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終点  作者: 十六茶
1/4


目を開けると・・・僕は何故かバスに乗っていた。



窓の外は陽の光も差さない暗い木々に囲まれていて、どこの道を走っているのか見当もつかない。

視線を前に向けると、光る一本の細い道が伸びていて、バスはその道をゆっくりと走っていた。


次に車内を見渡してみる。

乗客は運転手と僕を除いて3人しかいない。

僕が座っている席の二つ前には、くたびれたスーツ姿の中年男性が居眠りをしていて・・・白髪混じりの、ストレスを抱えて疲れきったサラリーマンという風貌だ。

そこから通路を挟んで左側の席には、地味な色のコートを身に纏った髪の長い女の人。失礼かもしれないけれど、もう少し着飾ったらもっと綺麗になるだろうに・・・。


次に僕は運転席に近い、もう一人の乗客に目を移した。


ここから顔は見えないが、僕と同じくらいの背格好をした少年が、同じ右側の列の席に座っている。

学生服らしきものを着ているのだろうか。


気のせいかな、誰かに似ている・・・?


気にはなるが、わざわざ席を立って見に行くほどでもない。


それから何だかひょろ長い感じの、バスの運転手にも目をやる。

運転中なのだから当たり前だが、僕達に背中を向けてアクセルを踏みハンドルを握っている。通常通りの業務をこなしているのだろう。



──そして今ごろになって、僕は自分の置かれている状況と、身につけているものに気がついた。



なんだ?どうして僕はこんなバスに乗っている?


それにこの格好。

色褪せた水色の、病院でよく見かける・・・入院患者が着ている病衣とかいう寝間着。


バスが走っているこの道も・・・何かがおかしい。

もうずっと信号も標識もバスの停留所もない。前にも後ろにも他の車を見ていない。ただこのバスだけが、暗い森のような場所をゆっくりと走っている。


『・・・息子の具合が悪いんだ。早く家に帰らないと・・・』


静かすぎる車内に、気だるそうな低い声が響いた。

声の主は居眠りをしていた中年男性だった。


『あたしも彼に会いたいの。早く行かなくちゃ・・・彼を取られちゃう』


驚いた事に今度は大人しそうな女の人まで、ぼそぼそと語り始めた。


・・・この流れで行くと、前の座席のあの子も何かを話すのだろうか。


顔が見られるかもしれないと僅かな期待をしたが、業務中の運転手同様、こちらに背中を向けたままだった。


『君は?どこに行くの、そんな格好で』


中年男性に話しかけられて、思わず僕の顔は赤くなった。

そうだ、僕一人だけこんな入院患者みたいな格好なのだ。


「あ、あの僕は・・・」


困った、何と言ったらいいんだろう。

気づいたらこのバスに乗っていたんだから。

しかもこの姿・・・そもそも僕はどこに行きたいんだろう?


そしてこのバスはどこに向かっている?


『次は終点────』


今までずっと口を開く事の無かった運転手が、突然アナウンスを告げた。


終点?


よく聞き取れなかったが、やっとこの暗い森を抜けられるのだろうか。


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