第6話 無能と超能、最後の夜
「--オズ」
あー、殺意とか全然湧いてこねぇ………。無能最高
「ねぇオズったら!」
「何!?」
何だよ。無能の俺に何か用かよ!? 最悪の気分だよ、現実逃避の途中なんだよ!
振り向きながら、声の主に向かって思いっきり叫び返した。
「……やっと気づいてもらえた」
やけくそ気味の俺とは異なる、心が安らぐ優しい声が返ってきた。
荒れた心が、身体を抱擁されるような感覚で包まれ落ち着いていく。
その言葉で、ようやく我に返った気がした。
そして、言ってからすぐ叫んだ相手が誰かと気づく。
「あっ……ごめん、アウラだったのか……。って、ここは、俺の部屋? 何で……えっちょっと待って、俺ってどれぐらいこうしてた!?」
何を待てと言うのか。
窓から見える景色は、既に真っ暗だった。
かなり時間が経っていると気づいた俺は、急いで、角座りを崩してベッドから降り立つ。
「夕飯の時間は終わってる、もう寝る時間」
平然と、どこまでも平坦な声だった。
「はっ? もうそんな時間なの!? といか何でーー」
起こして……くれなかった……の?
そう言おうとした。
だが、言う前に、華奢な体に支えられ、抱き着かれた。
……うん? これって、どういう状況……?
何故か、俺の表情が固まる。
「ねぇ……オズは、わたしの事、どう思ってるの? わたしは、オズから離れたくない。……セシリアみたいに、あの時みたいに、奪われるのはもう嫌」
俺の服に頭を埋めたアウラから、涙交じりの言葉が漏れる。
発せられた一言一言が、俺の心に深く突き刺さった。
俺だって、もう一度あんな思いをするのは嫌だ。
だけど、俺が無能だっていう事実は未来永劫どうやっても変えられないのだから、悔しいけど受け入れるしかないんだ。
でも、やっぱり俺の本心は……。
「俺だって、アウラから離れるのは嫌だ。けど……そんな事言われたって、力の無い俺にはどうする事も出来ないんだ。もし、俺がアウラと一緒に買われたとしても、俺の方は奴隷みたいな扱いだろうし、そもそも、無能を買うようなお人好しはいないだろうし……」
残酷だが、これが現実だった。これこそが、理不尽で覆せない運命。
「そんな事……言わないで。言わないでよぉ……」
アウラの声が、余計に震える。俺の方も泣きそうになってきた。
やっぱり、アウラも納得出来ないよな……。
それは、とても切実なお願いだった。
「だけど、俺はそうでもアウラにはまだ未来がある。ひょっとしたらセシリアと会えるかもしれないし、幸せになれるかもしれないんだ」
「でも……それでも、わたしはオズと一緒じゃないと幸せになれないのよ……オズがいない毎日なんて、意味が無いのよ……!」
……っ。
突然の告白。
その強い言葉に泣きそうになった。アウラがそんな事を思っていたとは、知らなかったからだ。
それでも、俺は思いに答える事は出来ない。答えたくても願いが届かないのだ。
代わりに抱きしめる。アウラにそうされたように優しく抱きしめた。
「っぐ……うぐぅ……っ……」
すぐに、空気を吸うのも辛そうなほどの嗚咽に変わる。
同時に、さっきよりも強い力で抱きしめられた。
でも、これだけじゃ、足りない。
片手でアウラの頭を優しく撫でる。紅い髪の毛先が俺の指と指の隙間からはみ出た。
そういや、撫でるのは、ホント久々だな……。お兄ちゃん呼ばわりがなくなってから、一回も触らせてくれなかったからなー……。
「--っ」
目の前が急速に霞んでいく。
ここでの楽しかった頃の思い出が溢れ出て、今度は俺の両目から涙が溢れてきていた。
例え、セシリアにどんな事があったとしても
暴力を振るわれたり、貞操に関わるような事をされてたりするのは、絶対にないです
そんな鬱ストーリーにするつもりはないので……。というか、書いてる僕が耐えられん。