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第15話 邪気って何ぞや

 俺が入った建物は、門をくぐって横に真っ直ぐ進んだところにある。

 外壁と同じ素材で石造りの建物だった。

 日本っぽく言わせてもらえば、交番。


「さて、オズワルドく……長いな」


 ひ、ひどい……。

 唐突になんですか。

 人の名前を長いって言わないでくださいよ……。


「さて、オズ君」


 コホンと、クラウスさんがわざとらしく咳をして、俺を愛称で呼ぶ。


「先ほど言った、邪気の事なんだが……」


 と言いつつクラウスさんは、俺の背後に回り、俺の方に体を向けたまま扉をいじった。

 いや、違う。


「ーーその前に、今、扉の鍵を閉めたのは何故ですか?」

「……」


 何か、聴かれたらまずい話でもあるのか?

 クラウスさんが、口を閉ざす。


「キミを疑っているワケではないが、念のためだよ」


 何を疑っているのだろうか?

 俺に悪い事をした覚えは無い。

 悪い事以外に心当たりがあると言えば、俺に邪気と言う、聴くからに危なっかしい物があるという事。

 それぐらいだ。

 こうして呼び出されたのは、きっとその話の為だろう。


「疑う……? 邪気と言い、オレはそんな事、知りませんよ」


 これは本当の事です。

 さっきから聴いていて、不思議に思っていたんだ。

 知らぬを通して、クラウスさんの口から言わせてやる!


「……その様子だと、本当に知らないようだな。仕方ない、一から教えよう。取り敢えず、そこの椅子に座ってくれ」

「……」


 よし、上手くいった!

 黙っていた間、心の中でガッツポーズをとり、言われた通りに、椅子に座る。

 腕と脚を固定されたり、壁を突き破ってきた全身フルメタルアーマーに、取り押さえられたりはしないだろうな?

 いざとなったら逃げる事は出来るけど、それは避けたいところ。

 複雑な心境で俺が座った後に、クラウスさんが反対方向の椅子に座り……。


「言っておくが、私だってキミを疑いたいワケではない。キミを見極め、この街にとって安全かどうか判断するためなのだ」


 そんな事を言い出す。

 街にとって……? どういう事だ?


「それは……オレが危険だと言っているんですか?」

「ああ」


 逆に言えば、俺が危険だと思われている事になる。

 確かに、飛竜を一発で殺せる人間がいると聴いたら危険だと思うのが普通だが、それが俺だと教えた覚えは無かった。

 ガルフか。あいつがバラしたのか。

 ……後で殴ってやろう。

 だけど、話の流れ的に俺が危険視されているようで、ちょっと悲しい気分になる。

 普通、そんな危険な人物と話をするんだったら、怒らせないように調子良くさせるんだろうけど……。

 クラウスさんは、躊躇せずはっきりとした口調で肯定した。


「邪気というのと関係ある事なんですか?」

「ああ」


 やっぱり、邪気ですかい。

 うーん……謎だ。

 同じように、クラウスさんが頷いた。


「だが、キミは知らないようだから教えてやろう。邪気というのは、魔物や魔族、邪神。魔の生物が持つ特有のオーラの事だ」

「それを、オレが放っていると?」

「そうだ。しかし、邪気は魔属性を司る魔の生物にしか存在しない。だから、キミのような人間に放てる物では無いのだよ」


 そんな物を俺はまき散らしているんだ……。

 俺、覚えないのに。

 それのせいで、こうして呼び出し食らったと考えると腹が立ってくる。

 あ、やば。今は、荒波を立てないように話を進めるんだった。

 力込めてどうする。

 俺は、急いで右手を開いた。


「……その邪気というのはクラウスさんの目には、どのように映っているのですか?」


 こちらから願い下げするレベルの異能特典をどうこうする前に、話は聴いておかないといけない。

 今後の生活に、支障をきたす。

 で、ガルフさんは、何となく怖い印象がある、と言っていたが、俺はそれが『雰囲気』で、邪気と同じだと、思っているんだけど……。


「キミを中心に、部屋中を埋め尽くしている」


 ナンテコッタイ!

 そう言われても分からないんですが。

 ……想像してみるか。

 真っ黒の靄が部屋中に充満していて、それが無意識のうちに俺の体内に入ってきて……。

 いや、やっぱダメだ! 正気を保てる気がしない!

 気持ち悪くなりそうになってきて、脳内を真っ白に塗り替えようとクラウスさんを見るが……。

 何で、クラウスさんはこんなに平然としてられるの!?


「それなのに、クラウスさんはやけに落ち着いていますね」

「……もう慣れたからな。だが、ここまで濃い邪気を見たのは、これが初めてだ」


 いやいや、慣れたとしても、初めてならリアクションぐらい取るでしょうよ!

 クラウスさんにツッコむ俺。

 自分では見れないけど、異能から考えると凄まじそう。


「……ガルフは、それを雰囲気だと言っていただろう」

「はい」


 驚いた。

 クラウスさんも、ガルフさんから聴いていたのか。


「それは、ガルフに邪気を見る力が無いからだ」


 クラウスさんが、さもガルフさんは劣っている。ような言い方をする。


「力が無い? 言い換えれば、クラウスさんにはそんな力がある、という事でしょうか」


 逆に言えば、で考えて聞くと、クラウスさんは深く頷いた。

 マジかよ。門番に、なんでそんな力が?

 謎すぎる。この人、一体何者ですか? 誰か教えてください。


「邪気を見るには、邪気を見る力と本能を磨かねばならない。それを雰囲気と漠然というやつは、本能だけが備わっている人だ。もちろん、二つが無ければ邪気には気づかない。いや、気づけないと言った方がいいのか」

「……そういう事だったんですか」


 じゃあ、ガルフさんの言うそこらの人は本能が備わってないと……。

 あれ? そう考えると、レイヴンズって……かなり凄い?


「話を戻すが、魔族の特徴は、白い髪に紅い瞳、薄紫色の肌だ。大昔に、魔族が人間に争いをふっかけて、戦争を引き起こしたが、勇者様のお陰で辛うじて、人間側の勝利となった。それ以来、人間と魔族は敵同士となり、殲滅を要する事態となっている。今は魔族の目立った動きは無いが、ここ数年間で、この街周辺でも魔族は確認の情報は入っていたのだ」


 こっわ!! 

 殲滅ってつまり、子供だろうが女だろうが。老人だろうが。皆殺しにするって事かよ。


 そんな相手が、この街の周辺で活動をしているかもしれない。

 だから、警戒しているのだろう。


「だから……オレを、スパイだと?」


 クラウスさんは、こくりと頷いた。

 自然に体に力が入る。

 そんな時に、邪気の塊が来たんだ。俺が殲滅対象になってもおかしくない。

 勘弁願いたい、主にクラウスさんが危ないから。


「魔族は人間の力を優に超すと聴く。この街、オルバリスの全ての冒険者の力をもってしても、一人屠れるかどうかだ。そして、邪気の濃さに、強さが比例すると聴いた事がある。キミから感じ取れる、邪気は凄まじいものだ。もう一度言うようだが、私はキミを疑いたくは無い。見た所、キミに魔族の特徴は無いが邪気だけが漏れているのは不可解だった。だが、ガルフから話を聞いて、そしてキミを見て、安心したよ。キミは私たち人間の敵では無い」


 そこで、ここに来て、初めてクラウスさんの睨むような瞳が和らいだ。

 声も、心なし明るくなり、笑顔が浮かんでいる。


「それと、ガルフから聴いたが、キミはあの死の略奪と黒大蛇、それにバーンアウトドラゴンを狩ったらしいじゃないか。実は、冒険者ギルドからバーンアウトドラゴンの緊急依頼が出されて、Bランク以上の冒険者を集め、会議を行っている途中、突然反応が消えた。謎の人物が討伐したと、さっきからギルド長含め、冒険者が街中を走り回っていた所だ。キミが偉業を成し遂げた事を知る者は、まだ数少ないが、これから、冒険者登録を済ませるんだろ? その時が英雄誕生の瞬間だ。もちろん、私も見に行くつもりだ。もし、キミがこの街にいる間に魔物や魔族が襲ってきても、安心できそうだよ」


 人が変わったように、態度が変わるクラウスさん。

 むしろ歓迎されているようで、俺は身体の力を抜いた。


「ははは……ありがとうございます。でも、今の話から考えて、もしクラウスさんみたいな人が出てきたら、面倒事になりそうな気もしてきたんですけど……」


 今回は、クラウスさんが良い人だったから、歓迎されたのだと思う。

 それがもし、友好的な相手では無かったら、俺は剣を向けられる事になるのだ。

 運が悪いと、俺の仲間にも。

 そうなったら、俺は本当の意味で人間を辞める自信があるね。

 でも、人を殺す事に抵抗があるのは、やっぱり元の世界が平和ボケしてたからかな。

 こんな世界に来ても、極力避けたいと思えるのは。


「ああ、そういう事か。だが、心配はいらないよ。俺の能力は魔眼によるものだから」

「魔眼ですか?」

「ああ、生まれつきなんだ。魔眼と聴くと、どうしても魔族と直結させる人がいるが、そうではない。一種の才能のような物で、無能力者が生まれる確率より低いと聴く。この街で魔眼持ちは、俺ぐらいだろうから」

「そうだったんですか……」


 魔眼ってそんなに珍しいのか……。

 クラウスさん……きっと大変な思いをしてきたんでしょう。

 人と違う事は、俺も怖かったですから。

 でも。

 ……俺、持ってます……!


「長話が過ぎたな……すまない、仲間が待っているだろうに」


 そう言ってクラウスさんが、立ち上がる。


「いえいえ、大丈夫ですよ。誤解も解けたようで何よりですし……」


 俺も慌てて立った。


「そうか……。最後に、キミみたいな冒険者がこの街に来てくれた事を私は嬉しく思う。歓迎しよう、これからキミの話題で街中が一杯になるだろうが、頑張ってくれよ?」


 笑いながら俺の背中をバンと押すクラウスさん。


「それは、ちょっと困りますね……。良い意味でも、悪い意味でも」

「確かにな!」


 クラウスさんが、扉の鍵を外し、開け放った。


「オズ、遅ぇじゃねぇか! さっさとギルド行くぞぉ!」

「早く報酬が欲しいです。お腹がすきました」


 俺を待っていたレイヴンズやアウラとセシリアが一斉に手を振る。

 明日からは、大変な日になりそうだなと思い……。


「今、行きます!」


 俺は叫び返し、芝生を踏みしめる。

 月が闇夜を照らしている。

 俺は、これから冒険者ギルドへ向かい、冒険者になるのだ。

 胸に深く刻み込んで、石段へと走り出した。

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