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 美咲ちゃんの出るお芝居を見に、小さな劇場にやってきた。

 何だろう凄くわくわくする。

 客席はパイプ椅子が並べてあって、舞台は目の前。

 少し早めにきちゃったんだけど、ほぼ満席。

「マスクしていけ」

 太一さんにそう言われて、マスクして来たけど……。

「あのー。もしかして沙知さんですか?」

 隣に座っていた女の人に声をかけられた。

「あ、はい」

 そう返事した瞬間、照明が落ちてお芝居が始まった。


 美咲ちゃんの役は、いじめられて自殺をしようとしている高校生の役。

 SNSに悪口や、個人情報なんかを書き込まれたり、学校では一人。


 お芝居の詳しい内容は、見に行ってあげてください。

 美咲ちゃん、物凄くお芝居がうまいの。

 目の前にいるのが美咲ちゃんだって、忘れてしまうくらい。


「応援してます、頑張ってください」

 って、帰りにさっきの女の人が言ってくれて、凄く嬉しかった。

 劇場を出ると、太一さんが車で待ってた。

 女の人にお礼を言って、車に乗り込んだ。

 太一さんが迎えに来るなんて予定外。

「どうしたんですか?」

 今日は南美ちゃんに付きっ切りの筈。

「打合せが入った」

 そうなんだ。

 私何を期待してたんだろう。

 ちょっと、がっかりしてる。


 ペットサロンにマロンを迎えに寄って、打合せ場所へ向かってるんだけど。

 美咲ちゃんのお芝居の事を思い返してた。

 あの子は、SNSに書き込まれた内容に次第に追い詰められていった。

 見ない方が良い、って言うのは分かってたけど、スマホを取り出した。


 あの子と同じように、恐る恐る名前で検索。

 沙知 マロン

 この二つで十分よね。

『マロンも沙知に世話された方が幸せなんじゃないの?』

『法的な所有権は南美だろ』

『沙知とか南美とかどうでもいい。マロンかわいい』

『獣医学部の件はどうなったの?』

『さちやんは、そんな子じやない。わたししてる。うちのゴンも可愛がてくれてた。がんばりやさん』

 え……。

 今の何。

 和江さん?

 もしかして心配してくれてるのかな。

 ちょっと、怪しい日本語な感じだけど。

 突然引っ越したまま、不義理してしまってる。

 今度時間が出来たら、ゴンのおやつを買って遊びに行こう。

『大学一緒だった』

 げ。

 覚悟はしてたけど。

 誰だろう。

『一度だけデートした事あるよ』

 ないない!

『この前見に行ったお芝居で、沙知が隣の席だった。マロンはいなかったなぁ。マスクなんかして、自意識過剰だった』

 えーーーーー!

 隣って右? 左? どっち?

 右の人は、帰りにも言葉交わしてるし、こんな事かかないよね。

 って事は、左隣だった人。

 どんな人だっけ。

 覚えてないなぁ。

『昨日、うちの店に飲みに来てたよ。凄く偉そうで最悪だった』

 行ってません。

 はぁ……。

 つい、ため息が出ちゃった。

 こうやって火の気の無い場所に、煙をたてちゃうんだね。

「事務所ないでさ」

「はい!」

 つい落ち込んでると、太一さんが唐突に話しかけて来るもんだから、大きな声で良いお返事してしまったじゃない。

「やっぱりマロンは南美に返して、沙知には新しい犬をって話が出てる」

 世論って言うの?

 やっぱり逆らえないわよね。

 でも、私、マロンなしに、この世界でやっていけるんだろうか。

「と同時に、マロンとセットの仕事が来た」

 え!

 あの番組以外で?

「そう、その打合せに行くんだから、そんなショボイ顔すんな」

 ショボイ顔で悪かったわね!

 あっかんべー。

 子供みたいな事をしてみたら、バックミラー越しに太一さんに見られてた。

「ばか」

 そう言って太一さん、ちょっと笑った。


 新しい仕事は、犬用フードの広告。

 打合せは和やかに進み、数日マロンにも食べさせてブログにも掲載する予定。

 これで諭吉さん、何人返せるんだろう。


 新しいフードと少しづつ切り替えて、マロンの健康状態を確認。

 皮膚を痒がってないか、お腹の調子はどうか等々が大丈夫そうなら、このお仕事は順調に進む。

 マロンファーストって言うの?

 

 それ以外にもバタバタとお仕事の話が舞い込んで、あっと言う間にあの安っぽい週刊誌の発売日。

 もう見たくもなかったんだけど、太一さんが見ろって言うから。

 え、社長?

 2ページに渡って、社長の写真入りでインタビュー記事。

『ああ、沙知とマロン? そもそも沙知は、南美がマロンの世話をせんし、マネージャーは犬が苦手で、頼み込んでマロンの世話係になってもろたんや』

『世話もせん南美に、なつくかいや』

『沙知はなぁ、苦労人なんや』

『おお獣医学部におたんはほんまや。中退しとるけどな』

 しゃちょぉぉぉぉぉぉ。

 しゃーべーりーすぎぃ。

「太一さん、これ!」

「うん、社長が全部ばらした」

 って太一さん、平気な顔してるけど。

『沙知が作った南美とマロンのお揃いのん、あれ可愛かったやろ』

 っしゃっちょーーーーー!

 私が作ったんじゃない、おばあちゃん。

 あー、もう!

 どうしよう。


 動物番組の収録。

 レギュラーの南美ちゃんも当然来るわけで。

「南美ちゃん、おはよう……ございます」

 廊下ですれ違ったので挨拶したけど、返事しないどころかマロンの事まで無視。

 ちらっともこっちも見ない。

 ただ、収録終わりに、マロンを抱いて廊下を歩いていたら、突然南美ちゃんが背後にやって来てスマホを構えたた。

「ほら、ブログ用の写真撮るから笑って」

 マロンを抱く私に、べったりとくっついて最高の笑顔の南美ちゃん。

 私も何とか必死に笑う。

 とても仲良さそうな写真が撮れた。

「沙知にも送るからブログに載せてよね。私だけ載せてたらおかしいから」

 そう言って、振り向きもしないで去っていった。

 数分後、確かに南美ちゃんから、さっきの写真が送られてきた。

 うわぁ、私完全に顔が固まってる。

 それに比べて南美ちゃんは、いい笑顔。

 格の違いを見せつけられちゃった。

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