第一章 宇宙人の少女 (その5)
半径10キロの円を描く多神原は、大雑把に東西南北で分けられる。
東部には住宅地が広がり、西部には中央禁区まで包み込む森林、南部には多神原湖とその周辺に治安維持隊の基地を含めた公共施設がある。上下水道施設などのインフラなどもここだ。
では北部には何があるか。
答えは、かつてある集団によって破壊された街の廃墟。
そして、その一角に立ち並ぶ露店で構成された闇市だ。
「お人好し過ぎんだろ、オマエっ!」
その闇市の一角に一志の声が轟いた。
マサトの話を聞いた一志の感想である。
一志の大きな声に、闇市を行き来する変貌者達の視線がマサト達に集中する。が、すぐに皆、興味を失って歩き去って行った。ここで揉め事は日常茶飯事だし、下手をすると銃器が飛び出すこともある。ましてや《宇宙人》絡みとなれば誰も関わりたくないだろう。
一志はチラリと周囲を窺ってから、少しだけ声量を落として言った。
「だってコイツ――ええっと、華弥さんだっけ? コイツが勝手に森ン中入って、勝手に喰われそうなってただけなんだろ? んなもん自業自得じゃねえか」
本人が目の前にいるのに、随分な言いようである。
けれどもそれは、多神原での健常者に対する反応としては平均的なものだ。
それにマサトの説明も悪かったのかもしれない。華弥の自殺未遂は人に話すような事柄ではないし、《大食い婆さん》がマサトを孫と勘違いした部分に関しても、マサトの素顔に触れる事になるので論外。
となると『健常者を興味本位で追いかけたら《大食い婆さん》に攫われていったので助けようとした』と説明するしかなかったのだ。
ナツメから話を聞いて、慌てて飛んできた一志からすれば、『お人好し過ぎる』とも言いたくなるだろう。どちらかと言えば『健常者寄り』の考え方を持った一志がここまで言うのだから、本気で怒りを覚えたに違いない。
だからマサトは素直に頭を下げた。
「ごめん」
「なんでそこで謝るんだよ。……ま、いいけどよ」
ため息と共に、ひとまず一志は矛を収めてくれた。
しかし、今度はキッと視線を尖らせて華弥の方へ向く。
「だがアンタもアンタだ。命を粗末にすんな。マサトがいなかったら死んでたぞアンタ」
「……はい」
奇しくも、その言葉は事実をなぞっていた。
だからだろう、華弥も一志の言葉を真摯に受け止めた様子だった。
「お人好しのお節介焼きは一志もだと思うけどー」
そう言ったのは、少し離れた所でプチに寄りかかり三人の様子を窺っていたナツメである。
その顔は不機嫌そのもの。特に華弥を見る七つの視線は刃物のようだった。
――死ねば良かったのに。
視線がそう語っている。
「おい、ナツメ……」
そう一志が窘めても、ナツメは華弥を睨むことを止めない。華弥は居心地が悪そうに身を縮み込ませていた。
一志はため息をつき、
「……まあ、アレだ。華弥さんよ、アンタ帰り道わかるか? どこから来た?」
「東部のゲートから……その、浄化車両で」
「その浄化車両はどこに? つかアンタが運転してきたの?」
「い、いえ……片瀬さんに運転して貰って。湖の傍に停めて、そこから歩いて」
「カタセ? ああ、いいよ答えなくて。聞いても知らんだろうし。――つまり湖の傍まで行けば、そのカタセって人が待ってるんだな?」
「はい…………多分」
一志の荒い言葉遣いに華弥は怯えているようだった。
いや、ナツメが怖いのかもしれないが。
「そ。じゃあ後でプチで乗せてってやるよ。また変貌者に絡まれてもアレだろうしな。それまでは悪いが、俺達に付き合ってもらうぜ」
「は、はい。ありがとう、ございます」
華弥は慌てた様子で頭を下げた。
怯え震える肩を『ポン』と叩いてから、一志は「ちょっと来い」とマサトの背中を押した。
華弥にもナツメにも声が聞こえない位置に来てから、一志はマサトに囁く。
「おい、アイツの態度はどうにかならんのか。ナツメの神経逆撫でしまくりだろうが」
「……いや、どうにもならないんじゃないかな」
華弥は対人能力に乏しく、その上精神的にも不安定である事は明らかだ。それはこの僅かな付き合いでも充分に分かる。
「多分、あれが素なんだよ」
「おいおいマジかよ。ったく、さっきも俺がいじめてるみたいで気が引けたしよ。……ま、とりあえずアイツの面倒はオマエがみろよ。ナツメに殺されないよう見張っとけ」
冗談でない所が恐ろしい所だ。
ナツメがまともに健常者と口を利くのは、相手が金か権力か武器を持っている時だけ。つまり『おだてると得をする』か『怒らせると損をする』場合のみ。ナツメが治安維持隊に愛想がいいのは、その両方に当てはまるからだ。
何故そこまで健常者を嫌うのかマサトは知らない。
訊いた瞬間、拳が飛んで来る気がする。
「うし! んじゃ、とりまデカチーを探しに行こうぜ」
ナツメと華弥の方へ顔を向けた一志は、声を張り上げて言った。
寄りかかっていたプチから背中を離し、ナツメが無言で歩き出す。そして華弥の方へ歩み寄っていたマサトとすれ違いに、
「団子、百本」
と呟いて先へと歩いて行く。
つまり『健常者なんか連れてきた詫びを入れろ』という事らしい。
それは仕方ないが、それよりも――
「あいつ、百本も食えるのか……」
恐ろしい女だ。
闇市で団子の屋台が出ていない事を祈ろう。
「ま、マサト君」
怯えきった様子の華弥がマサトに声をかける。長身の身体が、小柄なマサトよりも小さく見えるほどだった。
「ごめん。ナツメは健常者が嫌いだからさ」
マサトの言葉に、更に華弥は身を縮み込ませてしまった。
失敗したか、とマサトは頭を掻く。これは落ち着くまで待つしかないだろうと諦め、マサトは華弥と共に、プチを連れて先を行く一志とナツメを追いかける。
朝から始まったデカチーの捜索は、既に日暮れ近くなっていた。
時間ばかり無駄に過ぎたような気もしたが、それでも多少の成果は上がっている。それは一志が得た『北部の闇市でそれらしき奴を見た』という情報だった。西部の団地跡を根城にしている孤児達から得たものだ。蜥蜴頭に甲虫の身体を持つ変貌者から財布をスろうとしたが、気づかれて翅で手をはたき落されたらしい。恐らくデカチーで間違いないだろう。
「当たりだ」
長屋を改造した店舗から出てきた一志は、グッと親指を立てた。
ひしめく露天商から自身の店舗を持つまでになった成り上がり達。彼らが店を構えているのが《長屋通り》と呼ばれるこの場所だ。要は露店よりはマシという程度の掘っ立て小屋を『長屋』と呼んでいるだけなのだが、中には南部の《管理事務局》並みにしっかりとした造りの店もある。
一志が話を聞いてきたのは、その『しっかりとした店』の一つだった。
つまり、この一画のまとめ役を務める店というわけだ。
「デカチーはここに来てたみてえだ。先週の会合で話が出たってよ」
「へえ……。よく覚えてたね、店の人」
「デカチーの外見はそこそこ珍しいからな。店長さんも『アイツ人間だったのかい?』って驚いてたわ」
確かに、変貌が完了しているデカチーに人間の面影はない。蜥蜴の頭に甲虫の身体なら、そのどちらかが変貌している途中だと考えるのが妥当だろう。言葉も発さないとなれば尚更だ。
「とりあえず、デカチーを見かけたっていう店に行ってみようぜ」
「えー、明日にしないー? もう疲れたー」
プチの背中で仰向けになったナツメが文句を垂れる。
「おいおい、それこそ疲れるだろうが。明日も北部くんだりまで来るのかよ」
「いっそのことチーちゃんが帰ってくるの待てばいいじゃんよー」
「いや、一刻も早くバイクを直してもらわねえとダメだ」
ナツメの言葉を一蹴し、一志は歩き出す。それに続いてプチも歩き出してしまえば、ナツメもついて行かざるを得ない。その後ろにマサトと華弥は続く。華弥はその身体を、小さなマサトの身体に出来るだけ隠すようについてくる。先ほどからひと言も発していない。余程、ナツメが怖かったらしい。
長屋通りに人通りは殆どなかった。どちらかと言えば、ここには『仕入れ』や『在庫管理』をしている店が多い。その商品を、お抱えの露天商達に買い取らせ、露天商達はそれを多神原住民に売りつけるというわけだ。――と、一志は説明した。
「ここだ。……家具屋か、珍しいな」
一志は先ほどの店で貰ったメモを頼りに、一軒の店の前で止まった。
珍しいと言ったのは、まず多神原では『家具』など売れないからだ。大抵の物は打ち捨てられた住宅に行けば手に入るし、そこに無ければ《キャラバン》のフリーマーケットで、粗大ゴミになる代わりに送られて来た家具が山ほど売られている。タダ同然で手に入る物を、わざわざ高い金払って買おうなんて人間は多神原にはいない。
つまり、
「塀の外の連中に売りつけるのさ」
一志は店ののれんをくぐりながら、マサトに説明した。
ちなみにプチは外で待たされている。
「多神原内部からも『生きていないモノ』は持ち出せる。塀ん中の研究所で、何週間も浄化作業をした後にはなるけどな」
「へー。でも塀の外の方が、色々モノは揃ってるんじゃないの?」
ナツメが後ろから口を挟む。
「まーな。でも、『多神原で作られた物』ってだけで買う物好きもいるのさ。俺も、くだんねえもん売った事あるぜ」
こんな風な、と言って一志が手に取ったのは何かの骨格標本だった。足が十二本ある猫に見える。背骨から逆向きに肋骨が伸びていた。『バス猫』と札がついている。
しかし、
「これはニセモノだな。単に喰った後の猫の死骸を加工して、足を付け足したんだろ。ま、探せばこんな変貌症の猫もいるだろうが、だとしたら先に治安維持隊が検体として捕獲してんだろ」
一志はぞんざいに骨格標本を棚に戻し、店の奥へと進む。店内に客は一人もいなかった。
その家具屋は、最初に一志が話を聞きに入った店並みに広い。塀の外へ商品を売りつけるというのだから、恐らく治安維持隊か、研究所辺りと繋がりがあるのだろう。そのコネか何かで建築許可を得たのかもしれない。
「すんませーん、誰かいますー?」
一志がカウンターから奥へ声を張り上げる。マサト達はその様子を少し離れた場所から眺めていた。こういう交渉や聞き込みは人当たりの良い一志が一番得意だ。ナツメもやろうと思えば出来るのだろうが、金かメシが絡まなければやらない。そもそも今回は一志の問題なのだから一志がやって当然だ、というのがマサトとナツメの共通見解だった。
と、
「……あれ?」
ナツメがカウンターの対面の壁を見て眉をひそめた。
そのまま無言で、商品が展示されている壁の方へ歩いて行く。マサトはその後ろ姿を目だけで追った。華弥の傍から離れるわけにもいかないからだ。こんな健常者丸出しの格好で一人にしては誘拐されても文句は言えない。『塀の外の人間は全員金持ち』という迷信が、多神原には根強く残っている。
ナツメが歩み寄ったのは、皿などの工芸品とともに動物の剥製が展示された場所だった。ナツメのような目を持たないマサトには、店内が薄暗い事もあってそれ以上は分からない。天井近くまで商品が並び、その天井近くに置かれた剥製らしきものをナツメは見つめている。
ナツメは立ち尽くしていた。
サイズの合っていないトレンチコートと、キャスケット帽のせいで表情が隠れてしまっているが、ナツメは小刻みに震えてるようだった。
――一体なにを見たのだろう。
「あーい、なんでしょー」
「あ、店長さん店長さん。ちょっと訊きたいことがあってさ――」
ゆさりゆさりと、小太りの身体を揺らしながら現われた店主に、一志が笑顔でカウンター越しに話しかける。「お、店長の変貌って狼? 仲間じゃん」などと調子の良い態度。
それに気づいたナツメが、バッ、と弾かれたように振り返った。
一瞬のことだ。
突如駆け出したナツメはカウンターに跳び乗ると、店主に膝蹴りをかました。
けたたましい音と共に、店主とナツメはカウンターの中へ没する。
「な、」
横にいた一志はあまりのことに驚いて固まってしまう。が、すぐにナツメの行動を止めようとカウンターを飛び越える。マサトも慌てて店のカウンターに駆け寄った。
カウンターの中をのぞき込むと、ナツメが店主に馬乗りになって何度も拳を振り下ろしていた。それを一志が羽交い締めにして引き離そうとする。マサトも手伝おうと、カウンターを飛び越えて店主とナツメの間に入って、何とかナツメを押し返した。その間も、ナツメは無言で止めに入ったマサトごと店主を殴り続けていた。
「ナツメ! ナツメ落ち着け、どうしたんだ一体!?」
店主からナツメを引き剥がした一志が叫ぶ。途端、ナツメは力をなくしてその場に崩れ落ちた。その顔は血の気を失い蒼白で、七つの眼のうち人間の両目には涙が滲んでいた。
そしてナツメは、先ほど見ていた棚を指差した。
マサトと一志は指された方向を見る。しかし光源の少ない店内では、その場所は影となって見えない。
「マサト、ちょっと見てこい」
一志がナツメの肩に手を置いたまま言った。頷き、マサトはカウンターから出てその商品棚へと歩み寄る。事情の分からぬ華弥がマサトに物問いたげな視線を送っていた。が、事情がわからないのはマサトも同じだ。身振りだけで、その場で待つよう伝える。
そしてマサトは商品棚の前に立った。
――正直、よく吐かなかったと思う。
ナツメが指す先にあったのは他に並ぶものと同じ、動物の剥製であった。
何者かを威嚇するように口を大きく開けて咆哮している。その手には『売約済み』の札がくくり付けられ、埃が被らないようにガラスのショーケースの中にしまわれていた。
蜥蜴頭に甲虫の身体をもった変貌者の剥製《はくせいだった。
人間の剥製、だった。
「おい、何があった。何が――」
何も考えられず、その場に立ち尽くしていたマサトを不審に思ったのか、一志が駆けよってくる。そして、マサトと同じように固まった。
静寂が訪れる。
「っくそ、このクソガキども、何しやがる」
その静寂を破ったのは、倒れていた店主だった。
立ち上がって口元の血を拭いながら店主が悪態をつく。
「おい、テメエ等わかってんのか? 俺の後ろにはカシマ組と治安維持隊がついてんだぞ。こんな事してどうなるか――」
店主の悪態が止まる。
振り返った一志が、拳銃を構えていた。
マサトも以前一度だけ見た事がある一志のS & W――《マグナムプラス》。
その顔に表情はない。
「答えろ、くそデブ」
「く、くそデブ?」
銃声が響く。
店主の背後にあった、薬ビンが弾けた。
「この剥製は、テメエが作ったのか?」
「あ、ああ。俺が加工し――」
瞬間、飛びかかったナツメの拳が店主の頬に突き刺さった。
だが今度は、一志が止めに入る事もない。ナツメが殴るままに放っておき、ゆっくりとカウンターへと近づいていく。マサトもその後を追った。
「ナツメ、話が出来ん。後にしろ」
「一志ッ、でもコイツ!」
振り上げた拳を掴まれたナツメが反発する。
「コイツは剥製にしただけだ」
「剥製にしただけ――って! だけって!!」
「デカチーを殺したのは別にいるはずだ。こいつの身体を見ろ、デカチーを捕まえられるように見えるか? アイツはこんなデブに捕まるような奴か?」
「…………」
その言葉でナツメは少しだけ冷静さを取り戻したらしい。
しかし怒りが収まったわけではなかった。店主に馬乗りになったまま、その襟首を掴み上げたナツメが七つの眼を見開いて叫ぶ。
「チーちゃんを殺したのは誰ッ!?」
「ち、なに……?」
「バカかテメエ! あいつのことだよ!!」
ナツメがデカチーの剥製を指差す。
「あたし達の友達を殺したのは、どこの、どいつだって訊いてんだバカッ!!」
「……ここにアレを持ってきたのは、カシマ組の連中だが」
「アレとか言うな!」
ナツメの拳が叩き込まれる。店主の顔は青タンと血で、見るも悲惨な有様だった。
しかし、そこでようやく店主は事情を理解したらしい。
自分が加工したのは動物ではなく人間の変貌者で、今自分の腹の上に乗った少女の友人だったらしい、と。
店主の顔から、別の意味で血の気が引いていく。
「俺じゃない! 殺したのは俺じゃない!」
「そんな事はわかってんだよ! だから誰が殺した!?」
「おい、ナツメ。それじゃ喋れんだろうが」
店主がひと言発する度に殴りかかるナツメを一志が窘め、トレンチコートの襟を掴んで引き剥がした。
そして一志は銀色に光る拳銃を店主に突きつける。
「おいアンタ。俺達は確かにアンタを殺してえほど怒ってる」
「俺じゃない! 俺じゃないんだ!」
「まあ落ち着けよ。アンタ、死にたくないだろ? なら、俺達の友人を殺した奴を教えるんだ」
な、と一志は口角を上げる。
狼のように鋭い犬歯が光った。
店主は慌てて答える。
「け、健常者だ。健常者がやった」
「健常者? 健常者がどうやって変貌者を殺す? 武器は持ち込めないだろ」
店主は多少落ち着きを取り戻したらしい。唾を飲み込んでからゆっくり話し始める。
「あんた達も聞いた事あるだろ、北部で変貌症の野生動物を駆除してるって」
「ああ、それが?」
「治安維持隊から委託された業者――つか、カシマ組が、塀の外の奴向けに《変貌者狩り》ってのをやってんだよ。要は駆除の手伝いをさせて、それを《狩り》って娯楽として売ってんのさ。北部の廃墟に元からいる変貌症の動物とか、スジ者の連中を怒らせちまったバカを標的にして」
マサトは今朝の自衛官の言葉を思い出していた。
――武器を貸し出して、民間の企業に駆除を委託している。
「た、多分……君たちの友達は、うっかりその連中に捕まっちまったんだろ。あんだけ変貌が進んでりゃ誰も元が人間だってわかりゃしない。な、そうだろ?」
同意を求めようと店主が歪つな笑みを浮かべた。
だが店内に同調する者はいなかった。
「デカチーを殺した健常者はわかるか?」
一志は突き刺さるような声で問う。
店主はガクガクと首を縦に振った。
「た、確かヤナセって奴だ! ヤナセトウゴって、金持ちだ! 今度、うちに剥製を受け取りに来る予定で……」
店主は銃口を見据えたまま、カウンターの中を右手だけで探る。そしてガタガタと音を立てながら一枚の売買契約書を取り出した。突き出された契約書をマサトが受け取る。
「そいつだ! そいつが殺した! 俺は関係ない!」
「だな」
銃声が響き、店主はもう二度と口を開く事はなかった。
その事に何の感慨を覚える事もなく、マサトはその契約書に視線を落としていた。そこに書き付けられた名前を、目に焼きつけるように凝視する。
友人を殺した宇宙人の名前。
――柳瀬 十河――。