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「5秒前!」

 楽屋へと戻って行った南美ちゃんと太一さんは、そのまま戻って来なくて、私はどうして良いか分からないまま、南美ちゃんナシで、2本目の収録が始まってしまった。

 つい、マロンを抱く手に力が入ってしまう。

「続いては! さっちゃんのコーナー!」

 その瞬間、緊張がMAXになって……。

 はい、何も覚えてません。

 南美ちゃんも太一さんも居ないスタジオ収録なんて、初めてだったから頭真っ白。

 唯一覚えてるのは、南美ちゃんに振り払われた手がいつまでも痛かったことだけ。

 気が付けば収録は終わり、マロンと一緒に楽屋に戻ってた。この後も予定が詰まってる筈なのに、太一さんは見当たらないし、これはもう、一人で動くしかない。

「さ、マロン、行こうか」

 意を決した瞬間

「ごめん!」

 って太一さんが、楽屋に飛び込んできた。

 ノックくらいしてよ、着替え中だったらどうするのよ、って思ったけど、ちょっとホッとしたのも事実。

「あの、南美ちゃんは?」

 手はもう痛くなかったけど、あの時の南美ちゃんの金切り声が頭から離れなくて。

「いなくなった」

 そっか、じゃ安心……え?

「え?」

「ちょっと目を離した隙に、いなくなった」

 えええええええええええええええ!


 南美ちゃんを探さなきゃ!

 あのバカ俳優に、一言いってやりたい!

 とか、思うんだけど、いつのまにやらスケジュールがツメツメに詰め込まれてて、気持ちばっかりが高ぶってしまう。

 それがマロンにも伝わるのか、最近あまり落ち着きがない。

「沙知が気にする事じゃないから」

 って太一さんは言うけど、もしあの時私が迂闊に話しかけてなければ、あんな事にはならなかったんじゃないかな。

 もう、頭の中はぐっちゃぐちゃだけど、仕事の方は順調。

 ペット用品のCM・広告、ペット雑誌のインタビュー、バラエティ番組の出演。私は次々と仕事が決まるんだけど、南美ちゃんは既に撮影が済んでいた連ドラの出演シーンすらカットされてしまうらしい。

 あんなに頑張ったのに……。

 しかも、情報番組やインターネットではバッシングの嵐。

 どうして南美ちゃんばっかり責められるのよ!!!

 人気だったブログも、今は批判的なコメントばかりが恐ろしい程書き込まれるもんだから、沙織さんがコメント欄を閉鎖してしまった。

「どこに行っちゃたんだろう……」

 南美ちゃんが出るはずだったバラエティ番組に、私が代わりに出る事になった。けど、この番組、おばあちゃんが大好きなのよね。見るよね、きっと。

 嫌な予感しか、しないんですけど!

 もしかしたら、もう私がこんな仕事を始めた事を知ってるのかもしれない。ただ、それを確かめる術がなくて。

 だって、寝る時間もないほど忙しくなってきたの……。

 同時進行してるアパレルメーカーとのコラボ企画も、思っていた以上にメーカーのポテンシャルが高くて、そこに私も合わせて行かなきゃいけない。デザインとか素材なんて勉強した事もないし、寝る時間を削って勉強してます。


 深夜に帰って来て、ちゃちゃっとシャワーを済ませて、マロンをブラッシング。翌日のお仕事の準備と、プロジェクトの勉強。移動中の車の中でも、本を読んだり確認をしたり。

 でも、ついウトウトしてしまう事も多くて。

 見かねたのか、太一さんが、

「マロンの世話、誰かに頼むか?」

 って言ってくれたんだけど、そうはいかないわよね。

「大丈夫、そもそもマロンは南美ちゃんから私が預かったんだし、それを誰かに任せるなんて無理です」

 って事よ。

「そっか、まぁ、無理すんなよ」

 無理しなきゃいけない程、仕事詰め込んでるのはソチラじゃないですかね、なんて言えないよ。

 まだお給料明細を見てないから分からないけど、これだけ頑張ってるんだもん、きっと借金減ってるわよね!

「あ、そうだ、南美、見つかった」

「いつ!」

「昨日」

 はい?

 今日は早朝から仕事で、ずっと一緒に居て、今もう夕方なんですけど。

 そんな大事な事、思い出しついで見たいに言う!?

「どこにいたんですか」

「社長が用意したホテルに、母親とずっと一緒に居たらしい」

 そうだったのね。と言う事は、太一さんもそれを知らされてなかったって事なのか。

 あの社長、やっぱり怖いよ……。


 今から、南美ちゃんの代わりに出るバラエティ番組の公開収録、なんだけど。そう、おばあちゃんが好きな番組。

 司会者の女性が、遠慮なく色んな事を根掘り葉掘り出演者から聞き出して、面白おかしく話を盛り上げる番組。

「南美ちゃんの事を聞かれたら、どうしたら良いですか?」

 難しい顔をして、手帳とにらめっこしてる太一さんに聞いてみた。太一さん、手帳とにらめっこしてる時って、大抵眠気と戦ってる時だから。

「えー、社長に聞いてぇ」

 てぇ、で欠伸した。もうちょっと真剣に応えてくれても良いのに。

「分かりました」

 悩む時間が勿体ないもの、即社長に電話連絡。

「そんなもん、沙知の好きに応えたらええわ。任せたで! あの女帝さんを怒らせんように、上手にな!」

 好きにって……。

 女帝さんって言うのは、司会者の女性の事。

 私も「見る側」の時は、好きな番組だったけど、出るとなると今更ながら怖くなってきた。

 せめて社長が「ノーコメントで」って言ってくれたら、良かったのに。要するに、自分の責任で発言しろ、って事でしょ?

 本当に、どうしよう!

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