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第7話 二度目の炎上

今回は長めです。

 慰めた後も、アウラは俺から離れようとしなかった。

 その後、ようやく泣き止んだアウラは、『今夜は一緒にいたい』と言い出すもんだから、最後だし俺の部屋で寝かせる事にした。

 言っとくけど、別に変な意味じゃないからな! 寝たのを確認した後、俺は床で寝たし!

 あーでもやっぱ、背中痛い。だけど、後悔はしていなかった。


 これが、アウラと過ごせる最後の時間。出来るのなら、ずっとこうしていたい。

 なのに。


 裏腹に、嫌な感覚がしていたのは何故だったのだろう。


 俺の頭のネジが取れたのかな。

 全く殺気が湧いてこない。あんな事があったって言うのに……全く。

 俺はいいから先に行け、と。そんな死亡フラグじみた事ばかり考えていた。

 それどころか、心に余裕が出来たという感覚までしている始末。

 俺、完全に壊れたなーと、自覚した夜だった。


 急激に微睡みが覚めていく。

 だんだん暑さが酷くなる。熱さではなく、暑さ。


「……ぅ、なんだ……?」


 目を開けると、そこには地獄が広がっていた。

 血ではない、崩壊でもない。


 ーー火事だ。


「ーーは?」


 いやいやいや、目が覚めたら、火事って何よ。

 誰か放火しそうな奴っていたっけ? いや、知らんか。

 というか、この自分の落ち着きようが凄い怖い。


「……あっ!」


 そういや、アウラは大丈夫か!?


「って、いないんだけど?」


 ベッドも枕も、掛け布団もある。

 ただ、本当にいるべき人だけがいなかった。


 え、いや。何で? 

 ……まさか、寝てる間に連れてかれたとか? いや、それはないか。

 第一アウラが俺の部屋で寝ている事は、誰も知らないはずだし。

 あのアウラの事だ、もし連れてかれそうになったらすぐに起きて叫ぶ。俺が気づかないはずが無い。


 なら、何故? 火に囲まれた中、冷静に考えて出た結論。


「あっそっか、あいつ逃げたのか」


 まぁ、無能の俺に愛想ついても可笑しくはなかったから、しょうがないか。


「……っ」


 無能と超能じゃ釣り合わない、それは分かり切っていた、けど……やっぱ悔しい……。


「……畜生」


 俺に救う人なんていない。いや、いなくなった。

 丸眼鏡とかは最初からカウントしてないから、勝手に死のうが知った事じゃない。


 アウラのように俺だけでも逃げようと、思って開きっぱなしのドアを潜り抜け、廊下に出た。

 幸い、この建物は石造りだ。木製以外燃えていない、まだ十分に逃げられる。


「ーー?」


 階段を下り、廊下を歩いていた、その時。


 キン! という、金属が打たれるような、高く響きの良い音が聞こえた。


 空耳かなと思いつつ歩き続けるが、やっぱり気のせいではない。


「一体何なんだよ」


 流石に気になった俺は、すぐ近くにあった窓に手をかけて下を見た。


「ーーは?」


 何で……? 逃げたんじゃなかったのか!? というか、何で剣なんか使えるんだよ、誰から教わったし!


 そんなツッコミを入れた相手は……。


 火の如く燃え上がる、紅い髪。相手を視線だけで焼き殺しそうな、紅い眼。


 ーーアウラだった。


「というか、死んじゃうんじゃ……」


 アウラは、軽い身のこなしで敵の剣をかわしている。だけど、ギリギリだった。

 剣の切っ先が服を引っ掛け、僅かながらに切っていく。服が血で染まり始めているのも見えた。


「おいおいどうしたァ!? そんなもんかァ!?」


 それに対する大男は、斧を振り回していた。

 ただ、無造作に、ではなく。夜の暗闇の中、アウラの剣を打ち落としながらも。

 それは戦いではない、最早遊びだった。


「ッ!?」


 大男が斧を高く振りかぶり、アウラが舌打ちをする。


「まずいッ!!」


 何故、アウラが逃げなかったのかは分からない。剣を使える理由も分からなかった。

 そんな疑問だらけの中、急いで階段を駆け下りる。


 無能の俺に、何か出来るとは到底思えない。

 けれど、それでも見ているだけじゃ……いけない。逃げたら絶対後悔する。

 そう思って、全力で廊下を駆け抜けた。

 最短ルートで、玄関まで。多少の火傷は気に留めなくていい。


「オズッ!?」


 俺が玄関から出て、アウラと大男が視認できるようになってから、アウラも俺に気づいた。


 無茶しすぎだよ、切り傷ばっかじゃないか!


 俺の顔が歪む。痛々しい傷だった。

 深手では無い致命傷も無い、だけど肌の至る所が薄く切られていた。顔に傷がついていないのは、わざとなのか。

 本で読んだ回復魔法が無いと、キレイに治らないのは、すぐに分かった。


「アン? ……何だガキかよ」


 大男が、アウラの剣をはじきながら鼻で笑う。


「オマエ、コイツを助けるつもりで来たんじャねェよな?」


「そうだ、文句あるか!」


「ーーぷはっ、こいつァ面白れェ! まさか、俺が守るってか? 笑わせてくれるねェ!! まァ、安心しろや。どうせ、コイツは売られる運命なんだ。その代わり、俺が可愛がってやるからよォ」


「……ッ! ふざけんなッ!!」


「お? いいねェ、武器も無しで戦おうってのか? ……だが、残念だ。オマエの相手はコイツらだよ」


 大男は、嫌らしい笑みを浮かべて、そう言い放った。

 同時に、草むらからあの大男と違う、みすぼらしい服装を着た男達が現れる。

 全員、片手に短刀を持っていて、下卑た笑顔を浮かべている。

 それを見て、ようやく気づいた。


 こいつら、盗賊か!


「俺ら、運がついてるぜ、まさかまた上玉に出会えるとはよ!」


 上玉とは、アウラの事だろう。一人がそう叫んだ。

 そこで、『また』という言葉が耳についた。


 また? ……まさか。


 咄嗟に金髪碧眼の少女を思い浮かべる。

 続けて、別の男が俺の予想を格付けさせる言葉を吐いた。


「あぁ……3年前の金髪か」


「おい、それはどういう……」


 3年前? 金髪? これだけじゃまだ確証は無いけど、ほぼセシリアに当たる。


「おう? 気になるか? 気になるよなぁ! 何だってソイツ、ここから来たんだもんなぁ!」


 その時。


 セシリアだ。そう確信した。

 多分、馬車での移動中にこいつらに襲われたのだろう。

 奴の口振りからして結果はすぐに分かった。

 だが、貴族が弱かったのか、それとも、こいつらが強かったのか、それは分からない。


 でも、あのボディーガードのような黒服の男を倒せるとは思えなかった。見るからに、戦い慣れしてそうだったから。

 だから、俺は今、セシリアが捕まったと聞いて驚いている。

 だけど、すぐに、今は驚いてる場合じゃないと改めて知った。


「おらァ! そろそろかァ!? そろそろ弱ってきたかァ!?」


 アウラが、息を切らしている。明らかに剣を振る速度が落ちてきていた。

 もう持たない……!?

 もし彼女が捕まったら、売られるよりもよっぽど酷い人生を送る事となる。

 それは、一目瞭然だった。


「まぁ、俺らに会ったのは運が悪かったと思ってくれや」


 そんな声が聞こえる。

 見ると、一人が無警戒な足取りで、俺の方に歩いてきていた。

 それから、迷いなく短剣を振りかぶる。

 多分、簡単には死なせてくれないだろう、刃のこぼれたナイフを。


 直後。


 俺が死ぬ直前の見た景色。切っ先の尖った木が落ちてきていた事を思い出した。

 これが走馬燈か? あの時みたく、時間が止まった気がした。


 いや、時間が止まっているんじゃない。遅く見えてるんだ。


 何の根拠も無く俺はそう思った。だけど、その答えは絶対に揺るがない。


 その時。


 脳内を電流が走った。赤く、紅いスパークが。


「んなッ!?」


 男の短剣が弾け飛び、カーブを描いて地面に落ちる。

 男が呻き声を出して、右腕を押さえていた。そこから先を見る。


 ーー無かった。


 手首から先が消えていた。肉の断面が黒焦げていた。


「ーーねよ」


 俺はその事について、深く考えない。何が起こったか、誰がやったのか。

 なぜなら、全て理解していたからだ。


 俺だ、俺がやった。


 あらかじめインプットされていたように、力の使い道が分かった。

 無能の俺に宿る、異能を。

 俺の大切な物が傷つけられている、なら……。


 ーーぶっ潰せばいい。


 手始めに、腕を消し飛ばした男の懐に潜り込み、自分の指を曲げる。

 迸る紅いプラズマが、五指を曲げた掌に収束し、闇夜を切り裂く。

 みるみるうちに球体へと化し、腹部に押し当て放った。

 莫大なエネルギーの塊だ。それが至近距離で爆発したらどうなるか。……もう、お分かりだろう。

 強烈な光が五指の隙間から漏れ出てーー。


 爆発した。爆音ではなく、放電したような音が轟いた。

 電流が、男の体を伝い地面に逃げる。

 ドサッと地面に倒れる男の腹には風穴が開けられていた。内臓、血、肉、全てを消し飛ばされた死体に変わっていた。


 何で電流が、肉を消し飛ばすんだろうね。


 他の奴らは、それを見ても、まだ何が起こったか理解できていないようだ。呆然とした顔で突っ立っている。


 盗賊の長らしい大男も、アウラも手を止めている。

 動かないのは都合がいい。


 すぐに一人、また一人と消していった。

 腹ではなく、頭を消した奴も、塵も残らず全身を消した奴もいる。


「ーーば、バケモノが……!!」


 中には短剣を突き刺そうとした奴もいた。

 だが、例え50メートル離れていても、1秒足らずで腹を貫かれたらどうだ?

 当然、ひとたまりもないだろう。


 紅い稲妻を出した事だけじゃない、俺は身体能力も壊れてしまったようだ。

 チラリと見ると、アウラは限界まで目を見開いていた。


 アウラも、俺が怖いかな。


 まあ、仕方ないかと思った。

 今の俺は、紅い。皮膚が染まったわけではなく、俺の身を電流が纏っていた。


「……ッ!」


 多分、約10秒。この時間内に20人程殺した。

 残りは、斧男だけだ。


「俺は、元Bランク冒険者だ。オマエみたいなやつは、Sランクまで行けば沢山いる」


 うん、だから? 唐突に別の話持ち込ますな。というか、BランクがSランクを語るな。


 見て分かる程、ガクガクと脚が震えている。というか、気のせいか? 漏らしてね?


 膝を曲げている辺り、多分、あいつは俺が懐に潜り込んできたところを斧で叩き殺すつもりなのだろう。

 その状態で、それが出来るとは思えないけど。

 と。そこで、そうだ練習台になってもらおう! と、思いつく。


 肩を捻って、腕を斜め後ろに引いた。

 それから、さっきと同じように掌に力を収束させる。

 だが、今度は球形じゃない。槍だ、投擲槍に形を変えた。


「オマエ、一体何なんだ!? 紅い雷魔法なんて聞いたことが無い! 普通、そんな風にはならないぞ!?」


 知らんがな。だけど、一つ答えられる事があるとしたら……。


「ただの無能です」


 笑顔で言ってやった。そして、全力で投げつける。

 斧男は、既に走り出していたらしく、槍の軌道から外れていた。

 斧男の脇腹すれすれを通り越し、奴の顔が安堵に変わるのが見える。

 そのまま真っすぐに飛んでいくと見えた。実際に直進している。


 だが、突然槍が向きを変えた。ぐにゃりと曲がり斧男めがけて。


「--追尾式だよ」


 槍型の紅いプラズマが残像を残して、追いかける。

 あの速度なら、誰も捉えきれていないだろう。

 斧男は安堵の表情のまま、貫かれた。あまりにも威力を強くし過ぎたせいか、槍は貫いた後も、風圧だけで地面を深く抉り、木々を倒していく。


 血だまりに最後に残ったのは、肉の欠けた損傷の酷い大量の死体と、上半身と下半身がさよならした斧男だった。

 しぶとい。斧男は、まだ生きているみたいで、唖然とした顔をしている。何が起こったか、理解できていないようだ。

 だが、もうじき死ぬ。


「……あ」


 アウラが声を漏らす。その顔には恐怖が浮かんでいた。


 俺はこんな事をしたのに、気持ちはいつもより冷めている。殺しを行ったことに対して、何も感じていない。

 いくら一緒に同じ時を過ごしていたとしても、こんなバケモノに変わったら怖いよな。


 だけど、悲しみははっきりと感じていた。

 俺を見捨てたと思ったアウラは一人で戦っていて、逃げた訳じゃなくて安心して……。

 今度は、怖がられて……。


 俺は、あいつから離れて生きていくべきだろうと、もう二度と会うべきではないと思って門を抜ける。

 直前まで、アウラはまだ俺を見ながら立ち尽くしていた。


 あいつに会う資格は、もう俺には無い。手を血で汚した俺には。


 そう思いながらも、整備された道を歩いていく。

 目指すのは、盗賊のアジト。

 そこを探し当てるのにどれぐらい時間がかかるのは分からない。けれど、絶対に見つけるつもりだ。

 セシリアを助けないといけない。


 あーくっそ。最後に一人残しておくんだった。


 こんな事になるんだったら、と。後悔して自分を叱りつける。


 突然。俺の目からとめどない涙が流れてきた。


 足を一歩一歩、動かす度にそれは酷くなる。

 いつしか、前がちゃんと見えなくなっていた。血がべったりとついた腕で拭っても、まだ溢れてくる。


 セシリア助けたら、どこに行こう。

 やっぱ、山奥で一人寂しく生きていくしかないか。


「はぁ……これで完全に、俺の居場所は無くなったな……」


 別に、俺は人殺しをした事の責任を感じてるんじゃない。

 むしろ、あういう奴は死ねばいいと思うし。

 ただ、二人に顔向け出来ないだけだ。


「--そんな事は無い!」


「え?」


 片手を掴まれ、ありえない声が聞こえた。


 いや、そんなはずは。

 俺、かなり離れたよな? 何で追ってきてんの。

 でも、アウラが追いついてきたのは事実だった。


「居場所なら、わたしが作るから……そんな事、言わないで」


「っ……!」


 確かに、居場所を作るって言ってくれるのは嬉しいよ。

 だけどさ。


「アウラはさ。俺のこと怖くないの?」


 それが、昔馴染みのよしみという気遣いだったら俺は要らないし、受け取れない。


「……確かに、怖かった」


 だよね、それが普通だよ。


「でも、オズだから……怖かった日も、いつもわたしには変わらず優しかった、大好きなオズだから、わたしは気にしない」


「……は?」


 予想外な言葉だった。

 それはもう気遣いのレベルを超えていて、家族みたいとか、それとは別の何かと化していた。


 まるで……。

 いや、やっぱり止めておこう。


 とにかく……俺は。


 俺は今日、人間を辞めた。

 もう人間に戻れないと知った。


=====================================


「ねぇ、アウラ」


「何?」


「いやさ、俺、もうこの力は使わない方がいいかな……? ほら、危険でしょ?」


「……オズ」


 あれ? 俺、地雷踏み抜いた……? って、何で俯いた! めちゃくちゃ怖いよ!?


「わたしはその力、好きだよ。オズみたいでさ、何よりわたしと同じでしょ。ほら、この紅い髪」


 そう言って、アウラは自分の髪を持ち上げた。

 朝日が紅い髪を照らしてるせいか、輝いて見える。

 嬉しいな、でもさ。俺みたいって、どういうこと……?


 と、思っていたのに出てきた言葉は。


「ア、ハイ」


 否定するなんて滅相も無いです、ハイ。

 いやー。気になっても、聞かない方が良いっていうのも多いって聞くしね。


「オズの右目とおそろい・・・・よ」


「うん?」


 残念、アウラの話にはまだ続きがあったようだ。


 てか、俺の右目どうなった!?

 セシリアから両目とも黒いから珍しいねって、聞いたんだけど!?

 ついでに、髪も黒いらしい。元日本人としては、嬉しい限りだ。


「髪も少し紅いよ?」


 そっか、紅も混じったか……。

 それはそれは。俺、日本人の特徴無くなってきてーー。


「うん!?」

この山場を越えれば、先は天国。

ちょっとやり過ぎた感がします……。

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