表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

第12話 欠けたモノ、埋めるモノ

「……ありがとう」


 良かった。納得してくれたか……。

 冒険者パーティ『レイヴンズ』が頭をゆっくりと上げる。


「すまない、情けない姿を見せちまったな」


 ガルフさんが、頭を掻いてフッと笑った。

 やっぱ、すげぇイケメン。

 さっきから仕草がいちいちカッコいいし、まさに王子様って感じがする。

 白馬に乗れば、ほら。完璧な王子様だ。

 ……いや、違うな。


「ところで……さっきから気になっていたんだけど、その武器……もしかして」


 ジノさんが膝に手を置いて、視線を合わせている。

 こっちの方が王子様だ。

 アウラと。いや、正確に言うと、アウラの持つ二本の刀と。

 顎に手を当てて、難しい顔をしていた。

 一方アウラは、どうよ! とドヤ顔してる。


 何で、そんなに真面目な顔してるんだろ……。

 別に気になるところなんてないのに。

 変わった所と言えば、水晶っぽいって所か……?


「すごい……僕、天剣を見たのは初めてだ……」


 天剣? 何それ、聖剣なら知ってるけど。

 いきなり、ジノさんの目が輝きだす。

 それに合わせて、ガルフさんやリリーさんが『ほお……』と変な声をだす。


 ……ホント、一体何なの?


「ガルフさん、天剣って何ですか?」


「ばっか、知らないのか?」


 怒られた。


「天剣ってのはな、ダンジョンに潜らないと手に入れられない宝剣なんだぜ。それが超レアもんでよー。俺がガキの頃、よく言ったもんだ。俺、冒険者になったらダンジョン潜って天剣を見つけるって……まぁ、何日潜っても、結局見つからなかったんだがな」


 壁に背中をくっつけているガルフさん。

 ジノさんと同じように、顔には興奮の色が貼りついていた。


 アウラ……じゃない。あの剣って、そんな凄かったのか……。

 って、ちょっと待て、今ダンジョン・・・・・って言ったか!?

 俺、洞窟の中で見つけたんだけど……。

 ……どゆこと?


「アウラちゃん、この剣、ちょっと見せてもらえないかな」


 おぉ、爽やか王子様がアウラに。

 一方、アウラは渋って……。

 てか、名前知ってたんだ。俺、教えた覚えが無いんだけど……。


「ガルフさん、ガルフさん。赤毛の子、どっかで……とか言ってましたけど。どこで知ったんですか?」


 ガルフさんなら何か知ってるか?

 俺は、未だに興奮状態のガルフさんを叩いた。


「そうだな、お前、時々俺が孤児院に寄ってたの知ってたか?」


「……え、えーと……」


 やべぇ……知ってたけど、顔まで覚えてねぇ……。


「忘れちまったか、まっ仕方ねぇよな。俺は、お前のことも知ってたんだが。名前はオズワルドだろ?」


 と、言った。

 オズワルド、そう。

 オズワルドだ。

 第二の人生、俺の名だ。


「んで、あっちがアウラ。金髪の子は……すまん。知らない子だった」


 アウラも知ってる。だが、セシリアは知らない……と。


「いえ、いいんですよ」


 話、聞いてたのか。

 セシリアが割り込んだ。

 じゃあ、来たのはセシリアが盗賊時代だった頃か?

 じゃあ、いつ……。

 ガルフさんの顔を見る。


「あ、ひょっとして……アウラの質問攻めにあった犠牲者ですか?」


 そういう事か?

 それなら、さっきから答えは浮かんでいたんだが……。


「お、そうそう」


 ガルフさんが、豪快に笑う。

 なら、同じパーティ『レイヴンズ』のジノさんがアウラの事を知っててもおかしくないだろう。

 多分、帰ってからあの時のことを話したんだろうな。

 そりゃ、あんな目にあえば言いたくなる気持ちも分かる。


「で、その天剣、どこで見つけたんだ? 一応適正値も聞いておきたいところだが」


 ガルフさんが、突然そんなことを聞く。

 ギクッ、と思った。

 他のメンバーも、それが気になるのか一斉に俺を見ていた。

 天剣の場所。洞窟、アウト。

 適正値。俺、無能。二人Aランク、アウト。


 やべぇ……めっちゃ言いにくい……。


「君には既に、死の略奪と黒大蛇を狩った業績がある。もう、何を言われても不思議じゃないよ」


 とても、静かな声が聴こえた。

 だ、誰……。イケボすぎる。

 探してようやく気付いた。レノンさんだ。

 だが、短剣持ちのレノンさんは、また口を閉ざし、俺を見ていた。ただ、少し微笑んでいる。

 そこで、ガルフさんが彼は無口だと言っていたのを思い出した。


 すると、耳が生えた女性が身を乗り出す。


「そだよー! 期待してるよ、英雄くん!」


 ちょっ、リリーさん何てことを!

 って、ガルフさんも、ジノさんも、レイラさんも……頷いてるし。

 俺に、何を期待するって言うんですか。

 でも、言わなくてもいつかはバレそうだし。


「じゃあ、驚かないで聴いて欲しいんですけど……。天剣は洞窟の中で、それと俺の適正値は……」


 一瞬、雰囲気がザワっとなったのが肌で感じられる。

 次も、言ってもどうせ信じてくれないんだろうな、と思った。

 いくらそうは言われても、相手は子供だから。


「無いんです、無能です」


「え?」


 無口のレノンさんが、思わず、と言った風に呟いた。

 クールな笑い顔が、驚いた顔に変わる。


「それと、アウラとセシリアは……」


 そう言って、二人を見る。


「Aよ!」

「Aです」


 アウラは自信満々に。

 セシリアは俺を見て。

 それは良いとして。

 死の略奪とやらを倒し、黒大蛇とやらも倒した俺が、実は無能でした。

 それを聴いたレイヴンズの反応は予想通りの物だった。


 どうせ、嘘だと思われてんだろうな……。

 と、心の中で呟く。

 ーーでも。


「にわかには信じられないが……それでも俺は、オズを信じるぜ」


「……え?」


 ガルフさんが、さっきより強く、わしゃわしゃと頭を撫でてきた。

 正直、信じてもらえないと思っていたから、かなり驚いた。


「気づいてるか? お前、かなり手強い雰囲気出してんぜ」


 雰囲気……何ソレ。

 うまい冗談だ、と思ったが、全員が全員、真面目な顔だ。


 ……え、マジ?


「それにお前、魔眼持ちだろ? 何があったかは知らないが、瞳に模様なんて魔眼以外にありえねぇから」


 ガルフさんの手が止まる。

 魔眼って、眼窩に埋め込むアレでしょ?

 そんなの知らなったから、いきなり言われたことは不本意ではあるが。


「だから、自信持てよ」


 その言葉が、俺の頭の中によく響いた。


 ……自信、ですか……。


 思い返せば。

 俺は、無能力者にそんな力があると言っても信じてもらえないと、どこかでそう思ってた。

 だが、違った。

 信じてくれる人はいると、今初めて知った。


「……はい」


 俺は、力強く頷く。

 アウラやセシリア以外の人に、初めて受け入れてもらえた。

 受け入れてもらえると知った。

 それだけで、俺は十分だ。


「ありがとう、ございます」


 無能力者の俺が使える、意味不明な異能。

 他人の評価を気にせず、怖がらないこと。

 俺には、俺の力があると認め、異能を受け入れること。

 ようやっと。

 能力適性検査を受けたあの日から。

 ガルフさんが言う、本当の意味の自信を持てた気がした。

いつも読んでくださり、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ