第9話 再会
次話は、会話文を先に書いてから、間の地の文を書いていっているので……。
もうちょっと自然な会話が出来ていると思います!
「--え……どう、して……?」
何故、仲間に裏切られたような顔をしてるんだ。
俺に向けられたナイフの刃が震えている。
それだけじゃない、体全体が震えていた。
「オズくん……? アウラ……?」
少年が震える声でそう呟き、金髪碧眼の少女の影が俺の目の前を横切る。
俺の中で、くん付けされたことが少し腹立った。
俺と、アウラの名だ。
だが、当然俺はこいつのことは知らない。初対面だった。
「なんで、わたしの名前を」
聞き返すアウラの手は、まだマサムネとムラマサに触れられている。
だが、その手は刀から離れようか迷っているようだった。
顔からも、困惑していることが見て取れる。
この少年。
どこか盗賊っぽくは無かった。服装は盗賊そのものだ。
でも、どこかそれとは違う雰囲気があった。
「ぼ、ボクだよ! セシリアだよ! だから、そんな危ない物はしまって!」
「「……え?」」
悪いな少年。これ、標準装備なんだ……。
じゃない。
思わず、声が漏れた。
「あ、この姿じゃ信じてもらえないか……ごめん、ちょっと待ってね」
懐かしさを含む声に合わせて、おだやかな光が少年を包む。
完全に光が飲み込むと、次第にシルエットが変わっていった。
変化が終えると、一瞬で光が粒となって散る。
「「……」」
セシリアだ。あの時と変わらない、セシリアの姿だ。
いや、それは違うか。身長が伸び、女性特有のモノが成長していた。
もう何も言うまい。
今度は、俺らが驚く番だったらしい。
俺の顔がどうなっているかは、分からない。けれど、アウラは未だに信じられない眼でセシリアを見ていた。
さっきから、いや、まさかね……、とは思っていた。
だけど、本当にそうだとは思っていなかった。
だってよ? 普通、セシリアが目の前の少年だって思わないでしょ。
これも、能力適性検査Aランクだからか? 超能の才能が、性別の壁を越えてきたのか?
いやもう、何でもありだよ。アウラ含めて、バケモノだよ。
「その反応は、少し悲しいかも」
いやセシリアさん。さっき、あなたもそうしてましたやん。
セシリアが苦笑いをした。
でも、何でこんなところに……?
俺がセシリアに、何があったのか問い詰める前にーー。
アウラがセシリアに向かって飛び込んだ。俺が視認したときには、宙に浮いていた。
「ちょっ、アウラ痛い痛い。危ないって」
と、言ってるものの、セシリアは満更でもない感じだ。
そのやり取りを見て、俺も難しい事は後にして、今はまた会えたことを喜ぼうかなと思い直した。
「……それで、セシリア先輩はあまり変わってませんね」
手始めに、こう声をかける。
テンプレだって? ……うるせぇ。
「いや、ちゃんと変わったよ! ホラ見て、こことかこことか!」
と、ぷんすかと怒りながら、自分の体で変わったところを指さしていく。
俺は性格のことを言ってるんだけどなー……。体の方はかなり変わってますって。見て分かります。
流石11歳、そして異世界。地球とは全然違うぜ、成長具合が。
「というオズくんも変わったね。いや、変わりすぎだよ。何がどうなったら、紅くなるの?」
「あー……そのことですか……。正直、自分でも良く分かっていないんです」
いや、ホントにね。そんなことした覚えもないし……原因も……いや、あるか。
異能。
「でも、アウラは変わってないね」
「うるさいわね!」
まあ、確かに。
セシリアが8歳の時には、アウラも成長段階終わってて、こんな感じだったしな。
……何にしても、会えてよかった。
「……?」
そこで俺は、セシリアの背後に箱があることに気づいた。
その周りには、色んな物が散らかっている。
「え、セシリア先輩。その後ろのやつ……何です?」
「オズくん、さっきから黙っていたけどさ……。前からボクのことはセシリアって呼んでって言ってたの忘れたの? しかも、その変な喋り方も止めてほしいって言ってたよね? ほら、昔みたいにさ」
そう言って、セシリアが頬を膨らませた。
「すいません」
いや、マジですいません。忘れてました。
というか、やっぱ年上にはそう呼ばないと失礼な気がしていました……。
いつからそう呼び始めたかは俺でも覚えてないけど、今でもそんな気してます……。
「これからは、ちゃんと呼んでね? で、コレの事だよね。爆弾だよ」
「え?」
「爆弾だよ」
やべぇ、すげぇ笑顔。
大事な事なので、二回言いましたって、聞き間違えじゃないよね?
「いや、でも……」
「爆弾、だよ?」
……うわぁ、有無すらも言わせてくれなさそうだよ。
爆弾としか返してくれそうにないよ、この人!
途中で途切れる言葉のキャッチボール。
アウラは、何故か『やるわね!』、と言いそうな雰囲気。
……俺がおかしいの? 俺だけが?
「オズくんの言いたいことは分かるよ」
あ、分かるんだ。
セシリアは自分の頬をかいて、笑った。
「これはね、ここを爆破するために作ったんだ。と言ってもまだ製作途中なんだけど……」
あ、やっぱそういう意図。
でも……これでまだ途中なのか、俺には見てもよく分からない。
そもそも、こんな技術どこで学んだんだろ。
……ここ、なのか?
そんな気がする。
「ーーシッ!」
その時、セシリアが自分の口元に指を立て、鋭い声を出した。
足音が近づいてくる。
まだ、生き残りがいたのか……。
だが、こっちに気づくことは無かった。
光の当たらなく、滅多なことが無いと気づけない洞穴だ。そのまま通り過ぎて行ったようだった。
……別に隠れる必要は無いと思うんだけど……。
「ふぅ……やっと行ったか……。まずい、そろそろアイツらが返ってくる頃かもしれない。知らないと思うけど、実は、昨日の夜に孤児院を襲撃する計画が立てられていたんだ」
知ってます。
「何で二人がここにいるのかは分からないけど、その様子だと会わなかったようだね」
と言うと、セシリアは散らかっていた爆弾の材料をかき集め始める。
焦っているのか、やけに手を早く動かしていた。
でも、でもな。セシリアは知らないんだよ……。
俺らが殺したと言えるか……? ……やっぱ言えないよなー。
と、俺は思っていた。
俺だけが。
「大丈夫よセシリア! そいつら、オズが殺したから!」
ちょ、アウラ!? なんてことを!
アウラだけは違ったようだった。
恐る恐るセシリアを見ると、セシリアも俺の見ていた。
そして、口が開き……閉じかけて、また開き……。
その口から、魂が抜けていくような気がした。
あ、でもアウラ、そんな大声出すと……。
「誰だ!」
ほらやっぱり!
洞穴のすぐ奥から、敵対的な声が響いた。
どうやら、先ほど通りかかったやつに気づかれたようだ。
「ど、どうしよう……! はっ、そうだボクが、殺れば……!」
「いや、無理しなくてもいいから」
セシリアが慌てふためき、俺がツッコむ。
その間に、盗賊は進んできていたらしい。
屈んだ状態の男が、顔を出した。
「て、てめっ! こんなところに……。今までどこに隠れてやがった!!」
次に、声を荒げて叫ぶ男。
アウラが刀を抜いた。
それと同時に、セシリアが短剣を男に向く。
その刃は、俺に向けたときと違って、迷いが無かった。
「--【纏 風】!」
その上、セシリアが呟くと、それに反応したように、刃が緑色のオーラで包まれた。
それを、振る。だが、虚空を切っただけだった。
それどころか、3メートルほど距離も空いていた。
だが、なのに。
男の首がずるりと滑らかに落ちた。
それは、距離関係なく切ったわけじゃなかった。
斬撃を飛ばしたのだ。いや、それも違うかもしれない。
俺の眼では、緑色の刃が飛んでいたのが見えた。
アウラを見ると、かなり驚いているようだ。
実はアウラも似たようなことやってるんだけどな……。
「えっと、セシリア。今のは……?」
「風を飛ばしたんだ。名前は……恥ずかしいけど、自分で付けたんだよ」
と言って、また頬をかいた。
彼女は、恥ずかしそうに笑っている。
それを見て、一言。
アウラもそうだけど、何でセシリアはそんなに精神図太いの?
血見ても、大丈夫なのは何で?
……俺? 俺は25歳だから違うよ。