこれですか?やっと出来ました!はいご挨拶」


「イラッシャイマセ」


…声まで不っ細工だな。


ミーシャが以前から造ってたゴーレムか、ようやっと完成したらしい。


「よく出来ているでしょう?初めて造った割りに」


「あぁ…そうな。良く出来てら」


そうだな、子供用の縫いぐるみ程度の大きさで…実際動いて無けりゃ縫いぐるみだが、滑らかに動いてやがる。


猿かなんか入ってるんじゃ無ぇか?って疑うくらいには滑らかな動きだ。


だが…何だろうな?この残念感は。


まず顔が歪つだ。ボタンの目が離れて上下にずれている。口も笑った感じになってるんだが左右のバランスが…


一番気持ち悪いのは手だ。物を掴める様にしたのか?指がリアル過ぎる。


ミーシャに目を移すと俺のお世辞に気を良くしたのかニコニコしていた。


「そうだな、初めてにしちゃあ良く動いてるぜ?」


「次に造るのは頑張って荷物運びが出来る様にします!お店の品物運びが楽になりますよ」


「あ~そういうんだったら需要あるぜ?宿屋でも薪割りとかに」


ゴーレムが一般化すりゃあ楽にある場面は結構あるだろう。


「馬を使わない馬車とかよ」


そうすりゃ宿屋の厩舎も臭わなくなるだろう、結構くるんだあの臭い。


「なるほど~、そういうの気が付きませんでした」


と、扉が開いた。


「ただいま~♪ミーシャ!居留地に…」


あぁ、サーラか。


「何この不細工な縫いぐるみ!?」


「酷っ!」


あ~あ~…




────────


「やぁやぁ!皆さんお揃いだね?丁度良かった、サウルが帰って来たから多分大丈夫だとは思っていたんだがひょっとしたらまだ居留地に残っているかもしれないと思ってねでも一応覗きに来たんだ」


「…叔父様、どうでもいい話まで長くしないで」


俺達が皆で晩飯を食ってる最中に現れたのは、でかい眼鏡を掛けた色っぺぇ姐さんだ……って『叔父様』?公爵様かよ!?


「公爵様、お久し振りです。我々をお探しでしたか…どの様な御用件でしょう?」


「うん、ガンズ君久し振りだね!今日はちょっと訊きたい事と知恵を借りに来たんだ」


そう言って女の姿をした公爵様は俺達の卓に椅子を持ってくる。


「さて、訊きたいのは…君達十二階層から十四階層まで行っただろ?それについて、うん、聞き取り調査をしたいと思ってね」


あー、あれか?データ取りってやつの一環だな?


「そうですか…どの様な事を話せばよろしいでしょうか?」


「…叔父様?何を訊くか決めて来たのでしょうね?」


「え?…あ~…そうだね、じゃあ十二階層から。手応えはどうかな?」


…一瞬言葉に詰まったぞ?何でもかんでも訊く気でいたんじゃねぇの?


「十二階層。いえ、三つの階層全てに云えますが、討伐対象の魔物に有利な環境でしたね。それもあって最初は苦戦しました」


「ほぉ?ほう!」


「…しかしながら、我々も三つのパーティー合同で挑み、更に事前準備をしましたので、次戦は苦労無く十四階層踏破を成功させました」


「…ふ~む、人海戦術と事前準備かね」


「戦闘については御記録されておられるかと」


公爵様は少しの間考えている様で、シェラが持って来たエールを口にしてからこう言った。


「人海戦術…一組のパーティーでは難しいのかな?」


「…叔父様?あれは酷いですわ、五~六人のパーティーでは無理です。数が多過ぎるわ」


冒険者が探索で、目にした魔物を片っ端から倒す訳じゃ無ぇ。


ところが深層じゃ全滅させるつもりでかからねぇとこっちが全滅する。


「そうかぁ…なかなか深層、深層って呼び方いいね、深層に来てくれないからデータを一度に取るつもりだったんだけど…裏目になったかぁ。いや、知恵を借りたいってのも人が来ないからどうしようって相談でね?」


「公爵様、地の利は魔物側にあります。それで数が多いのでは厳しいです…おいザップ、お前が説明してやれ」


「俺が?何を?」


いきなり振るなよ?


「報酬や予算の事だ。お前の管轄だろ?」


あ~、なるほどな。


「あーエヘン、公爵様、ザップと申しやす。人が来ない、その理由をお教えしやす」


まず第一に、予算が掛かる。


いくら護符があっても深層で使う消耗品はかなりかさむ。一つのパーティーじゃ賄え無い。


第二に、報酬が足りない。


パーティー一組ならいい稼ぎだが、複数合同じゃ予算に足が出る。赤字もいいところ。


第三、複数合同には事前に予定を組む必要がある。


どこのパーティーでもそれまでの探索予定や休暇の予定がある。それを擦り合わせるのにも時間は掛かる。擦り合わせている間は当然、稼ぎが無い。


「…と、まぁ、そういう訳で。護符は出回ってきちゃいますがね?行き様が無ぇんでさ」


「…叔父様?この前の合同探索、まず誰かがやってみないとって事で出来たけど…あんなに赤字が出たら後に続く人は居ないわ」


…そういう事なんだよな。


冒険者は冒険をしたいってだけじゃやってけ無ぇのさ。


俺やテレンス、ダンみたいに組の纏めをする者にとっちゃあ、稼ぎってものを無視は出来無ぇ。


「…そうかぁ、困ったな悪循環だ」


「公爵様、例え魔物の数を減らしても、深層を連続踏破するのには無理があります」


そこだよガンズ!良い事言った。


連続で踏破すればするほど赤字がかさむんだよ!その分、消耗品が必要なんだからな。


「連続踏破は無理…連続踏破…連続?」


公爵様はなにやらブツブツ呟いてそれから…


「うん、そうか、そうしてみるか…いゃあガンズ君、ザップ君、貴重な意見だ。ちょっと解決策を考えてみるよ」


…そう言って帰っていった。


「…大丈夫かしら?」


それ言うなってヴィーシャ。




────────


数日後、ダンジョンの前に…また立て札だよ。


『十二階層以降の改築について』


…暫く十一階層までしか潜れない、だと。


「よぉザップ、また何かやるつもりなのかな?」


「よぉテレンス、見ろよ、護符の意味が無ぇ」


俺はテレンスにこの間の公爵様と話した事を教えた。


テレンスは眉をしかめ、顎に手を当てて考え込んだ。


「…つまり、解決策を見付けてくれたって事か?」


「それならいいんだがなぁ」


「公爵様と話した事から想像すると、パーティー一組で潜れて、黒字収支、連続踏破に何らかの対応をする…か」


かなり無茶じゃねぇか?


「ショートカットして潜るんだ、それなりの稼ぎが無ぇなら誰も深層には行かねぇな」


「一階層から順に十階層まで進んで護符で一階層から帰る。腕のあるパーティーならそっちが儲かるからな」


そういう事だ。


何も順繰りに行かなくてもいい。十階層へまず跳んで…あんまりやりたか無ぇが、トログロダイト狩りをして一階層へ戻りゃ大儲けだぜ?


まぁ…テレンスには教え無ぇけどな?俺達の収入に関わる。


「ま、暫く様子をみるしか無ぇよ、テレンス」


俺はテレンスを残して宿屋へ戻った。


そろそろ旅の疲れも取れただろう、探索の予定を立てなけりゃな。



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