弟
「ちょ、ちょっと待って…。お前、彼女がいるんだろ」
「女とは別れた。誰とも付き合ってない」
「嘘……」
「嘘じゃない」
「じゃあ、何で昼間電話しているんだ」
「あれは、海斗に妬いて欲しくて…」
「はあっ?」
その言葉に海斗はかっとなった。
「バカっ」
「いてっ」
頭をげんこつで殴ると伊吹が頭を庇った。
「バカっ、このバカ野郎っ」
何が妬いて欲しくてだ。
楽しそうな顔を見て、心が掻き乱されたのに。
「僕に触るなっ」
パシッと伊吹の腕を払いのけた。
「何でだよっ」
伊吹が焦って、逃げた腕をつかみ寄せる。
「お、お前が悪いんだろっ」
海斗の声が震えた。
「ごめん。ねえ、妬いた? 怒ってる?」
「ふ、ふざけるなっ」
沸騰しそうなほど体が熱くなる。
「何で怒ってんの? 俺が好きだから?」
伊吹が強引に海斗を抱き寄せようとする。
もがきながら海斗は怒鳴った。
「伊吹っ」
何で怒っているのか分からなくなってきた。
「俺の事好きなんだろ?」
伊吹が自信を持って言う。
その自信はどこから来るんだろう。
海斗は耳まで真っ赤になって首を振った。
「お前は弟……」
「弟じゃない。海斗、俺の事好きだって言っただろ。キスもしたんだぞ」
身に覚えのない事を言われてギョッとする。
「し、してないよっ」
「したんだよ。熱に浮かされて俺の事が好きだと何度も言ってキスもした。海斗が覚えていないだけだ」
覚えていない……。
海斗は青ざめた。
「俺、あの時まで海斗の事は意識してなかった。でも、キスされて、女とするのと違ってびびった。海斗
のキスの方がずっと気持ちよかった。海斗しかいないんだよ。俺の事、こんな風にさせるの海斗だけなんだよ」
「な、何言っているんだよ…」
「なあ、もう一回試したい」
そう言って伊吹の唇が近付く。
海斗は逃げ場をなくして壁に張り付いた。
「お、お前、男は嫌だって……」
「他の男は嫌だ。でも、海斗は違う。海斗の代わりなんかこの世にはいないし、好きだって気付いたから、自分のものにしたいんだ。キスさせろよ」
伊吹が囁いて顔を寄せる。
海斗はきゅっと目を閉じた。息がふっとかかり唇が塞がれる。
初めてのキスに酔いしれる。
「やっぱり海斗とするキスは感じる」
伊吹が唇をなぞりながら呟いた。
海斗が真っ赤になって伊吹を押し返した。しかし、伊吹は離すまいと海斗を抱き寄せた。
「言えよ。どうして欲しい? 何が欲しい? 今まで甘えてきた分、お返しに望むものをやるよ」
「な、何を言って……」
「甘えろよっ。俺が聞いてんだから、して欲しい事言えっ」
強く命令されて、身震いがした。
「そ、そんな事……」
ためらっていると、伊吹はますます目を吊り上げた。
「てめえ、俺の言う事が聞けねえのかよ」
まるで脅しのようだ。
海斗はぶるっと震えてから呟いた。
「やめてくれ…」
「嘘だろ?」
伊吹が笑って頬を寄せる。海斗は、唇を強く噛みしめた。
涙が出そうだったが、食いしばりもう一度言った。
「やめてくれって言ったんだ」
伊吹が急に真顔になり、体を離す。顔は青ざめて見えた。




