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眠れない



 その夜、海斗は目を開けたまま見慣れない天井を見つめていた。

 部屋の中は冷たくて息を吐き出せば白い息が舞った。

 眠れなかった。

 今も伊吹の声が張り付いて忘れられない。

 どうしてあんなひどい事を言ってしまったんだろう。

 伊吹を傷つける事は絶対にしてはいけなかったのに。

 まだ、彼は十六歳なのに。

 海斗はむくりと起き上がった。

 いても立ってもいられずベッドから這い出ると、部屋の中をうろうろと歩き回った。

 ひどい事をしたと言う自覚があった。

 もっと優しい言葉をかけてあげればよかったのに。

 すると、海斗は何を思ったのか、ソファにかけておいたマフラーを首に巻いて、コートを羽織った。

 飛び出すように玄関に向かい、チェーンを外して外へ出る。


 どこへ行くのか。


 伊吹に謝りに行くのか。

 自分の行動が信じられなかった。

 鍵を取り出そうとカバンを探っていると、


「海斗っ」


 と言う声に顔を上げた。


 廊下をかけてくる相手に抱きつかれ、背中を打ち付けた。見上げると伊吹がいた。


「伊吹……」


 伊吹がドアを開けて二人は足をもつれさせて中に入った。


「海斗っ」


 ぎゅっと抱きしめるのは伊吹だった。


「夢……?」


 ぼんやりと伊吹の頬に手を当てると、本物だった。


「どうしてここに……?」


 冷たくなった伊吹の頬を海斗は温かい手のひらで包み込んだ。


「冷たい……」

「小母さんに聞いた」

「どうして…」

「今すぐ戻って来いよっ」


 伊吹がわがままを言う。

 海斗は無意識に首を振った。


「戻れない」


「何で? そんなに教師になりたかったのか? 俺より教師の仕事の方が大事なのか?」


 そうじゃない。そうじゃないんだ。


 何度言いそうになっただろう。


 隣で眠る伊吹の唇に触れて、キスをしたい。

 胸に頬を押し付けて心臓を聞きながら眠りたい。

 ひとつになりたいとどれだけ願って、身悶えする夜を過ごしたか。

 海斗は、なぜ伊吹から離れようとしたのかを、彼の言葉で思い出した。


「立って、伊吹」


「海斗っ」


 伊吹がぎゅっと腰に抱きついた。

 海斗は身動きが取れなくて戸惑った。


「てめえの代わりなんかいない。海斗じゃなきゃ嫌なんだ」


 ぶるるっと体が震える。

 ダメだよ伊吹。そんな事言っちゃダメだ。

 海斗は歯を食いしばると首を振った。


「伊吹、もう今夜は遅いから寝よう」

「戻ってくるか?」

「いいから……。早く寝よう」


 渋る伊吹にパジャマを渡す。


「これを着て」

「こんなのきつくて着れねえよ……」


 ぶちぶち文句を言う伊吹をなだめ、ベッドに押し込んだ。


「隣で寝ろよ」


 伊吹が起き上がろうとしたが、海斗は首を振った。


「練習しよう」

「まだ言ってんのかよ…っ」


 ムッとしたように伊吹が目を吊り上げた。


「頼むから、伊吹」


 海斗の複雑そうな顔を見て伊吹は押し黙った。ぷいと背中を向ける。

 その子どもっぽさに海斗は笑って、伊吹の頭を撫でた。


「伊吹の事大切だよ。本当だから信じて」


 そう言うと、伊吹は小さく頷いた。

 海斗はいつまでも伊吹の頭を優しく撫で続けた。





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