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今ね、呼ばれてスタジオに向かってるんだけど、口から心臓が飛び出しそう。
さっき、社長が言うところの「女帝様」の楽屋へご挨拶に行って来たんだけど「お話、楽しみにしてるわねぇ」、と物凄く意味ありげな笑顔を返されてしまった。これは、もう「例の件、聞くわよぉ」って言ってるようなモノよね。
名前を呼ばれたゲストが、順番にスタジオへと入っていくんだけど、他のゲストの方も錚々たるメンバーで「よろしくお願いします」のご挨拶だけでも頭がくらくらする。
「あら、今日はマロンちゃん、一緒じゃないのね」
と、残念がる女優さん
「おぉ、君かぁ」
って言ってくれるけど、私の事、絶対に知りませんよね? な俳優さん
「あれ、南美ちゃんと違うの?」
知ってか知らずか、まだカメラが回ってないとは言え、南美ちゃんの名前をだしてしまう女芸人さん。
もう正直、愛想笑いが精一杯です!!!
トークバラエティ、そういう位置づけの番組。
女帝様から話題をふられたゲストは、女帝様の手腕で、するすると口外できないような話や芸能人の名前まで出してしまう。そして今日のターゲットは明らかに私。
「ちょっと、色々大変だったんでしょ?」
ほら来た!
「はい!」
うわ、元気よく返事してしまった。どうしよう!
「皆さん覚えてらっしゃいます? 大きな事故があったのを」
あぁ、そっち。私の話ね。いや、それもあんまり話したくは……。
「ご両親を、あの事故で亡くされたんですって」
観覧席がざわついた。さっきまで「この子だれ?」って顔で見ていたお客さんも、突然憐れむような目で私を見始めた。
「もしかして、この話したくない?」
私、変な表情でもしたかな。女帝様が珍しく話題を変えようとしてくれた。人の生死に関わる事だもんね、流石女帝様。
「いえ、私は平気なんですけど、他にも巻き込まれた方がいますから……」
本当にそうなの。
弁護士さんにお任せしっぱなしだけれど、訴訟も進んでいるみたい。
「そうね、ほんと、そうね! あなた、きちんとした子なのね! ぽっとでの訳の分からない子かとも思ったけど、全然違ったわ」
女帝様に褒めて(?)いただいたんだけど
「じゃぁ、本来なら、そこへ座る筈だった方のお話は良いかしら?」
キターーーーーーー!
また観覧席がざわつく。
どうする? どうしよう!
「そ、そうですね!」
ああああああ、口が勝手に勝手に! だめだめだめ!
「本当は南美ちゃんが来る予定だったんですけど、すみません私が来ちゃって」
ほんと! 私何言ってるの!! なんで南美ちゃんの名前だしたの!
「あらぁ、そんな事言わないで!」
女帝様には大変ウケたようですけど、恐らく少し離れた場所にいるであろう太一さんの姿を探すのも怖い。絶対に怒ってるよね。
「今、南美ちゃん、どうしてらっしゃるの? 可哀そうに」
ねぇ、と観覧席に方に同意を求める女帝様。
すると、お客さんもなんだか凄く同情的な表情に。
「お母さんと一緒にいるみたいです」
「あら! 行方不明じゃなかったのね! 良かった! 私ね、今騒がれてる例の件。絶対に、男が悪いと思うの!」
すると観覧席から物凄い拍手が。
え、そうなの?
テレビやネットでは、南美ちゃんが叩かれてるけど。
「沙知さんは、どう思ってらっしゃるの?」
お客さんの雰囲気、女帝様の話術に、つい乗せられてしまった。
「私も、そう思います!」
それも、カメラを見てキッパリ。
その瞬間、物凄い顔をしてこっちを見てる太一さんと目が合ってしまった。
あー、もうだめ。どうしよう。
「あら、あの方マネージャーさん? 物凄く怖い顔してらっしゃる」
女帝様、とうとう太一さんまでイジリだしちゃった。
「まぁ、そうですよね。沙知さんは南美ちゃんの付き人さんだったのね。きっと、色々ご存じなんだろうけど、これ以上追及して叱られたら可哀そうなので、次行きましょう」
もっと聞きたい、そんな空気が観覧席から漂ってる。
「はい、すみません……」
私だったら、他人に自分の恋愛事情なんて話されたくないだろうし、南美ちゃんは私を信頼して話してくれたのに、こんな事になってしまって。
そこに座ってるのが、精一杯だった。
「沙知さん!」
収録が終わって、一言も話しをしてくれない太一さんの後ろを放心して歩いてたら、楽屋から女帝様に呼び止められた。
「はい! 今日はありがとうございました!」
振り返って女帝様の顔を見た瞬間、スイッチが入ってしまった。なんか、そう言う気迫があるのよ女帝様には。だからこそ、女帝様って言われてるんだろうけど。
「いらっしゃいよ」
楽屋に招かれてしまった。
「ありがとうございます」
太一さん、どうしよう。
って振り返ったら、いないんですけど!!!!!!!
もう、これは行くしかない。
それから1時間程、女帝様とお茶を飲みお菓子を食べ、沢山話をしたの。
最初は怖い人なのかなぁ、と思ってたんだけど、全然そんな事なくて。まぁ、怒らせたら怖いんだろうけど。
ただ、どうして私の事、そんなに詳しいのかな、って思うほどよく知ってた。絶対にウチの社長が話したんだと思う。
「困った事があったら、いつでも相談いのるからね」
きっと、両親の事故の事、おばぁちゃんの事、物凄く同情してくださってるんだと思うの。
「じゃぁね、次もよろしくね」
え?
次?
「2週間空けば、また状況もかわるでしょ? 今回は、あまり聞けなかったしね」
って、女帝様満面の笑み。
やっぱり、こっわぁぁぁぁぁぁいい!
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