表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終点  作者: 十六茶
3/4


『このバスは自ら命を絶った者が乗るバスなんだ・・・もちろん終点はあの世なのだろうけど、この世に未練がある限り、終点で降りることはない。俺は屋上から飛び降りてからずっとこのバスに乗っている。あそこにいる二人だって、何だかんだで俺より長くここにいる』


おぞましい姿でも、言葉はぞっとするぐらいはっきりと、僕の耳に届いた。


『でも、もう終点に降りてもいいかな。君が来てくれたから。君も嫌な事があったんだね・・・だから死んだんだろう?・・・なあ、君も自分で自分を殺めたんだよな?』


「し・・・死んでない、死んでない!自殺なんか絶対にしていない!」


目の前に信じられない光景が続いて、僕の思考回路は限界を超えていた筈なのに。伊藤の放つ呪いの言葉に、僕は必死に抵抗した。


『・・・じゃあどうしてこのバスに乗っている?苦しみから逃れたかったんだろう?生きるのが嫌になったんだろう!?』


伊藤だけではない。

後方の焼け爛れた骸と、ふやけて腐敗した骸が座席から立ち上がって、僕を問い詰めに来た。

それでも僕は抗う。


「だって・・・なんで自分が死ななきゃいけないんだ!?僕はこれから先も、やりたい事がいっぱいあるんだよ!なんで一時の苦しみのために、自分の命を犠牲にしなきゃいけないんだよ!」


目の前の伊藤の潰れた顔が、いっそう歪んで見えた。



「伊藤・・・どうして自殺なんかしたんだよ。お前を追い詰めた、あの連中への当てつけか?あいつらは全然変わっていないよ!お前の事なんかとっくに忘れて、今は次のターゲットを探しているよ。学校だって何にもしてくれなかった。家庭の事情でお前は自殺した事になっちゃったんだ!お前が死んで変わったのは、お前の両親だけだ!」


「・・・・・・」


「息子を救えなかった、何も気づいてあげられなかったって・・・お前の葬式でずっと泣き叫んでいた。今も家に引き篭もって・・・」



僕はきっと頭の片隅で、自分はもう死んでいるのだと思った。

だからもう怖いものはないと、強気に出られたのだろう。


今まで抱えていた葛藤と苛立ちを、これを聞いた伊藤がどう思うかなんて気にもせずに、僕は爆発させた。


「あんた達も・・・自分が死んだら、相手が後悔して悲しんでくれるとでも思ったの?あんた達は切り捨てられたんだ!何をしても相手からは気持ち悪いとしか思われないよ!」


大人なのに、子どもの伊藤と同じ事をして逃げ出したこの二人も、何だか許せなかった。どこかで聞いた悩み相談の回答を、僕は尤もらしい正論としてぶつけた。


──子どもが偉そうにと反撃されると思ったが、なんの反応もなかった。


そして伊藤からも。


死神の運転手も何事も無かったかのように、終点に向かってアクセルを踏み込んでいる。


『そろそろ終点だ・・・今度こそ降りよう』

『そうね・・・もう疲れた。あの人も解放してあげなきゃ』


僕の乱暴な言葉が功を奏したとは思えないが。

二人の骸はそう決意を語って──元の人間の姿に戻った。


清々した表情に見えるのは僕の気のせいか。


『・・・俺も終点で降りる。君はその前に、このバスから降りろ』


──伊藤もいつの間にか額の割れた血塗れの姿ではない、童顔で内気そうな中学生に戻っていた。



「降りるって?バスは走っているのに、どうやって?」


僕は安心したせいか、当たり前の事を素直に質問してしまった。


『君は俺たちとは違う。それなのに間違えてこのバスに乗ってしまった。だったら途中で降りる事も出来るだろう』


そんな簡単に行くのだろうか・・・。

ここは現実世界ではなさそうだが、走行中のバスから降りるというのも、気が引ける。


『急げよ!時間がない!』


躊躇している僕に痺れを切らした伊藤が、僕の腕を掴んでバスの通路を後方に向かって、駆け出した。

非常ドアらしきものを見つけると力任せにこじ開けて、僕はあっという間にドアの外へ追いやられる。



道路を転げ回るかと思ったが、バスから離れると僕の身体はふわりと宙に浮いた。




『君とずっと一緒に居たかった。それが俺の未練だった』





最後に伊藤の声を聞いた気がした──。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ