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「何か、ごめん。本当に深刻だったんだ」
太一さんに、おばあちゃんの事を話したら謝られた。
「何で太一さんが謝るんですが」
思わず笑ってしまった。
「うん、そうやって笑ってろよ」
「え?」
「笑ってろって言ってるんだ」
「あ、はい……」
何か命令されてるのに、腹が立たないんですけど?
でも、そうだよね。
暗い顔してたって、おばあちゃんの病気がよくなるわけじゃないのに。
悩んでばっかりいないで、できる事をやらなくちゃ。
「そうですね。悩んでたって何も変わらないですもんね。ありがとうございます」
笑顔で太一さんにお礼を言った。
あれ、太一さん耳まで赤くなってない?
まぁ、こんな時に限って事件て起きるものよね。
南美ちゃんがレギュラーで出ている動物番組の収録日。
相変わらず南美ちゃんは可愛いいし、マロンは良い子。
特集は「しつけ」だった。。
嫌な予感はしたんだけど、やっぱり収録中にマロンが逃げ出した時の映像が使われちゃった。
スタジオは笑いに包まれたけど、その後が問題。マロンを抱き締めて話しかけてる私が……。
『愛犬としっかりコミュニケーションをとりましょう』
って、嘘でしょ。
「あの、私が写っちゃってますけど…良いんですかね」
近くにいた番組スタッフに聞いちゃった。
「面白いから良いんじゃない?」
いや、良くない。
マロンは南美ちゃんの犬だもん。
愛犬ってマロンの事を呼べるのは、南美ちゃんだけなのに。
それに、私テレビに出たいわけじゃないんですけど!
いや、むしろ出たくないんですけど!
「これ、いつ放送ですか!?」
「台本に書いてるだろ」
あ、本当だ。
どうしよう、放送される前に、何とかしなきゃ。
そんな訳で今、社長室に居るんだけど……。
「どうや、タレントにならへんか?」
えーっと、何を言ってるんすか社長。
「タレントになった方が、ようけ稼げるで」
いや、本当にそんなつもりはないんですけどね。
「このままで良いです」
「そうかぁ、勿体無いなぁ。沙知やったら絶対上手いこと行くと思うんやけどなぁ」
社長、物凄く残念そうに言うから、なんだかこっちが悪い事してる気分になるじゃない。
「別に裸にしようとか思ってないしな。いや、なってくれたらもっと稼げるけど」
何を言ってるんですか社長。本音が漏れてます。
やっぱり絶対無理。
「もしもーし、沙知? 今どこよ」
南美ちゃんからの電話で、社長との平行線を辿る会話は終わったんだけど、あのマロンと私の映像に関しては何の解決にならなかった。
「もう、今更こっちの都合で使わんといて何て言われへんやろ?」
との事なんだけど、何勝手に使用許可だしてるのよぉぉぉぉ。
兎に角一番見られたくないおばあちゃんが見ないように、放送日にはおばあちゃんをテレビから離さないと。
お年寄りってテレビ好きよね。
ご他聞に漏れず、おばあちゃんも大好きなのよね。
面会に行って、番組を見ないように他の局にチャンネル合わせれば良いよね。
「そうか、だったらその日は俺一人で何とかするわ」
太一さんに相談したら、協力してくれる事になった。
でも、あと一人、先に言っておいたほうが良い人が居るよね……。
深夜のカラオケボックス。
受付で聞くと、美咲ちゃんもう来てるって。
こっそり覗くと、物凄いノリノリで歌って踊ってる。
やっぱりテレビに出る様な子は、こう言う子だよね。
様になっている姿に見とれていると、美咲ちゃんが私に気付いて手招きをした。
はぁ、絶対機嫌悪くするよね。
友達失くす覚悟決めました。
「そう……」
美咲ちゃんは、それだけ言って黙ってしまった。
「べ、別にタレントになるとか、そう言うんじゃないのよ。たまたま移り込んでしまった映像が使われるだけだから」
なんで私が言い訳してるんだろう。
「おめでとう……」
今、美咲ちゃん、何って言った?
「え?」
「良かったね!」
美咲ちゃん、泣き出した。
「え? え?」
さっきから、え、しか言ってないよ私。
「友達がデビューって、悔しいけど嬉しいもんなんだね」
そう言って美咲ちゃん私の手を取り、目を覗き込んで言った。
「絶対、歩合制にするよの」
はい?
美咲ちゃんの中では、私がタレントデビューする事になってしまったけど、友達は失くさなくて済んだ。
でも、これで気がついたんだよね。
私、この仕事いつまで続けられるんだろう。
社長が、私にタレントになる事を、やたらと勧めるのは社長が稼ぎたいからだけじゃないのかもしれない。
南美ちゃん言ってたもの。『二十歳まで』って。
もし、本当に二十歳で南美ちゃんが事務所をやめたら、私は一体事務所で何をするんだろう。
マロンをブラッシングしながら、ぼんやり考えてたら木製のブラシ落として割ってしまった。
嫌だなぁ、もう、縁起悪い。
「先日、お話のあった治療法ですが、前川さんにあっている、との事でした」
おばあちゃんの入所している施設の介護師石塚さんから連絡があった。
できる事から、と思って施設に問い合わせてたのよね。
良かった!
これでおばあちゃん、治るのよね!
って、先立つモノが……。
「前川さんも、喜んでいらっしゃいましたよ」
いーしーづーかーさーん!!
おばあちゃんに言っちゃったの!?
「ほら、もう良いから行ってこい」
太一さんにせかされて、施設まで来たんだけど。
何だか気が重い。
おばあちゃん、治療受ける気でいるみたいなんだけど、凄く高いのよね。
健康保険が使えない治療。
世の中にはあるのね、お金持ちしか受けられない治療が。
「おばあちゃん!」
部屋に入ると、石塚さんに洗濯物を片付けてもらっている最中だった。
「あら、前川さんお孫さんいらしたわよ」
「沙知、こんな時間に珍しいねぇ」
「うんん、ちょっとね……」
洗濯物を石塚さんから受取った。
「ありがとうございます、後は私が……」
「前川さん、お孫さん、きっと何かお話があるのよ」
石塚さん、ふふふ、とか言いながら部屋から出て行った。
ふふふ、じゃないし!
「沙知、どうかしたの?」
時計を見ると、あの番組が始まる時間。
「うん、実はね……」
もう、治療の話題で時間を稼ぐしかないよね。
更新が滞っております。
「Lena ~魔人皇女の物語~」
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こちらの連載が終わり次第、再開します。
20180820 再開しました。




