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ロケの場所を知らされると、下調べをして、ペットオーナーとして気になること、聞きたい事なんかをリストアップ。
それに合わせて自分の知識も確実にしておきたくって、大学時代の本なんかも読み漁ったり。
叱られるかな、と思ったけど、ロケ先では台本に無いような事も、聞いたり言ったり。
「ちょっと頑張りすぎじゃない?」
隠れてるレストラン(本当に隠れてるんだもん)『ヴァン』の風子さんに心配されちゃった。
本気よ、私。
だって、一刻も早く諭吉さん500人分返さなきゃいけない。
二十歳の女の子が、抱え込む金額じゃないわよ500万円。
本当は何か騙されてるじゃ、なんて思うけど。
ブログ用の写真。
撮ってくれてるの太一さんだって言ったっけ?
自分で言うのも何だけど、被写体が地味なのに、すごくいい感じに撮れてるのよね。
ロケの合間に、本を読んだり、マロンと遊んだりしてる姿。
いつの間に撮ったの? ってのも沢山。
ほら、自分が綺麗にだったり、可愛く撮られてたら、凄くうれしいでしょ?
今迄は、写真に写る自分の姿って好きじゃなかったんだけど、太一さんの撮ってくれる写真は、すごく自然って言うか。
ついつい、ブログの更新頻度も上がってしまって。
「さっちゃん、これ見て!」
事務所で打合せをしていたら、沙織さんが飛び込んできた。
芸能人ブログのアクセス数ランキング。
5位に南美ちゃん。
最近ブログの更新頻度、落ちてるんだけど流石だわ。
で……
10位に
「ええ!」
なんと私、芸能人ブログアクセス数で10位になりました!!!
もちろん、更新頻度が高いから、その分アクセス数も増えるんだけど。
って、太一さんが言ってた。
んー、ちょっとは褒めてよ!
でもね、やっぱり太一さんの撮ってくれる写真のお陰で、モチベーション上がって更新も増えたんだし、うん、ありがとう太一さん。
口に出しては、絶対に言わないけど。
『マロンって南美の犬ですよねぇ? どう言う事なんですか』
『あの番組って、ちょっと動物虐待だよね』
注目度が上がったのか、こんなコメントも目に見えて増えて来た。
沙織さんの言うように、気にしない、とは思っていたんだけど。
安っぽい、ここはあえて大きな声で言わせてもらうけど、安っぽい週刊誌に取り上げられてしまった。
『あの番組に、動物虐待!? 犬で有名になったあの子にも疑惑の目!』
なによ、犬で有名になったあの子って。
どう考えたって、私じゃない!
誰が虐待よ!
スタッフの皆さん、そんな事、微塵もしてないわよ!
多分。
多分、ね。
少なくとも、私の知る限りでは絶対にそんな事ない。
私に向けられた疑惑の目は「元獣医学部」が嘘なんじゃないかと言う事。
誰がわざわざそんなウソ、つくって言うのよ。
ってブログを書いたんだけど、太一さんに止められてしまった。
「言い返したって、無意味。余計に騒ぎになるだけ」
って。
そんなぁ。
炎上って言うの?
おかげで、更にブログのアクセス数は伸びた。
「何か、すごく悔しいんですけど!」
つい、沙織さんに泣きついてしまった。
「大丈夫よ、一週間我慢しなさい」
って沙織さん。
えー。
一週間って何?
後ね、事務所の廊下で南美ちゃんとすれ違ったの。
「きゃぁ、マロン、久しぶりっ!」
って喜んでるのか、嫌みなのか。
でも、嫌がるマロンを抱きしめてたし、マロンに会えた事は本当に嬉しかったのかな。
「あ、沙知いたんだ。何か大変だね、がんばって」
って、棒読みかよ!
って対応をされてしまった。
「は、はい……」
南美ちゃん、年下だけどこの世界では先輩。
「じゃね」
そう言って去って行く南美ちゃん。
やっぱり、怒ってるよね。
もやもやしてると、美咲ちゃんからのメール。
「さっちゃん、大丈夫?」
って。
あぁ、持つべきは親友よ!
「ぜっんぜん、大丈夫じゃない!」
と言う事で、美咲ちゃんと隠れてるレストラン『ヴァン』で晩御飯の約束をした。
本当に分かりにくい場所にあるので、太一さんの運転する車で美咲ちゃんをピックアップして『ヴァン』に向かった。
「まさか、私がこの車に乗ることになるなんて」
って美咲ちゃん大興奮。
あれ?
私の事、心配してくれてたのでは?
と、思ったけど、美咲ちゃん嬉しそうだし、いっか。
「あらぁ、さっちゃんが友達連れて来るなんて」
風子さんも大歓迎してくれた。
「太一も、食べていきなさいよ」
って風子さんが言ったんだけど
「これから南美を迎えいに行くんで」
と行ってしまった。
もしかして、忙しいのに私のガス抜きの為に、車出してくれたの?
「それも、マネージャーの仕事よ」
って風子さんは言うんだけど。
申し訳ない事しちゃったな。
でも、せっかくこうして美咲ちゃんに会えたんだし、思い切りガス抜きさせてもらいます!
とは言え、私が業界の事や南美ちゃんとの事をペラペラと話すわけにもいかず。
美咲ちゃんのお芝居の稽古の話や、バイト先のコンビニの話をたんまりと聞かせてもらった。
「でも、さっちゃんが私のブログにコメントくれたりしてるお陰で、芝居のチケットの売れ行きが良いの。ありがとうね、さっちゃん」
美咲ちゃんキラキラした瞳で、私を見てる。
本当は美咲ちゃんのような子が、この世界で人気になるべきなんだよね。
「お芝居、頑張ってね!」
私も、スケジュールを確認して、美咲ちゃんのお芝居を見に行くと約束した。
どんなお芝居なのかは、全く知らないんだけど。




