解放
朝、目が覚めると、伊吹は家に電話をかけていた。
ぼそぼそと言っている内容は、海斗の部屋にずっといるから、などと勝手な事を言っている。
「伊吹っ」
目を吊り上げて怒ったが、
「怖くねえんだよ、てめえは」
と伊吹は電話を着ると、ベッドに寝転がった。
それから伊吹は、ここが自分の部屋であるかのように振る舞った。
気が付けば前のような生活に戻りつつあり、海斗は追い詰められていた。
ふとんは小さなシングルベッドしかなくて、仕方なく二人で眠る羽目になってしまう。
夜だけでなく、ひと時も離れようとしない伊吹に手をこまねいては、追い出せない自分に腹が立った。
眠れるはずがなかった。
伊吹の背中は自分の背中にぴったりくっ付いている。
窮屈なベッドでは寝返りを打てばキスしてしまいそうなほどに近い。
海斗は伊吹の熱を感じて大きく息を吐いた。
伊吹は健やかに寝息を立てている。
日曜日、彼は彼女と電話をしていた。楽しそうに笑っていちゃついている。海斗は限界を感じていた。
その日は、伊吹はどこにも出かけず、夜は一緒に寝た。
「ん……」
伊吹が寝返りを打った。
海斗が少し体を離すと、伊吹の手が指に触れた。しびれたようにびりっと電気が走る。
もう、ダメだ…。
海斗がふとんから抜け出そうとすると、伊吹がその腕をつかんだ。
起きていたのだろうか。海斗は驚いて伊吹を見た。
「どこに行くんだよ」
伊吹は目を開けてこちらを見ていた。海斗は首を振った。がくりとうなだれると、海斗は呟いた。
「出て行って……ほしい…」
「え……?」
「伊吹が一緒にいると眠れない。もう、お前の兄でいる事に疲れた。友達でも先生でも、幼なじみでもない」
低い声で言うと、伊吹の手が震えた。それが海斗にも伝わった。
「嫌だ……」
「伊吹、いい加減にして。僕を解放して」
「解放って…、どういう事だよ」
伊吹の声がかすれている。
「伊吹」
目線を上げると、伊吹がまっすぐに自分を見ていた。
「嫌だ。死んでもこの手は離さない」
真剣な表情で伊吹が言った。
「どうしたら、海斗はもう一度、俺の事を好きだと言ってくれるんだ?」
「え?」
今、何を言ったのだろう。
「何をしたらいい? 海斗は何を望んでいるんだ」
「伊吹、何を言って……」
「海斗っ」
そっと腕を引き寄せられて抱きしめられた。
「伊吹?」
いつもと様子が違う。強く抱きしめられて、息ができない。
「伊吹、苦しい…」
もがいたが動けなかった。
「好きだ」
「え……?」
「海斗が好きだ。海斗が必要なんだ」
好き? 僕の事を好きって言った?
海斗の頭はぐるぐる回りだした。




