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終点  作者: 十六茶
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『終点か・・・降りなきゃ駄目かな』

『降りたくないわね・・・』


再び中年男性と女性が言葉を発したので、顔を向けると───。


そこには二人。

いや。

二体の骸があった。


あまりの光景に僕は心臓が止まるかと思った・・・。

うまく息が吸えなくて、叫び声も出ない。


中年男性らしき骸は炎に焼かれたのか、溶けた服が皮膚に貼り付いて、その皮膚はボロボロに崩れ落ちていた。真っ黒に焦げた顔からは目玉が飛び出している。


色の白い女の人は、海の中を彷徨っていたのだろう、今はもう人間の形をした粘土のような塊。魚に食べられたのかもしれない・・・。

目と鼻と唇が無かった。


『なんでだよ・・・俺には息子しかいなかったのに。なんであの女だけさっさと再婚して、息子まで連れて行くんだ?俺はもう一人は嫌だ・・・』


『あの人・・・あたしのこと、絶対に離さないって。ずっと一緒にいるって言ってくれたのに。どうしてあんな女の所へ行ったの?あたし、あの人がいないと生きていけないよ・・・』


二体の骸はこんな姿になってもなお、去って行った者への未練を口にしている。


僕はやっと身動きが取れて、席を立ち逃げ出す事が出来た。

恐怖で、あ、あ、と声を漏らすのがやっとだ。

通路で何度か転んだが、何とか運転席まで辿り着く。


「た、助けて・・・」


とりあえず運転手に縋ろうと助けを求めたが、その顔を見て、僕はまた心臓が止まりそうになった。


生きた人間ではない、骸骨かミイラのようなものがそこにはいた。


黒いローブを羽織って魂を奪う大鎌でも持たせれば、僕が、多分皆もイメージしている死神そのものだった・・・。


映画か本で見た事がある。

バスかあれは列車だったか・・・。


実は乗客全員が幽霊で、運転手は死神。

運転手の傍にいた人物は死んでいる主人公。

終点は死後の世界という結末。


まさか。

僕が置かれているのは、そういう状況なのか?

僕はもう死んでいる?


何とか冷静を保とうとして、これは今まで僕が見た絵物語の世界、夢なんだと自分に言い聞かせるつもりが、物語と同じような設定に、自分が生きているという自信が無い。


じゃあ、もう1人の乗客の少年は僕の・・・死んでいる姿?


運転席の後ろにその答えは隠されている。


恐る恐る身を乗り出して、少年の顔に目をやると・・・。


「ひっ!」


・・・少年の額はパックリ割れて、おびただしい血がドクドクと流れていた。


ボトボトッ・・・それと一緒にピンク色と灰色の固まりがこぼれ落ちる。

顔は完全に潰れていて、目と鼻と耳からも血が溢れている。


怖さよりも気持ち悪さが先に来て、僕はその場にうずくまった。



これが僕・・・?死んだ僕の姿か?



『俺だよ・・・伊藤だよ』


グチャグチャの骸が言葉を発した。



・・・何だって?



伊藤?



去年、学校の屋上から飛び降りて死んだ、伊藤?



・・・これは、僕じゃないのか?





伊藤とは去年、同じクラスだった。


友達と言えるほど仲が良かったとは言えないが、何となく波長が合って、僕と似た思考の持ち主だった。


一緒にいると楽しかった。



けれど伊藤は二学期が始まった頃に、学校の屋上から飛び降りて死んでしまった。

伊藤は素行の悪い連中に目をつけられて、金銭もプライドも奪われ、追い詰められていたのだった。





血だらけの口をパクパクさせて、伊藤と名乗る骸が語り始める。




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