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あれから、玄関を開けるたびに、マロン居ないかなぁなんて思っちゃう。

 あんまり、良い飼い主さんじゃなさそうだったし。

 でも、思いもしない場所でマロンに再会したのよね。


「ねぇ、前川さん、この子……」

 久しぶりにシフトが一緒になった美咲ちゃんが、一冊の雑誌を見せてくれた。

 芸能界を目指す人が読む雑誌で、オーディション情報なんかが載ってるの雑誌、見たことない?

 美咲ちゃんが見せてくれたページに、ポメラニアンを抱いたアイドルのインタビュー記事が……。

「犬の名前、マロンだって」

 と、美咲ちゃんが指差した先には、マロン。

 思い出した!

 この子、マロン抱いてテレビに出てだったんだ。

「愛犬家だって。愛犬家が見ず知らずの人に、預けたりするもの?」

 美咲ちゃん、そう言いながら、満面の笑みでマロンを抱く南美ってアイドルの顔を、指でぐりぐりして始めたもんだか、雑誌に穴空いちゃった。

 でも、確かに美咲ちゃんの言うとおりよね。

 飼い主さんだと思ってた、あの疲れ切った人はなんなんだろ。

「マネージャーじゃないかなぁ」

 美咲ちゃん、他のページの南美の顔に落書きし始めちゃった。

「美咲ちゃん、この子、嫌いなの?」

「私が落ちたオーディションに、この子が通ったんです。あれは、間違いなく出来レース」

 あーあー、とうとう美咲ちゃん、顔を塗りつぶしちゃった。

 夢を追うって言うのも、大変ね。

 私は現実に追われてるけど。


 そう言えば、マロン騒動で忘れちゃってたけど、おばあちゃんからの小さな包み、鞄に入れっぱなしだった。

 カビたパンとかだったら、どうしよう……。

 中から出てきたのは、古いデザインの指輪が2つ。

『成人おめでとう。

 これを売って、好きな物を買いなさい。

   おばあちゃんより』

 何だか、泣けてきちゃった。

 売れるわけないじゃない。

 これ、おばあちゃんが、おじいちゃんに買って貰った大事な指輪だよ。

 仏壇の引き出しに、そっとしまった。

 後、忘れてたと言えば、あの男が置いていった紙袋。

 生物だったら、確実に臭ってるだろうから、生物じゃないんだろうけど、開ける気が起きなくて、部屋の隅に置いたままにしてた。

 また、美咲ちゃんが遊びに来たら開けよう。

 コンコン。

 玄関の扉をノックする音がした。

「美咲ちゃん?」

 返事がない。

 ガリガリガリガリ。

 扉を、引っ掻くような音が……。

 昔見たホラー映画を思い出して、急に怖くなっちゃった。

 ガリガリガリガリ。

 ん?

 えらく下の方から、音がしてるような。

 恐る恐る扉を開けると。

 ご想像通り、マロンが

「ただいま!」

 と、言わんばかりに部屋に入って来た。

「マロン!!」

 マロンは、尻尾をちぎれそうな程振って、部屋を駆け回った。

 捕まえて抱きしめたら、香水のキツイ匂いがした。

「マロン、香水つけられちゃったの?」

 こんなキツイ香水の、犬に付けないでよ。

 あの、アイドルの南美って子がつけたのかしら。

 可哀想になって、直ぐ洗ってあげた。

 それでも、なんと無く香水の匂いがするのよね。

 で、あの男に電話したんだけど。

「あー、またですか」

 何よソレ。

 それに、またですかって、こっちの台詞。

「ちょっと、暫く迎えに行けないんですけど」

 はい?

「また、電話します」

 って、電話切られましたけど?!

 流石に直ぐかけ直してやったわよ。

「あの、私、ペットホテルでもなんでもないんですけど」

「じゃ、明日昼間に他の者に行かせます」

 そう言う問題じゃないんですけど。

「こちらにも都合がありますので」

 って、今度はこっちから電話切ってやったわよ!

 本当、失礼なやつ!

 …………

 折り返しの電話、かからないんですけど。

 普通、迷惑かけてる相手に、こんな対応する?

 何か馬鹿にされてるみたいで、頭に来て寝れなかったじゃない。

 寝不足で肌が荒れたら、どうしてくれるのよ。

 マロンは、幸せそうに私の布団で寝てたけどね。

 頭に来たついでに、あいつが持って来た紙袋捨ててやろうと開けたら、チョコレート菓子の包みが……。

 これ、物凄く高級品。

 捨てれないじゃないの。

 マロンが口にしたら大変だから、棚の上の方へ紙袋のまま片付けてしまった。

 食べ物に罪は無いもの!


「あら、この子、あの子よね?」

 そうです、あの子です。

 和江さん、あなたが深夜に2時間抱き続けてくれた、あの子です。

 アルバイトに行く間、隣の和江さんに、マロンを預けていくことにした。

 コンビニのバイトが終わって、スマホを確認したけど、あいつからの着信は無かったから、こちらからかけて、言ってやったの。

「マロンって、アイドルの南美さんの犬ですよね」

 って。

 あいつ、物凄くあわてて、

「直ぐに折り返し連絡します」

 だって。

 5分もしないウチに、連絡があった。

「勝手なお願いですが、マロンを事務所まで連れて行って貰えないでしょうか。タクシー代は出します」

 何、急に、そんな丁寧な物言いは。

 まぁ、でもこのまま預かってるのも筋違いだし、そんなに遠くもないから行くことにしたの。

 何なら、南美とか言う子に、直接文句も言えるかもしれないしね。

 元獣医の卵から言わせて貰うと、飼い主失格だもん。

「ありがとうございます。私、南美のマネージャーで柏田太一と申します。受付で、私の名前を出していただければ、分かるようにしてあります」

 あなた、一体だれ?

 余りに対応が違い過ぎて、電話口の相手があの男なのかわからなくなっちゃった。


 アパートに戻って、和江さんにお礼言って、 マロンを南美って子の事務所に、連れて行くことにしたの。。

 捨てられなかったプリンのキャリーを、また使う日が来るとは思わなかったな。

 プリン、少しだけ貸してね。

 タクシー代出してくれるって言われても、立て替えるお金が無いのよね。

 天気も良いし、マロンとサイクリングといきましょうか。


 なんなの、このビル。

 エントランスに、いかつい警備員がいて、近寄りがたいんですけど!

 でも、一言言ってやんないと、気がすまないわよね。

 自転車をビルの真正面にドーンと停めて、マロン入りキャリーを抱えて、いかつい警備員を無事突破。

 受付……

 美しい受付嬢でも居るのかと思ったら『御用の方は、受話器をお取りください』って張り紙と、電話が一台。

 受話器を持ち上げた瞬間。

「おぉ、よう来てくれた! 入って! 入って!」

 陽気な関西弁のおじさん。

 と同時に、隣のガラス戸が開いた。

 

 中に入ると、背の小さいおじさんが、嬉しそうに待ってた。

「わざわざ、すまんかったなぁ。こっち、おいで」

 と、連れて行かれたのは、何と社長室。

 しかも、すれ違う人みんなが、この小さいおじさんに

「おはようございます!」

 って挨拶するの。

 これって、もしや……


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