年の差
「本気か?」
ついに海斗の目から涙があふれて、伊吹がはっとして押し黙った。
「なんで泣いてんだ?」
どうしたら、16歳の君を解放してあげられるんだろう…。
海斗はぼんやりと考えた。
彼を傷つけず、しかし、自由に羽ばたいてもらうにはどんな言葉をかければいいんだろう。
海斗には分からなかった。
ただ、安易にこの手を取っちゃいけないのは分かっていた。
そして、繰り返すように、ただ彼を突き離しちゃいけないのだ。
海斗は、ぐいっと頬をこすった。白い頬が赤くなる。
「伊吹」
海斗は、伊吹の両手を握りしめた。
伊吹の手がびくりと震えたのが分かった。
「僕は伊吹のことすごく大切にしている。死ぬまで一緒にいたいって思っているくらい、すごく大切なんだ」
伊吹がほっと肩を下ろして、うん、と頷いた。
「だったら――」
海斗は、わざと言葉を遮った。
「でも、それは恋愛とは違うんだよ。僕とキスしたりそういう意味じゃないんだ。気持ちいいから僕と付き合うではないんだ」
伊吹はむっとした顔をする。
「よく考えて、僕は女の子じゃない。一緒にいて気が楽かもしれないけど、それと恋愛は別なんだ」
伊吹の顔はむすっとしたまま、眉をひそめている。
「意味がわかんねえ」
「僕は、ずっと伊吹と一緒にいたい。けど、恋愛じゃなくて、今まで通りでいいんだ。だから、伊吹は、好きな女の子と付き合っていいんだよ」
伊吹は納得のいかない顔で、海斗を見つめていた。
「お前は俺が好きじゃないのか?」
「好きだよ」
「そうじゃなくて、お前は、恋愛の気持ちで俺が好きじゃないのか?」
伊吹が強く言い切る。
海斗は、息を呑んだ。すぐに答えられない。
「僕は…伊吹のことが好きだ。大好きだよ。ただ、それだけだ」
「恋愛じゃないってことだな」
伊吹の顔が怖い。
もしかしたら、ここで見放されるのかもしれない。
海斗はそれ以上何も言わなかった。
伊吹の手が離れていく。
「分かった」
冷たい声だった。
海斗は大きく息を吐いた。
それ以上言葉は見つからない。心が空っぽになった気がした。
力も入らず茫然としていると、突然、伊吹がその場の空気を払拭するように、よしっと大きな声を出した。
海斗はぎょっとして伊吹を見た。
「海斗、俺が高校生だからって甘く見ているみたいだけど、16歳だってそれなりにいろいろ考えているんだぜ」
と、わけのわからないことを言いだした。
「は?」
海斗が目をぱちくりさせる。
「時々、家に帰って来いよ。後、俺もこっちに遊びに来たいからさ」
「いいけど…、来るときは連絡してね」
海斗が戸惑って答えると、伊吹が苦笑した。
「ちゃんと連絡するよ」
そう言って、伊吹はごろりとふとんに横になった。
「ああ、疲れた」
海斗がすぐに伊吹の頭を優しく撫でた。
「お前さ、俺のこと幼稚園児か何かと間違えてないか?」
伊吹の言葉に、海斗は慌てて手を引っ込めた。
「気持ちいいからいいけどさ、勘違いするぜ」
「ごめん、僕が全部悪かったんだね」
海斗がしょんぼりすると、伊吹がくすっと笑った。
「俺だけにしてくれるなら、いいけどね」
「気をつけるよ」
海斗の言葉を聞いて、伊吹はごろりと背中を向けた。
「伊吹?」
「もう、寝るよ。明日朝一番に家に帰る」
「うん…」
海斗の声を聞きながら、伊吹はじっと息を殺していた。
背中越しに海斗が横になったのが分かった。
伊吹は、くるりと振り向いて抱きしめたいのをこらえながら、壁を睨み続けた。
ここで、一度完結いたします。すみません、完結するつもりだったのですが、うまくいきませんでした。続きは、再度プロットを練り直して完結に向かって頑張ります。
ここまで、読んで下さりまして、ありがとうございました。




