心当たり
朝、ぱっちりと目が覚めた。
頭はすっきりしている。
汗をたくさんかいた気がする。大きく背伸びして横を見ると、ベッドの下に伊吹が薄いふとんを一枚敷いて丸くなっていた。
「伊吹っ」
海斗は驚いた。
ふとんから飛び出て伊吹を揺さぶる。
「伊吹、起きて。風邪引くよ」
しばらく揺さぶると伊吹は少し唸って起きた。
海斗と目が合うと、かあっと赤くなって顔を逸らす。
「どうしたの? 大丈夫?」
不思議そうに聞くと、伊吹は目を吊り上げた。
「てめえっ」
「ん?」
きょとんとすると、コンコンとノックがして母の声がした。
「入るわよー。熱は下がった?」
母は二人の間に入り、海斗の額に手を当てた。
「大丈夫ね」
ほっと息を吐いた。
「伊吹ちゃんが一晩中ついて看病してくれたのよ。お礼を言いなさい」
「えっ? 本当?」
驚いて伊吹を見ると、彼は目を丸くしてパッと立ち上がった。
「トイレっ」
逃げ出した伊吹を見て呆然とする。
「あら、かわいい。照れる事ないのにね」
階段を駆け下りる音を聞きながら、母がくすくす笑った。
海斗は信じられなくて、伊吹の出て行ったドアを見つめていた。
夕べは伊吹の夢を見ていた気がするが、あれはもしかしたら夢じゃなかったのかもしれない。
ただ、残念な事に夕べの内容はさっぱり覚えていなかった。
「ああ、そうだわ。海斗、お客様よ」
「え? 誰?」
「大学の時の先輩ですって」
太一だ。
昨日の今日だから心配して来てくれたのかもしれない。
上がってもらってと言うと、母は分かったわと言って下りて行った。
しばらくしてもう一度ドアがノックされた。
「どうぞ」
起き上がってドアを開けると、やはり太一だった。
手には紙袋を持っている。
「見舞いだ。ケーキ好きか?」
突き出されたそれを受け取る。
「先輩、わざわざありがとうございます」
「いや、いい。俺が食べたかったんだ」
太一はにやっと笑って部屋に入った。
イスを差し出すと太一が座った。
「もう大丈夫なのか?」
「はい。熱が出たのでよくなったみたいです」
「油断するなよ。たぶん、ストレスが溜まってたんだよ。あ、それと昨日の女子生徒調べたぞ」
「えっ」
海斗は弾かれたように顔を上げた。
太一は、ぬかりないだろという顔でにやりとすると、少し小声になった。
「今年卒業する三年生だ。大学進学が決まっている。たく、卒業が決まっているからって、やっていい事と悪い事の区別もつかないのか、あいつら……」
吐き出すように言うと、海斗の顔をじろりと見た。
「心当たりがあるんだろ」
海斗が目を見開いた時、
「おい、海斗っ」
とドアがいきなり開いて伊吹が入ってきた。




