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社長の大暴露インタビューのおかげなのかな。
アパレルメーカーから、コラボのお話まで頂いてしまった。
ペットとオーナ、お揃いのグッズ作成だって。
何をどんなデザイン、素材で作るか。
そんな段階から、一緒に作らせてもらえるんだって。
「本当に私で良いんですか?」
ついメーカーの方に聞いてしまった。
「勿論ですよ」
ものすごく爽やかな笑顔で応えてくれたけど、その爽やかさにうさん臭さを感じるのは、この業界に慣れてしまったせいかな。
「沙知、何を気にしてるんや」
社長が不思議そうな顔してる。
そりゃ、そうよね。
借金返済の為には、頂けるお仕事は全部頑張らなきゃ。
でも
「マロンのオーナーは」
「ああ、それは気にせんでええ」
オーナーは南美ちゃんって言おうとしたら、社長に遮られた。
「そうですよ。みんな沙知さんとマロンのコンビを待ってるんですよ」
メーカーさんも、社長に合わせて来る。
「よろしくお願いします」
南美ちゃんの顔がちらついたけど、そう言うしか、私に選択肢はないんだ。
あの時は、呉服屋さんのワゴンにあった端切れで作ったんだけど、今回は商品として売り出すためのプロジェクトチームが立ち上がったの。
『プロジェクト沙知とマロン』
確実にださいプロジェクト名。
あの動物番組の中のコーナーとして進んで行くの。
商品の売り上げの一部は、愛護団体へ寄付。
これは大人の事情よね。
週刊誌に「動物虐待疑惑」とか、書かれちゃったし、ね。
これで、番組内に私が絡んでいるコーナーが二つ出来た事になった。
ロケにプロジェクトに収録に。
もう、本当に忙しくなってしまった。
美咲ちゃんから来たメールに返事しようとして、スマホ握りしめてそのまま寝ちゃったりなんて、しょっちゅう。
それでも、忙しくしている方が、余計な事を考えなくて良いのかなって思い始めてた。
久しぶりに風子さんのオムライスが食べたくて、マロンと二人『ヴァン』に来た。
いつもは風子さんの前に居たくてカウンターなんだけど、何故か目立たない店の隅に案内されてしまった。
別にオムライスが食べられたら、それで良いんだけど、なんで? と思ってたら、お手洗いから南美ちゃんが出て来た。
うわぁぁぁぁぁぁ。
声にならない悲鳴を心の中で叫んで、慌てて身体を小さくした、つもり。
風子さんが、チラっとこっちを見た。
分かった、だからこの席なんだ。
南美ちゃんの居る席からは、こちらは見えない。
けど、声は聞こえてくる。
「もうさ、社長も沙織さんも、さっちゃんさっちゃんてさ」
うわぁ、私の事愚痴ってる。
「南美が事務所に入った時、ここで同じような事を愚痴ってたタレントいたなぁ」
風子さんが軽くあしらってる。
これ、もしかして南美ちゃんが帰るまで、私帰れないんじゃないの?
どう考えても、私が扉に行くには南美ちゃんの後ろを通る必要がある。
風子さんが、オムライスを運んできてくれた。
ちょっと混んでて良かったよ。
店がすいてたら、こんな隅の席にオムライス運ぶなんて目立って仕方がない。
20分くら経った頃、帽子を目深に被った背の高い男性が入って来た。
え、もしかして。
南美ちゃん、男性を見ると嬉しそうに手を振った。
やっぱり!
あの俳優だ。
不倫男!
うそでしょ。
南美ちゃん、こんな人目につくところで待ち合わせてるの?
駄目だよ!
絶対だめ!
ちょっと、太一さん、何してるのよ!
今にも飛び出して行きそうになってると、風子さんがカウンターからダメダメと首を振ってた。
南美ちゃんが彼と出て行って、私はやっとカウンターに座れた。
「ちょっと風子さん、南美ちゃん、いつからここを待ち合わせに? 太一さんは、社長は知ってるの?」
思わず質問攻めにしてしまって、風子さんに笑われた。
「太一より、さっちゃんの方がマネージャーみたいね」
って。
だって、バレたらどうするの?
不倫よ、ふ、り、ん。
あっと言う間に、芸能界から抹殺されて復帰できるかも分からないのに。
二十歳で事務所との契約が切れるから、あと一年って言ったって、南美ちゃん小さい頃からこの業界だし、どうやって生きていくって言うのよ。
不倫男が離婚して、南美ちゃんと結婚なんて、絶対しないわよ?
「さっちゃんが心配する事じゃないわよ。山ちゃんは、きっと全て織り込み済みよ」
風子さんに抱かれたマロンが、嬉しそうに尻尾振ってた。
しかし、これで暫く『ヴァン』には行けないなぁ。
また南美ちゃんと鉢合わせしてしまったら、確実に私の方が分が悪い。
風子さんの話では、南美ちゃん結構な確率で『ヴァン』に来てるみたいだし、その多くが、あの男との待ち合わせ。
いや、本当に危ないから!
って、思った時には既に手遅れだった。
ある夜、突然事務所に呼び出された。
「撮られてもうたわ」
社長がそういって差し出したモノクロの紙。
見た事ある?
週刊誌に乗る前の原稿。
撮られるも何も、私は身に覚えが、もしかして。
『大人になっちゃった、ミナミちゃん!』
が見出し。
「明日、これが発売。今夜、先行の記事がネットに載る」
太一さんの渋い顔。
そりゃ、そうよね。
大騒ぎ間違いなしよ。
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