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第17話 ギルド長による破壊命令

 まさか黒大蛇が、そんなに凶悪な魔物だったとは……。

 アイツ一体で、村が五つ程滅ぼされる事は覚悟しないといけないらしい。

 いや、驚きだね! あっけなく死んだせいか、俺自身そこまで強く無いと思ってたよ。

 手加減したと言え、俺のパンチで死ななかったモンな。

 それだけでも十分強いはずなのに、弱い勘違いしてた俺!

 冒険者稼業の人、ゴメンッ!


 ギルド長室にて、結果報告中の事。

 今は、ガルフさんの受けた依頼や死の略奪、その他もろもろの報告が終わったところだ。

 ギルド長の横でエリカさんが、事細かくメモられた書類を渡そうとしていた。


「ギルド長、終わりました」


 話の途中、何度も美人ギルド長の顔が驚愕に彩られていた。

 誇張されていなくても、元々が夢物語のような出来事だったのだ。そうなるのは無理もない。

 それやったの、俺なんだけどね?

 んで、次は、俺の冒険者登録の話のはずなんだけど……この様子だと、まだ先になりそうだよ。

 早く終われ、腹減った!

 こちとら、歩き疲れて……。

 ないな。

 これなら、一日中歩いても疲れなさそう。

 その前に俺が嫌になると思うけど……。

 顎に手を当て、俺を見つめるギルド長こと、リーゼさんが、ガルフさんに確認をとった。


「それで、オルバリスを救った英雄は……この子だと言うのかい?」

「最初は信じられないでしょう……でも、本当です」

「ふむ……」


 エリカさん含め、この場にいる全員が一斉に俺の方を向いていた。

 民衆の視線を受け止めるってこういう事なのなー……でも、もう慣れたわ。

 今なら、例え千人に見られても耐えられそう。

 いつの間にか精神的にも成長していたらしい俺に、リーゼさんが言った。


「オズと言ったか。キミの力を、今ここで私に見せてくれないか?」


 力を示せってヤツですか、手っ取り早くて良いですね!

 実際に目にしたら信じざる負えないって言うしね。

 楽で良いわ。


 ……でもな。


「もしかしたら、ギルドが崩れるかもしれないですけど、いいですか?」

「ハハハ、面白い事を言うね。本当に災厄を一撃で殺したのなら、そうなるかもしれないが……その時はその時さ!」

「……リーゼさん、きっと後悔する事になるよ……」


 ジノさんが、やれやれといった風で呟く。

 ……と言ってるけど、若干逃げ腰って。

 俺、そんなに恐ろしい?

 いやまあ、ジノさんは実際に目にしてますし? そう思われてもしょうがないですし?

 でも、ね。

 全員そうするこたぁ無いと、思うんですわ。

 ……仕方ないか、人間だもの。

 取り敢えず!

 こんな狭い空間では紅い稲妻しか使えないし、リーゼさんもああ言ってますし、壁ぶち抜くか!

 盛大にやってやろうと、俺は、絵画も本棚も、障害物が何もない壁まで歩いていく。


「……あれ? この雰囲気ってマジでヤバいヤツ?」


 能天気なリーゼさん。

 ようやく悟ったのか、高笑いを止め俺を見た。

 もう止まらないんだけどね?

 いや、止められないのか。

 既に右手には紅い球体が出来ている。

 キャンセルなんて出来ないし、使ったら力の解放は避けられない。

 いやー……。

 だから、あんまり使いたくないんだよ?


「ちょっ!? ストップ! ストォォォップッ!!」


 片腕を俺に伸ばしたリーゼさんの悲鳴が、部屋でこだまする。


「やめれない! とまらないっ!」


 いや、マジで!

 止められないんで!


 というか、何だこの茶番劇。

 と思っているうちに……。

 ズガァァァァァァァァアアアアアン!!

 壁がぶち壊された凄まじい音と共に、壁が下へと落ちていく。


「大・音・量!!」


 誰だ今、叫んだやつ!

 この状況を楽しんでるヤツが、この中にいる。


「……つか、大丈夫か!? 下、人いるんじゃねぇのか!?」

「いや、大丈夫ですよ。下には木がありますから」


 ガルフさん……あんた……。

 いや、やっぱり止めておこう。

 でだ。大丈夫なのは本当です。

 あらかじめ、下には木が生えている事を確認していたからね。

 それが岩の落下に耐えられるかは別だけど。


「う、うぅ……。本当に、やってしまうとは……」


 下は大騒ぎだ。

 大声が『な、なんだなんだ!?』と事件場まで届いてくる。

 それとは別に、悲劇のヒロイン気味に落ち込むリーゼさん。

 その横では、エリカさんが彼女の肩に手を置き、『ドンマイです』とだけ慰めていた。

 これを見て、落ち着いていたのだ。

 ……エリカさん、あんただけだよ?

 今までで、こうして冷静だった人って。

 と、見ているとリーゼさんが、よろよろと立ち上がった。


「た、確かに、それ程の力があれば、可能か……!」


 余程ショックだったのか、体がぷるぷると震えている。

 いや、無理しなくてもいいんで。座っていいんで。

 その時、エリカさんが穴の開いた壁を見つつ……。


「耐魔壁を破るなんて……」


 小さく呟いた事を、俺は聞き逃さなかった。

 名前的に、魔法に耐える事を目的とした壁で間違いは無い。

 そんな物を壊した俺の力は、魔法とは違った……異能なんだろうけど、はたから見たら、それは雷魔法と分類されるらしいから、リーゼさんやエリカさんも例外では無さそうだ。

 んで、俺はそれを壊してしまった……と。

 名前的にやってはいけない事をやってしまったみたいだ。

 ごめんなさい、悪ふざけが過ぎました、と後悔していると、しっかりと二本足で立てるようになったリーゼさんが俺らを呼んだ。


「つ、次は確か。三人分の冒険者登録だったな。能力適性検査をするから、付いてきてくれ」


 リーゼさんの方は、あんまり気にしてないみたいだ。

 いや、部下に信頼を置いているのか……?

 一回だけエリカさんをチラリと見て、入り口とは別の扉を開けて、入って行った。

 続いて、アウラとセシリアが俺より先に入ると思いきや……。


「流石、オズね!」

「ちょっとやりすぎな気もするけどね……」


 そう言って、アウラが俺を引きずるように右腕を引っ張り、セシリアが背中を押していく。


「ちょっ、押すな! 行きたくない! 行きたくなぁぁぁあああああああいっ!!」


 だってさ? また、無能……なの……!?

 って反応されるんだろ!?

 俺の身にもなってみろ、畜生!

 いくら何でも、あの反応は傷つくんだぞ!

 と思いながらも、俺は抗えず、ただただ引きずられていく。

 前を歩くアウラが、後ろを振り向いて告げた。


「これが終われば、もう能力適性検査をしなくていいのよ!」

「……ハッ!?」


 それもそうだった。

 ここで冒険者登録さえしておけば、今後提示するだけで良いんだった!

 でも、最初は信じてはもらえないだろうから、また何かをぶち壊すハメにはなりそうだけど、これで検査をするのが最後になるのなら、俺は良い!

 ギルドの壁ぐらい、いくらでもぶち抜いてやるッ!

 そんな変な決意を刻んで移動中、ソファに座る待機組が呟いーー。


「オズ君、あの顔は完全に変な事考えてるね」

「……そんな顔、してるなぁ……」

「リーゼさんも災難だなー」

「自業自得ですし、いつもの事ですよ」

「まだですか? ご飯が食べたいです」

「あ、そうだ! 後はオズに任せて、飯食いに行こうぜ!」

「「「「そうしようっ!」」」」

「あ、私は遠慮しときます」


 呟きに留まらなくなっちゃったよ!?

 てか、俺に全部任せて逃げんな。それでも大人か!? エリカさんを見習え!

 俺が崩した壁の修復作業に取り掛かる程、真面目なんだぞ!

 それなのに、手を振りながら扉から出て行くレイブンズ。薄情な奴らだ。

 ブツブツと呟きながら、魔法を使うエリカさんが、かわいそうに思えてきた。

 って……あれ?

 仕事増やしたの……俺じゃね?

 エリカさんの姿が見えなくなる直前に、そこまで思考が至り、俺の口から出てきた言葉は……。


「ごめんなさい!」

「……いえいえ」


 次の部屋に入る寸前、俺は常に無表情を貫き通したエリカさんが僅かに微笑んだのを見逃さなかった。

いつも読んでくださり、ありがとうございます!

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