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1-7

 山プロで働き始めて、もう一カ月が過ぎちゃった。

 本当毎日バタバタで、その日を無事乗り越える事だけで必死よ。

 何せ、ワガママアイドル南美ちゃん、本当に忙しいのよね。

 これだけ忙しければ、多少ワガママになっても誰も文句言えないの。

「おい、沙知、明日マロン仕事だから洗っとけよ」

 でも一番の問題は、南美ちゃんのワガママじゃなくて、この偉そうな太一よ!

 やだ、思わず呼び捨てにしちゃったじゃない。

 あ、因みに山プロもう一人の柏田さんは、山本社長が一番信頼を置く経理の柏田さん、御歳62歳の紳士。

 出来れば、この方と仕事したかったわ!

「えっ、そんなスケジュールありましたっけ?」

 慌てて手帳を広げるけど、そんな予定入ってませんが?

「良いから、洗っとけよ」

 そう言ってワザと人に背中向けるのよ、この人!

 これ以上何も聞くな、のポーズのつもよね、これ。

 人に背を向けられるって、本当に不愉快。

 あの、仕事初日にちょっとキュンとしたの、あれはきっと不正脈よ。



「マロ~ン、お風呂は入ろっか!」

 一足先に、マンションに戻って、マロンを洗う事にした。

 時間も遅いし、今からお店にお願い何て出来ないもの。

 南美ちゃんが、戻るまでにマロンを浴室で洗って乾かして、浴室の掃除もしておかないと。

 大急ぎで全てを終わらせた頃、南美ちゃんから電話。

「沙知? 今日、私帰らないから。社長にも太一にも内緒ね」

 あー、またですか。

 ここだけの話、南美ちゃん彼氏がいるんだよね。

 相手は、あの人かなー、なんて思い当たる人は居るんだけどね。

 そして、毎回お約束事の様に、社長にも太一にも内緒、って言うんだけど、知ってますよ、あの二人。

 この世界、本気で怖いです。

 でも!

「マロン! 今夜は二人っきりよ!」

 さぁ、マロンと思う存分遊びますか!

 あ、後でコンビニでお仏壇のお供え物買って来よう。



 結局、南美ちゃん、明るくなる前には、帰ってきたみたい。

 どうも、そのまま寝ちゃったみたいだから、早めに起こしてシャワー浴びさせなきゃ。

 それとも、シャワーは向こうで浴びてきたのかしら。



 予定外に入っていた仕事は、どっきり企画の番組だった。

 だから、南美ちゃんに分からない様なスケジュールの書き方をしてたのね。

 私にも分からなかったけど。

 でも、これが小さな事件を起こしてしまうの。



 どっきりの内容は、本当に簡単なありがちな物。

 南美ちゃんの目の前で、スタッフが本気の喧嘩を始めてしまう……。

 さぁ、トップアイドルはその時どうするか!

 ね、ありがちでしょ?

 番組スタッフの思惑はこう。

 目の前で、大喧嘩をするスタッフ。

 トップアイドル南美ちゃんは、目に涙を溜めてオロオロ。

 そこへ愛犬マロンが現れて「え?」っとなったところでネタバラシ。

 はい、マロンお仕事ですよー。



 南美ちゃん、結構気が強いから、余計な事、しないと良いんだけど。

 実はさ、沙織さんから聞いたんだけど、この仕事、山本社長は反対したらしいんだよね。

 南美ちゃん、最近は少し若いアイドルに押され気味なのよね。

 その風向きを変える為にもって、太一さんが社長を説得したらしい。

 私達スタッフは、別の部屋でモニターを見ながら待機。

 マロンは、大人しく私に抱かれて出番待ってます。

 予定通り、架空番組のスタッフ二人が、南美ちゃんの前で大喧嘩を始めた。

 モニターに映る南美ちゃん、目に涙……どころか、スタッフの喧嘩を完全無視。

 仕掛け人スタッフも、何とか南美ちゃんを追い詰めようと、喧嘩がヒートアップしきてた。

 これ、やばいんじゃない、と思った瞬間、南美ちゃんスタッフに向かって言っちゃった。

「うっせーんだよ!」

 ……

 ……

 う、うっせーんだよ……

 思わず、太一さんの顔を見たわよ。

 うん、真っ青……。

 私、慌ててマロンを南美ちゃんの元に走らせたの。

 南美ちゃん、気付いて!!

「ちょっと、沙知! 何でマロンここに居るの!」

 ダメだ……。

 今日の南美ちゃん、特別機嫌斜。

 ネタバラシ役の芸人さんが、オロオロしながら登場して、やっと南美ちゃん気が付いてくれたけど、後の祭りよね……。

 ところが、南美ちゃんが突然大号泣して見せた。

「どっきりで、良かった……」

 芸人さんが、急に生き生きとしてきましたけど?

「南美ちゃーん、どーしちゃったの?」

「私ぃ、どうやったら喧嘩を止められるかって、考えて、私が大きな声出したら良いのかなーって……」

 南美ちゃん、本当にプロのアイドルだわ。

 手まで震えてるもの。

 また、マロンも南美ちゃんから離れないもんだから、何だか忠犬の様。

 まぁ、私がマロンに「ステイ」させてただけなんだけど。

「マローン、こわかったー」

 って、マロンを抱きしめてまた大号泣!

 マロンもマロン。

 南美ちゃんの涙を舐めたの!

 マロン、良い子だわ。

 南美ちゃん、どっきりのカメラが止まっても、車に戻るまでずっと泣いてたの。

 流石だわ。

「危なかったぁ。沙知がいてくれて、助かった。太一だったら絶対マロン使えなかったね」

 車が走り出して、鼻かみながら言った一言がコレだけどね。

 ところで、私は今、褒められたの?

 太一さん、その日は一日中、ぶすーっとした顔してた。



 この南美ちゃんのどっきり、プロデューサーが随分気に入ったらしく、番組のスタジオまで南美ちゃん、呼ばれる事に。

 でもさ、ナレーションの力って凄いのね。

 もぅ、喧嘩を怖がってる南美ちゃんが意を決して大芝居を打ち、言った一言にしか見えなかった。

 しかも、演技力もあるとか騒がれるきっかけにもなったのよ。

 いや、確かに凄い演技力だよね。

 一瞬にして、泣いて見せたんだから。



 何日もしないで、南美ちゃん、ドラマの仕事が入ったの。

 なんと、ヤンキー役。

 聞いた瞬間、笑ったわよ。

 演技、要らないんじゃない?

 ドラマの撮影はロケなので、マロンは出番なし。

 私はやっと、数日の休みがもらえる事になったの!!

 勿論、マロンは私が連れて歩く事になるんだけど。

「太一さん、私が来るまでこ、んな時マロンはどうしてたんですか?」

「んー、ペットホテルに預けてた。あ、沙知も使うなら」

 って、ペットホテルのショップカードを渡されたの。

「わかりました」

 って、受け取った。

 多分、私の都合で使う事はなさそうだけどね。

 もぅ、今からお休みが楽しみで仕方ない!


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