表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

いらいら



 夕食のカレーはあまり喉を通らなかった。

 父に、カレーがそんなに嫌いなのか、と聞かれたがカレーが嫌いなわけではない。

 うまく答えられずにスプーンを置いた。


 お風呂から出て髪を乾かした後、時計を見た。

 時刻は午後十一時を過ぎている。

 いつもなら、そろそろ伊吹が現れるが、今夜は誰かの家に泊まると言っていたのだから、それが事実なら来ないだろう。


 今さらになって思うのだが、伊吹は許してくれないかもしれない。

 伊吹が自分から離れていてしまう事を思うと切なくなった。

 こんな日はさっさと寝てしまおう。

 明かりを消して布団に入ろうとしたら、玄関のドアがガチャガチャ鳴る音が聞こえて、海斗はびくりとした。


 伊吹が来たっ。


 慌ててベッドに逃げ込む。そのうち、どたどたと派手な音を立てて階段を上がる音がした。海斗は心臓が縮まる気がした。


「海斗っ」


 ドアがバタンと開き、部屋の明かりがついて伊吹が突入してきた。


「てめえっ」


 頭上から罵声を浴びる。


「起きろっ。隠れてんじゃねえよっ」


 布団を剥がされて、海斗は逃げ場をなくしてしまった。


「……ごめん」


 おそるおそる顔を上げると、真っ赤な顔をしたパジャマ姿の伊吹が立っていた。

 髪を乾かさずに来たのか、少し生乾きだ。


「風邪引くよ……?」

「引かねえよっ。てめえみたいに年寄りじゃねえんだよ、一緒にすんなっ」


 いつも以上に激しく興奮している。


「今夜は泊まりに行ったんじゃなかったの…?」


 海斗は布団を手繰り寄せ、バリケードを張ろうと試みた。しかし、伊吹に奪われる。


「てめえのせいで苛々してんだ。ひとこと言わなきゃ気がすまないんだよっ」

「ごめん……」


 こぶしを震わせていた伊吹は、海斗のおびえた様子を見て、はあっと息を吐き出した。


「二度とのぞくんじゃねえぞ」

「のぞいたんじゃないよ。偶然だったんだよ」


 言い訳がましいが、のぞきなんて変態みたいな事言わないでほしい。


「ノックぐらいしろよ」


 伊吹はどさっと頭を投げ出し、海斗の膝に頭を乗っけた。

 少し濡れている髪が手に触れる。

 下から覗き込まれてドキッとすると、伊吹が目を逸らした。

 海斗は伊吹の髪を撫でながら、


「靴がなかったから、伊吹一人だと思ったんだ」


 と、やっぱり言い訳をした。


「あっただろ? よく確認しろよ」


 言われてあの時の状況を思い出す。しかし、確かに玄関には伊吹の靴しかなかった。

 首を振ると、伊吹は一瞬考えて舌打ちをした。


「伊吹?」

「何でもない」


 ぶすっとした顔をすると海斗の膝に顔をうずめた。


「あー、もう海斗のせいだぞ。苛々して眠れねえよっ」


 伊吹はぐずぐず言い、どさくさにまぎれて抱きついてきた。


 腰を抱かれ、変な気持ちになる。


 だが、伊吹にとってじゃれるのはいつもと同じ。

 ベッドの上に乗ると、猫か犬のようにべたべたとしてくるのだ。


「電気消せよ」

「もう寝る? 宿題はちゃんとしたのか?」

「うるさいなっ」


 やっぱり怒っている。


 海斗は仕方なく息を吐いて、ベッドから立ち上がるとドアのすぐそばにあるスイッチを消した。

 たちまち真っ暗になり窓の外がぼんやりと光った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ