風邪
深夜になってあまりの寝苦しさに目を覚ました。
「熱い……」
手で顔を覆うとびっしょりと汗をかいていた。
体中が濡れて気持ちが悪い。
着替えたいのに体がだるくて動けなかった。その時、
「海斗?」
と言う声がした。
「え……?」
目を開けると伊吹がいた。
「大丈夫か?」
「あれ? 何してんの? 伊吹、寝ないの?」
うわ言のように海斗がわけの分からない事を呟いた。
「何言ってんだ?」
伊吹が首を傾げてイスから立ち上がると、海斗の顔を覗き込んだ。伊吹の顔が目の前にある。
海斗はじいっと見つめた。長い睫、綺麗な目から目が離せない。
虚ろに見つめたが、伊吹は気が付いていない。
「すごい汗だ。着替えるか?」
「うん。着替えさせて、気持ち悪い」
即座に甘えて伊吹の腕に手を伸ばした。伊吹は分かったと言って、用意してあったのだろう机からパジャマを取った。
「ほら、脱いで海斗」
「うん…」
海斗は支えてもらって体を起こした。
「大丈夫か? 体がすごく熱い」
「大丈夫じゃない……」
伊吹にもたれかかるようにして呟いた。
「伊吹……」
「ん?」
熱で頭がぼうっとしている。伊吹の胸に顔を預けた。心臓の音が聞こえてきて、ほっとした。
「伊吹……」
もう一度言って海斗は伊吹の首にしがみついた。
伊吹は一瞬驚いた顔をしたが、まごつきながら抱き返した。
「気持ち悪いのか?」
「気持ちいい……」
伊吹に触れられて幸せな気持ちだった。
「風邪が悪化するから早く脱げ」
「脱がして……」
「え? 面倒くさいな」
伊吹はぶつぶつ言いながら海斗の上着を脱がした。
海斗の白い体には粒になった汗がたくさん付いていた。
「汗を拭いてよ」
「注文の多い奴だな。病院だってこんな事しねえぞ」
文句を言いながらも海斗の背中や胸をタオルで拭いてくれた。
綺麗に汗を拭き取ると新しいパジャマを着せてくれる。
「ズボンも替えたい。汗でべとべとなんだ」
「知ってるよ」
ふとんを剥いでから海斗の腰に腕を回すと、するりとうまくズボンを脱がした。
ほっそりした海斗の膝を折り曲げて、足もきちんと拭いてくれた。
「海斗、痩せすぎ」
伊吹の声が聞こえた。
海斗は薄目を開けたままぼうっとしていた。
何て幸せなんだろう。
頭がぼやーっとしていて、どうして伊吹がこんなに尽くしてくれるのかよく分からなかった。けれど、いつもは生意気な伊吹が優しい。
「伊吹……。好き…」
海斗はゆらゆら揺れながら、目を閉じた。
「え?」
ズボンを穿かせようと苦戦していた伊吹の手が止まる。
顔を上げると、とろんとした目の海斗が、伊吹の髪の毛に手を置いた。
「お、おい……」
焦る伊吹を無視して、海斗はその旋毛にキスをした。
「好きだよ…」
しがみついたままうわ言を繰り返した。
伊吹は、戸惑いながらも抱き返してくれた。
海斗はほっとすると、伊吹のパジャマの襟元をぎゅっとつかんだ。
唇に触れたくて自分の唇を重ねる。
何度も触れたかった伊吹の唇。
「好き…」
感触を楽しでから、角度を変えて深くキスをした。
伊吹の唇の感触を味わった。もっと欲しかったが、限界がきた。
「もう、無理……」
海斗はことんと気を失うと、なだれ込むように伊吹の腕の中に崩れた。
「海斗? おい、海斗?」
肩を揺さぶられた気がしたが、海斗は深い眠りについた。