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第11話 冒険者パーティ

 前から、緩やかな風が流れ込み、俺の前髪が僅かに揺れた。

 ガタガタと。

 俺達は今、街へ向かう馬車に乗せてもらっていた。

 俺の前には、赤い鎧の男が座っている。

 名を、ガルフ。ガルフさんと言った。

 俺とガルフさんは、互いに向き合う形になっていた。


 そして、アウラは物珍しそうに、あちこちを見ている。

 コンクリートのように平面じゃない地面を移動しているせいか、車体は常に揺れ、ときどき浮き、落ちて。

 アウラの頭が上下左右に揺れていた。

 マサムネとムラサメは、アウラによって抱きかかえられている。

 時々、ガルフさんがチラリと見るのだが……ひょっとして、ロリコンと言う奴なのか?

 まぁいいか。そしてもう一人。

 セシリアは、窓に手をかけ外の様子を見つめていた。

 彼女は、乗り物というものに乗ったことが無いのだろう。挙動不審気味に、キョロキョロしている。

 そして、揺れている。

 色んなところが。何がとは言わんが。


 他の4人は、外の様子を見ていたり、馬の手綱を握ったり、寝ていたりと様々だ。

 というか、外見てる人でも盗賊や魔物の襲撃がないか見張ってるんだぞ?

 寝てる人、起きろ。働いてないのはお前だけだ。


「それで、なんでお前らはあんなところにいたんだ?」


 寝てる人に目もくれないメンバー達。

 その一人のガルフさんが口を開く。

 先ほども聞かれた質問だ。


「それについて、答えるのは簡単ですが……」


 俺は、短剣使いからガルフさんに目線を移し、声のトーンを少し下げた。

 いくら見た目から盗賊では無いと分かっても、それと通じている可能性はある。


「その前にいいですか?」


 だから、まず信用できるか確かめないといけない。

 俺には自分が騙されないという自信が無いから、聞いておかないと気が済まなかった。

 もし騙されていると感じても、俺なら二人を連れて逃げ切ることが可能だ。

 別に、そうして途中で逃げ出してもよかった。

 だが、街に連れて行ってくれるというので、それが一番手っ取り早い方法だったから、惜しくもあったのだ。


「何だ?」


 この人は、俺の目を見て話している。

 俺の言葉に対して、真正面から受け止め返してきた。


「まず、俺らは助けてもらったは言え、まだあなた方を信用してません。なにぶん子供なんで、騙される可能性もありますし」


 と言っているが、この段階で彼らを、俺はすでに信用しても良いと思っている。

 ガルフさんの対応。

 アウラやセシリア、俺に何もしてこない事。それ以外にも多くの点が、その気は無い事を証明していた。


「……そこまで考えるガキを俺は知らんぞ」


 うっせ。

 ガルフさんが、苦笑いを浮かべる。

 こちとら、あんたと同年代じゃ。


「先に俺から言えってことだな? 騙す気はないから別にいいが」


 俺の言いたい事を先に言ってくれるガルフさん。

 よく分かってるな。


「助かります」


 顔には出さないが、正直、もっと時間がかかると思っていたから、その分思ったより早く進んでくれて驚いている。


「俺らが冒険者ってことは、もう話したよな」


「ええ」


「冒険者は、冒険者ギルドと呼ばれる建物で依頼を受けるんだが……」


 そこで、ガルフさんは言葉を濁らせた。

 何か言いにくい事でもあるのだろうか?

 難しい表情をして、顎に手を当てている。


「昨夜に、燃える孤児院の調査っつう依頼が貼られたんだ」


 ああ、そのことか。

 という事は、ガルフさんは俺らが辛い思いをしたと気遣ってくれている……って感じか。

 そこまで言って、ガルフさんの中で言いづらさが無くなったのだろう。そのまま言葉を続けた。


「それで、行ってみたら指名手配中の盗賊どもが死んでてな。いくら極悪人とは言え、あまりにも無残な死に方だったぜ……」


 すいません、それ、俺がやりました……。

 その時の光景を思い出したのか、青いローブの人が眉を僅かに寄せる。

 ホント、すいません……!

 だが、こういうのに慣れているのか、ガルフさんは顔色一つ変えなかった。


「で、調査を終えて帰ろうとしたところに黒大蛇が飛んできて、その方向を辿ってみたらお前らを見つけたってところだ。嘘じゃないぜ」


 と言って、笑いかけるガルフ。


「そこまで言われれば、嘘ではないって分かりますよ」


 俺も笑い返した。

 この雰囲気なら、誤魔化せそうだ。

 と思った矢先。ガルフの目つきが鋭くなる。

 俺を怖がらせようとでもしているんだろうか? でもな……。

 そう思っていた。


「で、お前が殺ったんだろ? 死の奪略も、黒大蛇も。そういう奴は、見ればすぐに分かるんだよ」


 ガルフさんが、低い声音でそんなことを聞いてきた。

 俺の目を真っ直ぐに見ている。

 あれは、ガチだ。言い逃れは出来なさそうだった。

 他のメンバーも俺を見ていた。


 死の奪略というのは、あの斧男のことか。

 黒大蛇が飛ばされた方向には俺がいた。

 いくら子供とは言え、俺はあの孤児院の孤児だ。

 そんな子供だけで、こんな森の中にいたという事は、盗賊を皆殺しにし孤児院から逃げてきた。

 と考えるのが自然だろう。

 それでも憶測に過ぎないのだが、そう思うには十分だ。

 だが、憶測。

 彼らは不確定な情報だけで決めているのだから、俺が嘘をついて隠し通すことは可能だ。

 でも、すぐにバレてしまう可能性がある。

 だから……。


「はい」


 と、答えた。

 笑顔でもなく、至って普通の顔で。

 それに対して、ガルフさんは。


「やっぱりか……」


 と、言って。

 ーー俺の頭を撫でた。


「……え?」


 ガルフさんの予想外の行動に、驚く。

 俺は何か言われると思っていた。次に出てくるのは罵倒の言葉だと思っていた。

 だが、そうではなく、頭を優しく撫でられるだけだった。


「とりあえず、生きていて良かった」


 そして、冒険者メンバーが次々に微笑む。


「……何故です? 俺、人殺しなんですよ?」


 ワケが分からなかった。

 ガルフさんや他のメンバーの顔を見やり、思わず聞いてしまう。


「人殺し……か。確かに人を殺す、というのは悪いことなんだろうな。だが、相手が悪人だったら話は別だ」


 都合の良い解釈だ。

 恐ろしいことを言ってる割に、ガルフさんは、子供をあやすような優しい口調だった。

 しかも、それはガルフさんだけでは無かった。

 周りに俺を咎めるような人は、誰一人としていなかった。


「それとな、実は……死の略奪は元Bランクの冒険者だ。この街でもかなり強いほうで、お前らみたいな子供がそんな奴に勝てた、というのは誇っていいと思うぞ」


 あの男、マジでBランクだったのかよ……。

 嘘だと思ってた。


「それより、今はお前らが生きていたことに感謝しよう。それと、俺らみたいに死の略奪に怯える人達を救ってくれて」


 そこで、ガルフさんの言葉が途切れる。

 それから背筋を伸ばして。


「ありがとう」


 と、頭を下げた。

 周りを見ると、他のメンバーも頭を下げている。

 さっきは甲冑をかぶっていた人も外していた。

 寝ていた短剣持ちの人も、いつの間にか起きている。

 手綱を握った人も、ローブの人も、全員。


 俺は慌てて立った。

 咄嗟な判断だったが、立たないといけない気がした。

 いくら何でも、下げられるまでされるのは悪い。

 そして口を開き。


「あ、頭を上げてください! 俺は殺されかけたから返り討ちにしただけです!」

「そうよ!」

「そうですよ、上げてください! ボクたちを助けてくれた人に、頭を下げられるわけには……」


 見ると、ずっと静かに座っていた二人が、俺と同じように立っていた。

 アウラもセシリアもかなり驚いた顔をしている。

 いきなり頭下げられたら、そうもなるか。


 これで、なんとか頭を上げてくれると思っていたのだが……。


「いや、そうはいかないよ。黙っていたが、僕たちは奴に殺されかけ、逃げ帰った経験がある。情けないだろ? 今はその時より強くなったつもりだが、それでも、死の略奪に関する依頼書は全て突っぱねてきたんだ」


 まだ、上げてはくれなかった。

 俺の聴いたことのない声がし、五人が苦い顔をする。

 そんなことが……と思い、ガルフさんを見るが、声の主は違った。

 青い鎧の人だった。

 確か名前は……ジノ、と言ったか。

 ずっと甲冑をかぶっていたので分からなかったが、髪は茶色だった。


「本来はわたし達、冒険者がやらないといけない事だったのに……それを、子供にやらせてしまった……」


 今度は、リリーさんだ。

 茶髪から出た耳が、パタンと倒れている。

 怒られている猫の耳のようだった。


「ごめんなさい……」


 今度は、青いローブの女性ーーレイラさんが。

 とても深く頭を下げている。

 まだ、頭を上げようとする様子は無かった。


「オズ。これ、どうするの……?」


 もし第三者がいれば、大の大人が子供に謝る姿は奇妙に映っただろう。

 俺は、その大人に感謝されるどころか謝られて、もうどうすればいいのか分からなかった。

 セシリアはオロオロと、俺とガルフさんを交互に見ている。

 珍しくアウラも困ったようで、俺の裾を引っ張っている。

 悩み悩んで、結局出た言葉は……。


「も、もう大丈夫ですから! 気にしてませんし、それより早く頭を上げてください!」


 それしか、思いつかなかった。

いつも読んでくださり、ありがとうございます!

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