スペイン内戦後編
「こちらアイン、目の前に敵兵士を確認した。ヒルデ援護射撃を頼む」
「了解した」
ヒルデはチームアインが進んでいるルートをスコープから覗き込む。街頭に敵兵を発見した。敵は煙草をふかしており、煙が風に揺られ二本の線を空に引いていた。一人はヒルデの高台から目視できるが、片方が見えずにいた。
「発砲と同時に片方も片付けられるか?」
「やれるぞ」
返事を聞くと颯爽と発砲する。弾丸はジャイロ回転をし、空を切り、敵の頭蓋骨を貫通し中枢神経をも破壊し後頭部から排出される。敵兵は急な出来事により動揺し、その隙に首を絞められた。
電撃的に首都内部を進む一一四師団。前線は今なお砲撃、爆撃の嵐に晒されているだろう。そして、三部隊は発見される事なく首相官邸にたどり着いた。
「ヒルデ、残るはお前だけだ俺らは先に侵入している。見つかるなよ」
ヒルデは変装を解き、首相官邸へと向かった。道中に敵兵と不意遭遇することは無く、裏口からの侵入に成功した。
二丁のライフルを背中に背負いサブマシンガンを構え、道を進むヒルデ。足音を立てずに進み、曲がり角にさしかかったとき、足音が聞こえた。しゃがみ、相手の腹部周辺に銃を構え飛び出る。そこに居たのは師団の隊長だった。
「なんだヒルデか。上官に銃を向けるのは問題があるような気がするがまぁいいだろう。全員が待っているぞ」
隊長の後ろに付いて他の部隊員が集結している場所に到達した。既に制圧は終了しており、現在は各個の判断で行動をしている。数分後には布袋をかぶせられた人物らが連れてこられた。
「傾注!只今より、撤退を開始する。我々の目的は達成された。今作戦の一番の功績者はヒルデだ。この作戦を提示されなかったら内戦はさらに長引いていただろう。さぁ、撤退を開始する!」
隊長を先頭に正面から一気に離脱を開始する。首相官邸内のしんがりはヒルデが勤めた。首相官邸から抜け出し、十字路に差し掛かったところで、先頭の二名が左右を確認し、しんがりが通り過ぎると同時にしんがりを交代した。
郊外での哨戒に勤めていた部隊と合流し、首都マドリードから距離を取る。その際通信兵が国粋派陸軍の予備自動車化歩兵をよこすようにと通信しており、その後無事に合流を遂げた。
敵軍は軍司令部、並びに国家元首が居なくなったために次第に組織率が低下し、次々と降伏していった。そして、ヒルデらがフランコ将軍の下に到着する頃には完全に共和派は沈黙していた。
国家元首兼軍最高司令官のフランコ将軍が指揮を執っている場所であるサラゴサに到着した。軍用トラックから降り、フランコ将軍の所に向かった。
「失礼します」
隊長とヒルデが捕虜を携え、スペイン将校らが会議している中に入る。スペイン将校らは捕虜の方に目線が集中していた。
「国家元首及び共和派将校の捕縛に成功いたしました」
その時、国粋派の将校らは喜んだ。それを、一瞬で律したのはフランコ将軍だった。
「諸君、まだ内戦は終わってはいない。アサーニャ今すぐ降伏を宣言しろ。お前らにはもう抗う術はない」
フランコは直ぐ部下に国内放送の準備をさせた。その準備は直ぐに終わり、無線室にアサーニャを連れ込んだ。
「共和派全軍に告げる。共和派は国粋派に降伏する。無駄な抵抗はやめ即座に武装解除をし投降しろ。もうこれ以上血を流す必要はない」
その降伏宣言を聞いた共和派の徹底抗戦をしていた兵士らは、抵抗をやめ国粋派に投降した。その後、彼らは国粋派の兵士としてまた働き始めた。
その晩、内戦終了を祝ってマドリードでスペイン将校のみの宴会が行われた。その中に、ゲストとしてヒルデらの部隊が呼ばれた。
宴会会場はとても広く、食事は豪勢に様々な料理、パエリアがテーブルの上の皿に盛られていた。それを将校は適当に自分の手に持っている皿に持っていく。ヒルデもその中に紛れて料理を皿に盛る。他の一一四師団のメンバーは恐れ多く、その場に馴染めていなかった。
ワインを飲み始めたヒルデは若い将校と会話を弾ませていた。話が盛り上がる中、会場内が暗くなり、中央部がスポットで照らされた。そこには、勲章を持ったフランコ将軍が立っていた。
「この内戦がいち早く終わりを迎えれたのはヒルデ少尉のおかげだ。彼は今この会場内に居る。彼は数多のソ連義勇軍を退け、現在まで至った。彼にスペイン上級十字勲章を授ける。ヒルデ少尉はここに来たまえ」
ヒルデはフランコのもとまで移動した。そして、軍服にスペイン上級十字勲章が付いた。
世界は驚いた、内戦が早期に終了したことに。そして、新たなる恐怖を知る事となった。イギリスはスペインが枢軸に加入することを見越し、ジブラルタル海峡の要塞化を進めた。
枢軸国は世界恐慌の時から存在していた日独伊連合はイギリス陣営の脅威となり得る存在だった。事の始まりはイタリア、ドイツがファシズムとなった時だ。
この二か国は極秘に同盟を結び、更には通貨を共同化し、ユーロと名付けた。更には、企業の増設を相互に支援し、世界恐慌での失業者らに職を与え、国内の不満を一時的に取り除いた。
この頃、独伊が目を付けたのが東の国日本だった。ドイツは直ぐにルドルフ・ヘスを送り、枢軸同盟を公表すると同時に日本を加盟させた。
日本が枢軸国に加盟した裏には青年陸軍将校らの起こした事件により、日本国内のイデオロギーがファシスト寄りになっていたことによるものだった。
そして、イタリアが日本から金を輸入し、ドイツに格安に売り、ベルサイユ条約の借金を早期に返済した。
借金の返済が終わったドイツは日伊に技術協定を提案、二国はそれを承諾し、ドイツは海軍の技術、日伊は陸軍の技術を得た。
ドイツの海軍増強は日伊で行われ、陸軍は精鋭と言われるほどのものとなった。そして、ラインラント進駐をきっかけにドイツ陸軍は増強された。
粛清第二弾。スペイン内戦後編だ。まだまだ粛清は続くから楽しめよ