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『大人になっちゃった、ミナミちゃん!』

 派手がましい書体。

 南美ちゃんと、あの俳優が別々だけど同じホテルから出てくるところを捉えた写真。

 二人共変装してるつもりかもしれないけど、一目瞭然。

 別々に出れば、気付かれないとでも思ったの?

 詳しい内容は、明日発売の雑誌の方へ載るらしいけど。

 既にニュースサイトのTOP生地になってる。


「止めようと手は尽くしたけど、これだけ証拠を押さえられたら無理よ」

 沙織さんも頭抱えてた。

 雑誌社から送られてきた記事を見せてもらったけど、それはもう詳細に書かれてた。

 偶然同じホテルに……、なんてこれは通用しないよね。

 南美ちゃん、大丈夫かなぁ。

 明日は番組収録で、一緒になる予定なんだけど。

「沙知は気にする事ないから」

 南美ちゃんは、どこかのホテルに身を隠してるらしい。

「マンションは、カメラが狙ってるからな」

 社長の言うように、マンションの裏口にまでカメラマンがいた。

「30分で用意して。大きな物は、後で運び出すから」

 太一さんに追い立てられるようにして、事務所の用意したマンションに、急遽引っ越す事になった。

 ちょっと事務所の用意周到さに、不信感はあるけどね。

 家賃、幾らなんだろう。

 今までは、南美ちゃんのマンションに間借りしていたから家賃はゼロだけど、お給料から引かれるんだろうな。

 借金返済が遠ざかってしまったじゃない!

 あのバカ俳優。

 いたいけな南美ちゃんを騙してんじゃないわよ。

 離婚する気なんて、さらさらないくせに!

 ん?

 南美ちゃんて、いたいけ、だっけ?

 いたいけ、って幼気って書くのよねぇ。

 

 大急ぎで荷物をまとめて、南美ちゃんのマンションを出た。

 もう、ここに来る事は二度とない、のかな。

 寂しくなっちゃった。

 突然ここへ連れて来られた日が、凄く昔に感じる。

「なんて顔してんだよ」

 報道人に気付かれる事なく、荷物を抱えて車に滑り込んだとたんに、言われた。

 そんな変な顔してるかな。

 とついバックミラーを見たら。太一さんと目があっちゃった。

「ごめんな、こんな事になって」

 こんな事言うの、太一さんらしくない。

「いえ、大丈夫です。いつまでも間借りしてるのも迷惑だったろうし」

 別に慰めるとか、そう言うんじゃないけど、そうですよ! 本当いい迷惑! なんて言えないよね。ちょっと思ってるけど。

 せめて、物件探しは自分でしたかった!


 連れて来られたマンションは、事務所から近くて、セキュリティもそこそこ。

 ペット可。

 共有スペースに、ペットのシャンプーやトリミングの出来るトリミングルーム、散歩から戻った時に足を洗う足洗い場、が。

 これ、絶対高いよね!

 物凄く高いよね!

 どうしよう、借金返済どころか、増えちゃうんじゃないの?

 こうやって追い込まれて行って、最後は露出の高い写真とかの仕事を入れられるんだよ、きっと。


「部屋は5階。沙織さんが先にいるから」

 あれ?

 太一さん、一緒に来てくれないの?

 一瞬、ちょっと一瞬車を降りるのを躊躇してしまったの。

 そしたら

「南美の様子、見に行かなきゃいけないから」

「そうですよね」

 しまった。

 今、私の声、凄く残念そうな声だった。

 私、何を期待してたんだろう。


 部屋には、沙織さんがマロンと待っててくれた。

「まだ、大きな家具とかなくて寂しいけど、住んでいくウチに快適になるから」

 確かに、あの風呂無しアパートだって、住めば都。

 今思えば、なかなか快適だったもの。

 家具と言う障害物のない部屋で、マロンが大喜びで走りまわってた。

 フローリングは滑るから、と思って止めようとしたら、このフローリング全然滑らないの。

「凄いでしょ。このマンション」

 沙織さんが、自慢気に言うんだけど……。

 やっぱり家賃が気になる!!!!!!!!


 沙織さんが運んでくれた布団を、フローリングに敷いて寝ようとしたんだけど、寝付けない。

 ついつい、このマンションの家賃なんかを調べてしまって絶句。

 これは、きっと、間違いなく、確実に借金増える。

 私、やっぱり社長にうまいこと騙されたんじゃないの?

 でも、これでおばあちゃんが元気になるのなら。

 そうよ、このマンションでおばあちゃんと住めば良いんだ!

 今、施設に支払っているお金が不要になるから、それで借金返済に回せる。

 無理やり気持ちを前向きにして、数時間眠る事ができた。


 今日は、動物番組の二本撮りの日。

 南美ちゃんの件は、みんなもう知っているのか完全にピリピリムード。

 私はとにかく、大人しく大人しく。

 だったのに。

 今回の収録で、あの新しい企画が発表になってしまった。

 どうしよう、南美ちゃんの居る方にすら顔を向けられない。

 何も今日発表しなくて良いのに。

 でも、そこは流石南美ちゃん。

 完璧な演技で喜んでくれた。

 そして、1本目を収録している間に、あのバカ俳優が会見をしたらしく、浮気を認めて南美ちゃんと別れるって宣言したらしい。

 ほら、やっぱり南美ちゃんと結婚する気なんてないじゃない!

 バカバカバカ!

 あんまりにも頭にきて、自分の置かれている立場をすっかり忘れてしまった。

 2本目の収録が始まると言うので、スタジオに向かっていたら、前を歩く南美ちゃんを見つけた。

 ちょっと小走りで追いかけて

「南美ちゃん」

 大丈夫? って声を掛けようとして、肩に手を置いたの。

 バシッ!

 その手を物凄い勢いで振り払われて

「さわんないでよ!!!」

 南美ちゃん自信も驚く程の、金切り声だった。

「ちょっと楽屋戻ろう」

 太一さんが、慌てて南美ちゃんを連れて行ってしまった。

 私とマロンは、どうして良いのか分からず、ただ振り払われた手が酷く痛かった。

 

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