表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

1-24

 女帝様から解放されて、自分の楽屋に戻ってきたら、太一さんが腕組みして仁王立ちしてた。

「どう言うつもりだよ」

 そんな顔して睨んだって、怖くもなんともないんだから。

「何の事ですか?」

「分かってるだろ」

「さぁ」

 そりゃ、南美ちゃんの事でしょうよ。でもね、私ちゃんと事前に相談しましたよ?

「社長はなんて」

「私に任せるって」

 一瞬、太一さんの眉間にしわが寄った。本気で考え事をする時のクセ。

「だったら、そう俺に言えば良いだろう」

 偉そうに。相談した時は、欠伸してたでしょ。

「今更そんな事言われたって」

 そう、今更よ。

 もう収録は終わってしまったの。でもね、よく考えてよ。私そんなダメな事、言ったかな。

 次は例のプロジェクトの打合せ。女帝様とお話をしていて、時間が押してるので急がないと間に合わないかもしれない。

「ほら、急がないと次に遅れます」

 荷物を抱えて先に出ようとしたら、太一さんに腕を掴まれた。

「まだ話終わってないだろう」

 しつこい!

「放してください! マロンのお迎えにも行かなきゃいけないのに、本当に間に合わなくなりますよ」

 ちらっと時計を見た太一さん、何も言わずに荷物を奪って先に行ってしまった。

 慌てて太一さんの背中を追ってるんだけど、背中に拒絶されてるみたいで、凄く悲しくなってきちゃった。何よ、マネージャーなら時間くらい見ときなさいよ。


 車に乗り込んで、打合せの資料に目を通そうとするんだけど、全然頭に入って来ない。それに、運転も荒くって、ちょっと気持ち悪くなってきちゃった。きっと、ここの所の寝不足と女帝様から解放されて気が抜けちゃったからよね。

「大丈夫か?」

 本当に辛くなってきて、窓ガラスに寄りかかっていたら、太一さんが気付いたみたい。

「ダイ……ジョブ……デス」

 自分でも笑っちゃうくらい、カタコト。

「そっか」

 いやいや、そこは気付きましょうよ!

 って思ったけど、運転がさっきより優しくなった。本当は気付いてたのかな……。

「私、やっぱり余計な事、言っちゃったんですよね……」

 だから、太一さん機嫌悪いんでしょ?

 凄い怒った顔で、バックミラー越しにチラチラ見るんでしょ?

「まぁ、うん」

 具合が悪いのと、いつもの事なんだけど、はっきりしない太一さんにイライラしてきちゃった。

「だから、私相談しましたよねぇ!」

 物凄くキツイ言い方になってしまって大後悔。

「そうだっけ?」

 うそでしょ?

「しました!」

「だとしても!」

「なに!?」

「聞かれたからって、答える必要はないだろう」

「あの状況で、そんなの通用しないでしょ!」

「分からない、って言っておけば良かったんじゃないのか!?」

 あー、頭がクラクラしてきた。

 あの場で私に求められていたのは、そんな生易しいものじゃなかった。

「ペラペラと話して……」

 太一さんが、頭を掻いた。本当に困ってる時にする癖。

 そうか、私太一さんを困らせてるんだ。

 でも、

「私そんなにペラペラ話してない! それに、言っちゃいけなかったんなら、最初にそう言ってよ!」

 あれ? どうしたんだろう、私泣いてる?

 バックミラー越しに太一さんと目があってしまって、慌てて目をそらしたんだけど、泣いてるのばれちゃったかな。

 太一さんも、それ以上何も言わなかった。

 これ以上泣いたら、目が腫れちゃうのに全然涙が止まらない。

 私まだ二十歳なの。二十歳なのに500万も会社に借金しちゃったの。この世界でやっていくしかないの。そもそも、どうして、そんな借金する事になったんだっけ。ああ、おばぁちゃんだ。会いたいな、おばぁちゃん。パパやママやプリンにも会いたいな。本当だったら、今頃大学だよね。いや、本当って何。大事な家族を事故で奪われて、病気のおばぁちゃんと二人残されて、が本当なんだよね。

 一日中バイトして、お風呂もないボロアパートに住んでも払えなかった施設費用や治療代。マロンに出会ったから、施設の事務長から追われる事もないし、治療費だって払えた。

 そうか今私が、車の後部座席で、資料抱えて泣いてるのはマロンに出会ったからだよね。

「マロンに出会わなきゃ良かった……」

 口に出して言うつもりはなかったんだけど、気が付いたら言ってしまってた。

 自分の声にビックリして顔を上げたら、バックミラーの太一さんじっと正面を見て運転してた。よかった、聞こえてなかったよね。

「すみません、マロンのお迎えの前に一度コンビニによって下さい」

 お手洗い借りて、顔洗わなきゃ。



 思いがけず泣いちゃったけど、ちょっと泣いたらすっきりしたのか、打合せは順調に終わった。

 この分だと、予定よりもいい商品が出来そう!

 途中で太一さんの姿が見えないと思ったら

「これ、風子さんのオムライス。腹減ったろ。今日はこれで終わりだから、たまにはゆっくり寝ろ」

 って、物凄く偉そうにオムライスをくれた。

 今思い出したんだけど、太一さんってお腹空くと不機嫌になるんだったわよねぇ。もしかして、さっきの楽屋での不機嫌はお腹空いてたから!? 

 だとしたら、返してよ、私の涙!

「ありがとうございます」

 まぁ、私もお腹空いてましたけどね。

 それに、本当はヴァンに行って、風子さんに思い切り愚痴を聞いてもらいたいけど、久しぶりにゆっくり寝るのも良いかな。

 

 

 太一さんにマンションまで送ってもらって、まだ暖かいオムライスを食べた。ここのところ忙しくてサンドイッチとか、冷たくなってしまったお弁当が続いてたから、暖かいオムライスは気持ちまで落ち着かせてくれた。

 やっぱりお腹が空いてると、思考もおかしな方へ行くのね。

 落ち着いてみると、美咲ちゃんからのメールに返信もしてないし、ブログも暫く更新してなかった。

「ちゃんとしなきゃ」

 声に出して言ってみる。

 すると、急に身体の芯に力が入ったみたいになって、美咲ちゃんに返信して、ブログ更新して、マロンをブラッシングして、までは良かったんだけど、フローリングに横になった瞬間、寝てしまった。


 スマホのアラームが、遠いところで鳴ってる。

「朝? もう少し寝かせて……」

 と言ったものの、誰が返事をするわけでもなく。

 アラームを止めようとスマホを探したんだけど、音は聞こえるのに見当たらない。

 ん? 

 隣で寝てるマロンのお腹から聞こえてる?

 抱き上げてみると、マロンのお腹の下から、生暖かいスマホが現れた。

「マロン、スマホ隠さないでよ」

  なんてマロンに言ってスマホを見ると、アラームじゃなくて太一さんからの着信だった。

 え? 今、何時?

 私、寝坊したの!?

ブックマーク


感想


評価


お待ちしております♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ