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「行ってらっしゃい!」

 マロンと二人で、ドラマのロケに向かう南美ちゃんを見送った。

 さて、2日間のお休みの始まりです!



 最初にしたのは、マンションの大掃除。

 南美ちゃんの部屋をどうするか、昨夜聞いたんだけど……。



「南美ちゃん、明日大掃除をしようと思うんだけど、南美ちゃんのお部屋はどうしようか?」

 南美ちゃん、気持ちが完全にドラマにのめり込んでるから、人の話なんか聞いてないんだけどね。

「沙知に任せる。それより、台詞の練習相手になってよ」

 台本片手に女優気取りな南美ちゃん。

 まぁ、練習相手くらい構わないけど、台詞ってたった一言だよね…。



「ちょっと、あかりちゃん! どこへ行くの!」

「うっせーんだよ!」

「親に向かって、何て口きくの!」



 練習相手の私の方が台詞、多いよ。

 これを、声の調子や大きさを変えて何度も何度も練習したのよ。

 確かに、声の大きさ一つで、役のイメージもずいぶん変わるものね。

 南美ちゃん、意外と努力家さんでしょ?



 という訳で、南美ちゃんの部屋、掃除どうしようか……。

 うん、やめておこう。

 今度、改めて確認してから、掃除することにするわ。

 となると、善は急げ。

 南美ちゃんの部屋以外を掃除して、マロンとお散歩がてら歩いて出かけた。

 行き先は、マロン行きつけの美容院。

 マロンが美容を受けている間に、おばあちゃんに会いに行ってこようと思ってるの。



 エントランスで面会の受付をして、おばあちゃんの部屋に向かう途中、ついつい事務長に捕まりやしないか警戒してしまった。

 おばあちゃんに会うのは、ひと月ぶり以上。

 絶対質問攻めに会うだろうから、おばあちゃんが納得行く答えを、昨日の晩から用意したの。

 何より、大学に行っていない事、ちゃんと伝えないとね。



「おばあちゃん!」

「沙知!」

 おばあちゃんの目が、キラキラ嬉しそうに輝いた。

「ごめんね、暫く来れなくて」

 肌ツヤも良くて元気そう。

 昔は何処か名家のお嬢様だったおばあちゃんは、高齢になっても何処かお嬢様的貫禄があるの。

「大丈夫よ。ここの皆さんは、本当に良くしてくれるから」

 半年で200万だもん、良くしてくれなきゃ困るよ、おばあちゃん。

「そっか、良かった」

 おばあちゃんお気に入りのお店の羊羹と一緒に、誕生日に貰ったあの指輪を渡した。

「こんな大事な物、受け取れないよ。おじいちゃんからのプレゼントでしょ、これ」

「だからこそ、沙知に持っていて貰いたいのに」

 おばあちゃんは残念そうだったけど、こんな高価な物、今の私には不要だもの。

 それに、うっかり魔が差して、売っちゃったら大変でしょ?



 散歩の時間になったので、いつもは介護士さんが押す車椅子を、私が押して庭に出たんだけど。

 何だ、このヨーロッパのお城みたいな庭は……。

「ここの庭は、手入れが行き届いてて素敵でしょ?」

 おばあちゃん、だからここは半年で……、ま、良いや。

 この施設、入る時にも凄いお金がかかったみたい。

 その時の事は、高校生だった私は何も知らないんだけどね。

 さて、思い切って言わないと……。

「あらぁ、前川さん。お孫さん来てくれたのね」

 通りかかった介護士さんに、声をかけられた。

「そうなのよ、この子がいつも話してる、孫の沙知。獣医学部に通ってるのよ。沙知、こちらは介護士の石塚さん。いつもお世話になってるのよ」

「いつも祖母がお世話になり、ありがとうございます」

 深々と頭を下げた。

 本当に深々と。

 で、思った。

 石塚さん、このタイミングで現れないで。

 言い出し難いじゃない!!

「獣医学部なんて、優秀なのね」

「いえ、そんな事は……」

 それに、もう退学してますし……。

「いえね、私は医学部になさいと言ったのよ。でも、この子が、どうしても動物が好きだからってきかなくてね」

 おばあちゃん、物凄く嬉しそうに話すのよね。

 ああ、言えない!

「自慢のお孫さんですね」

 石塚さん、良い人……。

「そ、そんな事ないですよ」

 だって、中退したもの。



 結局、おばあちゃんに大学中退した事、言えないまま帰ってきちゃった。

 


 お休み二日目。

 夕方には南美ちゃんと太一さんが、ドラマのロケから帰ってくる。

 おばあちゃんの施設代200万払えたとは言っても、また直ぐに200万の請求書が来るのは分かってるので、無駄使いは出来ない。

 だからマロン連れで、お店に入れないのは逆に好都合。

 行ける場所と言えば、商店街くらいかな?

 マンションの近くの商店街に、マロンと二人で繰り出そう。



 高級マンションが立ち並ぶ街とは言え、さすがの商店街。

 お惣菜屋、パン屋、花屋、魚屋に花屋、それに懐かしさ漂うブティック。

 あら、着物屋さんもあるのね。

 呉服屋さんの前にワゴンがあって、ハギレを売ってる。

 マロンを抱き上げて、ハギレを見ていたら店員さんが出てきちゃった。

「あら、かわいいワンちゃんね。このハギレ、ワンちゃんの洋服作る為に買う人もいるのよ」

 ですって。

 なるほどねー。

 また、マロンに似合いそうな色柄のハギレを探してくれるのよ。

「これなんて、どうかしら?」

 確かに、マロンに凄く似合いそう。

「本当は、凄く良い生地なんだけどね」

 って、そんな事言われたら買っちゃうじゃない。



 南美ちゃん達の帰りを待っていたんだけど、少し予定より遅くなりそうらしいの。

「沙知にさ、晩御飯ご馳走したいから待っててよ。そんなに遅くはならいから」

 って、南美ちゃんに言われたの。

 それも、凄くご機嫌に。

 撮影、上手くいったんだろうね。

 何をご馳走してくれるんだろう、凄く楽しみ。



 待ち合わせたお店は、言われなきゃ絶対に分からない隠れ家にも程があるだろうって言いたくなるようなレストラン『ヴァン』。

 しかも、犬同伴OK。

「初のドラマ、記念してかんぱーい!!!!」

 芸能人のお友達も何人か来ていて、南美ちゃん、本当にご機嫌。 

 なんだけど……。

 店の隅で、乾杯にも参加しないで拗ねてる人が一人。

「太一さん、どうかしたんですか?」

「あ?」

 酔ってる?

 と思ったら。

「それウーロン茶ですよね」

「そうだけど」

 うわわわわ、本当に不機嫌。

「何かあったんですか?」

「なんで」

 その声!

 怖いですけど。

「凄い顔してるから……」

「はい、おまたせー」

 と、優しそうなマダムがオムライスを運んできた。

「ごめんね、お腹が空くと不機嫌になるよの」

 そ、そんな理由だったんだ。

「あなたも何か食べる? 今日は南美ちゃんの貸切だから、腕、振るっちゃうわよ!」

 太一さんが、がっついてるオムライスが、本当においしそうで……。

「わ、私もオムライス下さい!」

 つい、言っちゃった。



「沙知、お前オムライスにして正解だから」

 何を偉そうに言うのかと思ったら。

「太一さんは、オムライス好きなんですか?」

 マロンは、南美ちゃんとその仲間達の間で、嬉しそうにはしゃいでる。

 粗相さえしなければ、好きにさててよさそうね。

「普通」

 なにそれ。

「私は大好きです。母の味ですよねオムライスって」

「沙知、両親事故で亡くしたんだよな」

「はい」

 そう言えば、あの事故の遺族会が出来て、国を相手に訴訟をするらしい。

 私には詳しい事は分からないし、日々の生活でそれどこじゃないので弁護士さんに一任しちゃった。

「この仕事どお」

 どおって、言われても……。

「まだ良く分からないです。でも、もう後戻りできないし」

 としか、言いようが無いよね。

「そっか、頑張れよ」

 って、今、凄く優しい笑顔したんですけど、この人!


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