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第16話 オルバリスの中心部にて

「オズオズ! これ見て、美味しそう!」


 オズは一回で良し!

 セシリアが、俺の腕を引っ張り、屋台に並ぶ料理を指さす。

 それが何かを視認した途端、熱気が襲い、俺の鼻孔をくすぐった。


「香ばしい匂い……溢れ出るたっぷりの肉汁! ……ホントだ、うまそうだな!」

「食べないと損よ! 期間限定だってさ!」


 俺の逆側では、アウラが別の料理に齧り付いていた。

 汁が指を伝って流れ落ち、ホクホクの湯気が、アウラの額に水滴となって貼りついている。


「マジか!? 後で、俺も食いに行こっと!」


 冒険者登録済ませたら、全力疾走でお買い物だ!

 こりゃあ、日本の五つ星も目じゃねぇぜ、食ったこと無いけど!

 ……やべ、涎垂れた。

 誰も見てないな……? よし。

 俺も買うかーー。


「って、俺ら一文無しじゃん!?」


 じゃあ何!

 アウラって盗って食ったの!? 盗み働いたの!?

 いや、まあ。アウラならバレずに盗れそうだけど……。

 でも……そんな事をするはずは……。


「安心しろ。俺が払っといたから」


 アウラを一瞬でも疑った俺が馬鹿だったわ。

 ガルフが振り向き、サムズアップしながら二カッと笑った。


「なら安心だ」

「……おい。そりゃどういう意味だ?」


 勿論、ガルフさんの財布なら、いくら減っても構わないと言う意味ですが何か?

 冒険者稼業の上位パーティらしいですし。それぐらい構わないですよね……?


 ……それはいいとして。

 今宵は月が綺麗ですね、感動します。

 じゃない。

 冒険街オルバリス。

 俺達は、冒険者ギルドへの道の真ん中を悠々と歩いていた。

 年中、夜になっても賑わいは絶えず屋台のような店がズラッと並んでいるらしいが、今日はそれ以上に活気で溢れているらしい。

 原因は、バーンアウトドラゴンの脅威が去ったという情報だ。

 そこら辺で、救世主は誰だと騒がれ、俺はその渦を歩いてて心底思う。……狩っといて良かったぁ。

 ……決して浮かれているワケでは無いよ? 聴くところによると、期間限定商品は、こういう祝日にしか売られないからだから。

 よし、これからは祝日作りに専念しよう……!

 と、ニヤけながら歩いていると、ふと客の姿が目に映った。


「大半の人が装備を着こんでる……」


 右を見れば、冒険者! 左を見ても冒険者! 前を見ても……うん?

 何あれ、すっご!? 水魔法で城作ってる!

 一体誰よ……! って、青いローブに青い髪……!?


「ご飯……! ご飯……ですよ!」

「レイラ……嬉しいのは分かるけど、流石に街中で水芸は止めてくれよ、恥ずかしい」


 まさかのレイラさんだったぁぁぁぁああああああ!

 うわぁ、両手を頬に当てて、クルクル回ってるよ。

 俺の方向いた時の顔が恍惚の表情だよ、怖いよ。

 ヤンデレ化しちゃってるよ!?

 ほら、飯を前にすると性格変わる人っているじゃん?

 あの人、その類だったのか?

 にしても、方向性が危険すぎるよ!


「オズ君ってさ、今までで一番良い表情してるよ」


 いきなり頬をつつかれた。

 リリーさんだ。

 前を歩いていたはずが、いつの間にか俺の後ろに回っていた。


「ちょっ、止めてくださいよ!」

「ふふ……そんな顔も可愛い」


 いや、ホント。心臓に悪いんで!

 後、可愛いという言葉は、お世辞として素直に貰っておきます。


「「……むむぅ……」」

「……?」


 突然、両サイドから声が。

 なんだろう、と思って見ると……。


「ちょっとリリーさん! 止めてください!」

「そうよ、ズルいわよ!」


 俺の腕を、アウラとセシリアが片方ずつ両腕で挟んだ。

 不敵な笑みで『ごめんなさい』と言い残して、リリーさんが前に戻っていく。

 ズルい……? 何のことだろう。


「ーーさて、着いたぞ」


 ガルフさん達が立ち止まる。

 それに続いて俺らも止まって、上を見上げた。

 3メートルはありそうな大きな扉。

 ヨーロッパの時計台のように大鐘のついた、木製の建物だ。


「……!? ここが、冒険者ギルド……!」


 ……ん? これ、孤児院で見えた時計塔じゃね?

 唐突に、飽きるほど見ていた建物を思い出す。

 マジか、これが冒険者ギルドだとは思わなかった。

 どうせ行くことは無いんだろうな、と思っていたのに、まさか……そんな所に来ることになろうとは……。


「高さに比べて、横幅そんなに広くねぇ!」


 俺、かなり失礼な事言った気がする。

 ……ごめんなさい。

 だから、冒険者の皆さん。俺を睨むのは止めてください。


「ギルド長はいるか?」


 そんな中、ガルフさんが扉を押し開け、ギルド内にズカズカと入っていく。

 ギルド長か……。

 きっと、小さいヒゲもじゃもじゃの老人なんだろうな……。

 と思って、俺も入ると。


「ここに居るよ。遅かったね、ガルフ」


 ごめんなさい。俺がなめてました。

 しわがれた声以前に、男性だと決めつけていたのが悪かったです。

 いや、ね? まさか、こんな若い女の人がギルド長だとは思わないでしょう。


「それより、話があるんですけど、いいですか?」

「……ギルド長室かい?」

「そうです」

「分かった」


 何でこんな人が、と思ったが。

 緑色の服……金色の髪に横に伸びた耳。エルフの女性。

 そう認識した瞬間、俺の中で何かがストンと落ちた気がした。

 エルフは長命だと聴く、つまりアレだ。

 あの人は、ロリババァだ。

 って、そんな事はどうでもいいんだった。


 もうレイヴンズはギルド長の後ろを歩いている。俺も、後を追って歩き出した。

 それにしても、話がしたい一言で、お偉いさんの部屋まで連れて行ってもらえるか? 普通。

 会社に例えると、平社員が社長室に行くようなもんだろ。

 ……うーん……。学生止まりの俺には想像しにくいな。

 学校で例えると、学生が校長室に行くようなもんか。

 いや、やっぱダメだ。普通は入れん。

 って事はつまり、レイヴンズは、かなりの信頼を置かれているんだな。

 一応、思っておこう。

 レイヴンズすげぇぇぇぇええええええっ!


「じゃあ、入ってくれ」


 気づいたら、赤いカーペットの上を歩いていた。

 廊下のつきあたりのドアを開ける、ギルド長。

 まず最初にギルド長が入り、次にレイヴンズが入り、最後に俺らが入る。

 俺が入り終わったと同時に、ドアがパタンと閉められた。

 振り向くと、角ばった眼鏡をかけた、いかにも社長の秘書をしてます風な女性と目が合った。


「……どうしました?」


 その女性が無表情で聞いてきたので、俺は『何でもありません』とだけ返して、ソファに向かって歩いていく。

 四角の眼鏡って良いよね。丸眼鏡と違って、真っ当な人間感がある。

 ……自分で思っといて何だけど、これって完全に偏見じゃん?

 それほどまで、俺は丸眼鏡に良い印象が無かったのか……。


「ありがとうエリカ。……じゃあ、そこのソファに座ってくれ」


 既に座っていたギルド長が、俺らに座るように促した。

 見ると、ソファの色は床に敷かれたカーペットと同じ真っ赤だ。

 かなりオシャレ……。高級そうだ、と思いながら座るが。

 硬っ。まさかの、安物ソファ……!?

 見た目だけで、俺の家にあったような柔らかさは持ち合わせていないのかよ!


「で、今回は何の話だい?」

「まず、俺の依頼報告と、死の略奪の件に黒大蛇の解体。バーンアウトドラゴンの討伐報告。それと、この子達の冒険者登録の話です」


 何故、わざわざギルド長室まで来たか。

 それは、あまりこの話を公にしないためだ。

 ガルフさんが話している途中に、ギルド長の眉が三回ピクリと動いた。

いつも読んでくださり、ありがとうございます!

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