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第5話 能力適性検査

セシリアについて、心配している方に向けてのネタバレ

第6話の後書きに書かせていただきます

展開が展開だったので……

 セシリアが連れていかれてから3年の歳月が経つ。

 俺は、絶対に喋らない。肩に、重く、黒に染まった手が置かれた。

 俺は殺す勢いで睨みつける。それでも、丸眼鏡を掛けた男はニッコリとした微笑みを崩そうとはしなかった。


「君達が8歳を迎えた事をわたしは嬉しく思うよ。でも、わたしは君達の本当の親ではない。それでも言わせてくれ……おめでとう」


 丸眼鏡は奥で影の差す瞳で、涙ぐんだ上辺だけの言葉を吐いた。

 やけに感情的なのは、俺らとはもう二度と会うことは無いだろうだから、最後に……。という哀れみだろうか。それとも、単なる俺に対する嫌がらせなのか。 

 だが、そんな事はどうでもよかった。


 頭の中を、ふざけるな、という言葉が支配する。

 あの日から、俺は冷酷で理不尽な世界を恨んできた。母さんの時も、セシリアの時も。どの世界も変わらずドス黒く染まっていた。


 ーーお前は、売る為だけに孤児を育ててきた……! しかも、俺が彼女の件に関わった事は知ってるだろうにまだ騙すのか? どうせ、欠片ほども思っていない癖に、まだ偽るのか……? 俺が嬉しいとか、おめでとうとか、そんな上っ面なセリフは求めていない事も知ってるはずだ。なのに、まだ……!?


 奴は俺を虫けら程度にしか思っていないと、初めて実感する。

 悔しさが押し寄せ、己の無力さに、強く。唇を強く噛んだ。


 ーー俺は、人を人として見ず、道具として扱い、子供だから、非力だから。俺が何をしても、絶対に大人には勝てないから。そんな理由で好き放題に力を振るおうとする奴らが嫌いだ


 そのため、あれからというもの俺はアウラ以外の人間を信用しなくなっていた。院長も、先生も、状況を理解しようとしない呑気な孤児も、あらゆる存在が嘘で塗りたくられていると思えてしまっていた。


「それで、そんな君達にやってもらいたい事があるんだ」


 普段より高い声に変わる。

 部屋の真ん中に設置された台に嵌る丸い水晶玉を、自慢するように院長は大きく手を広げていた。

 その横にはもう一つ台があり、白紙が2枚置かれている。

 俺にとっては見ただけで、これから何が行われるのかを想像するのは容易な事だった。


「どうだい、凄いだろう! 言っても分からないだろうが、これは適性の水晶玉と言ってね。そしてこの紙はその評価を記すという代物なんだよ。まぁ……やることの手順は簡単だから、無理に分かろうとしなくてもいいけど」


 丸眼鏡の鼻孔が広がり鼻息が荒くなる。

 単にこの魔道具に興奮している訳ではないだろう。

 これから下される評価が楽しみだ。俺から見て、そういった気持ちが隠し切れない様子だった。


「じゃあ、今から説明するね。まず水晶玉の上に手をかざす。以上!!」


 俺は視線だけでアウラを見る。彼女も俺と同じく笑顔ではなかった。無表情で、一切喋らないでおこうと口は固く閉ざされている。

 アウラに限ってそれはないだろうが、もし笑顔になるものなら俺が困る。奴が調子に乗るに違いなかったから。

 だが、セシリアの事やこれから起こるかもしれない事、あらかじめ俺の知る事を全て教えておいた。だから、彼女自身この行為には裏があり、かなり危険な事は重々と招致している事となる。


「じゃあどっちから行く……?」


 丸眼鏡は俺とアウラの顔を交互に見やった。


「もっと積極的に行こうよ! 楽しいだろ!? ………っち、ノリ悪ぃ……仕方ないなー。じゃあ、赤毛の君。君からね」


 と、口を閉ざし続けてる俺らに痺れを切らしたのか強引に決めた。個人的な感情を強要しながら。

 アウラが、嫌々と一歩前に出る。まだ、口はぎゅっと閉ざしたままだ。


 ーー名前すら覚えてないのかよ


 まさか、名前すら覚える気がないとは思ってもいなかった。俺が思っていた以上に、アウラの事をどうでもいいと思ってるみたいだった。


 覚悟を決めたのか、迷いなくアウラが手をかざした。

 すぐに、少し茶色がかった紙に文字が浮かび上がってきた。


「おぉぉぉおおおおっ!」


 丸眼鏡は、思わず声を漏らすのでもなく、言葉が出ないのでもなく、歓喜の声を響かせた。

 見て分かる程に、喜んでいる。もう隠そうとせずにガッツポーズまで取り始めたほどだった。


「君、凄いよ! Aランクだなんて、名前は? 名前はなんて言うんだい!?」


「っ……あ、アウラ……」


 身を乗り出した奴の顔が、アウラに近づく。

 かなり狂気的な顔だ。いつ以来か強気な性格に変わっていたアウラが、びくついた。


「アウラ……アウラちゃんか、覚えたよ! わたしは、君がやってくれるとずっと思ってたよ!」


 唾を飛ばすほどに早口で丸眼鏡が叫ぶ。

 少し離れた所にいた俺でも、奴の瞳に狂気が蠢いているのが見えた。

 アウラが顔をしかめている。

 結果によって態度を変える、都合の良い奴の姿勢に途轍もない怒りを感じた。


「それにしても、一万人に一人しか生まれてこないのに……3年間でこの孤児院からが超能が二人も出てくるとは……わたしはとても誇らしいよ!」


 ーー正直驚いた。そんなに確率が低いとは……そう考えると、セシリア先輩とアウラってかなり凄いんだな


 こんな時に、素直に喜んでしまう俺。


「この調子でドンドン行こう! ……おっ、次はオズ君か、期待してるよ!」


 ーー軽々しく俺の名前を呼ぶな。しかもセシリア先輩と同じ呼び方をしてやがる、嫌がらせは止めろ気持ち悪い


 睨みながら足を動かした。距離は5メートルぐらい。そこまで約8歩。


 何故、奴が俺の名前を知っているか。


 後5歩、アウラが心配そうに俺を見つめている。


 ーー何も、心配する事は無いのに……。


 後1歩。


 それは、奴から見て俺は優秀だったから。名前を覚える価値があったとみなされたから。


 0歩。


 水晶玉の前に立つ。身体に力を入れる必要は無かった。

 覚悟なんて必要無い。例えFランクだったとしても関係無い、この孤児院から逃げ出せるだけの力があれば良い。そう願い、手をかざした。


 一瞬。


 目が眩んだ。


 この世界は、電気という概念があるかは分からない。そこまで文明が進んでいないかもしれない。

 仮に存在したとしても、ここは電気を使えない空間だ。しかも不魔結界まで張ってある為、魔法でも作り出せない。

 なのにバチバチという音が聞こえた。それどころか、いつの間にか紅いプラズマが部屋中に網を張っていた。


 ーーはぁっ!?


 頭の中で疑問文が渦を巻く。


 ーー何が起こって……!?


 俺は、目を見開いた。

 丸眼鏡は文字の浮かび上がる紙を玩味し、アウラは俺の方を見ている。

 二人とも異変を感じた様子は無かった。


 ーーえ、じゃあ……まさか、俺だけ見えているのか……? 聞こえてもないのか?


 つまりはそういうことなのだろう。


 静かにため息をついた丸眼鏡が、避けることなく網を貫通して、俺の前に歩いてきた。

 肉が切れ、血が垂れる事は無い。元々、そこに存在していないかのように、すり抜けてきたのだった。


「結果は……」


 やけにトーンが低い声。


「能力適性、皆無。無能力者だよ」


 そこで奴は言葉を区切って、もう一度ため息をついた。


「君は文字が読めるみたいだし、色々と期待してたのになー。……がっかりだよ無能君、君にもう用は無い。ここから出ていくと良い」


 その言葉を投げられて、一瞬にして混乱が吹き飛んだ。

 とても冷酷な、人間が出すとは思えない程に底冷えした声だった。これが、奴の、本当の本性。

 もうプラズマがどうとかは、どうでもいい。


 ーーだけど……


 ーーそんなのって、ありかよ……!? 確かに俺は、適性値がどうとかは望まなかった。けど……無能力者は無いだろ……! 一度死んで、セシリアを連れてかれて……こんなのってありかよ……


「あ、そうそう、ちょっと待ちなさい。わたしは今、生まれて初めて無能を見たんだ。なんでだと思う?」


 嘲笑を含む声。顔を上げたら、鼻で笑われた。

 アウラは信じられないような目で俺を見ている。


「それはねー……。無能は百万人に一人しか生まれないからだよ」


 その時。


「ーーは……?」


 時が止まったような気がした。


 ここでは口を開かないと、決めていた。

 なのに、今、その決意が折られた。それだけの破壊力を秘めた言葉だった。


 ーーどこまでも冷酷な世界は、俺に理不尽しか与えない。


 俺は、切実にそう思った。


「まさか無能が此処から生まれてくる事になるとはね。非常に残念だ」


「ーー院長!」


 我慢が出来なくなったのか、アウラが大声で叫んだ。


「……もういい、出ていけ」


 流石に、超能に敵対されるのは怖いのか。

 それに対する丸眼鏡の発言は、それだけだった。それ以上の言葉は無かった。

 なのに、その冷たい一言が俺に重くのしかかる。

 無能は不遇な扱いしか受けないんだろうな、と。前々から想像はしていた。だけど、これよりは酷くなかった。

 無能の本当の扱いを、俺はこの時、初めて知った。


「行こう、オズ」


 アウラに腕を引かれて、扉から出た後も、俺はショックでほとんど放心した状態となっていた。


この重い話を切り抜けたら、天国です


多分

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